制裁探偵事務所―紅― 『七色の魔法使い』8
「・・・来たね」
にやりと笑うのは、青薔薇アルト。
「君は、何て呼べばいいのかな?」
対峙するのは、細菌。
「おれは、細菌だ。それ以外の何者でもない」
「は、かっこいいね」
まるで意思を持たないかのような態度。
「・・・紅はどこだ」
「うん?心配しなくていいよ。ちゃんと地上に戻しておいたから」
「――!?」
細菌は困惑した。
「ち、地上だと・・・」
「あぁ、そう言ったはずだけど、聞こえなかった?」
「くっ」
「そう睨むなよ――すぐに行けるさ、君・・・達、もか」
「!」
言葉を聞いて、察した。
振り向けば、英雄の姿。
「え、ど、どうして」
完全に顔を見られた。
「ちっ――」
「君の設定は知っているよ、フェンリルくん」
「・・・」
にやにやと笑うアルト。
細菌も、笑う他なかった。
「礼を、言わざるを得ないな」
「よしてくれ、敵どうしだろう?」
そして
「あははははははははははははははははは!!!!!!!」
「はははははははははははははははははは!!!!!!!」
大いに哄笑した。
「いっ――!?」
英雄は驚愕したが。
「っていうか、狼男さん!?どうしてここに――」
「ん?何を言っているんだ命くん、いや、英雄?」
親指を自分へと向ける。
「弟子のピンチに、師匠が出向かない訳が無いだろ!」
「―――!」
英雄は目を輝かせた。
「師匠!」
そして抱きつこうとする。
細菌は軽くかわす。
「挨拶は後だ。それよりも、目の前の目標に焦点を当てたらどうだ」
言って、アルトを強く睨む。
「まさか、おれの最新モデルがいるなんてな」
それに、アルトは笑顔で答える。
「誰にでも、いるものだよ。恋達と、同じようにね」
その会話の意味は、英雄には理解できなかったが
「行くぞ英雄」という細菌の声に、構える。
「はいっ!!」
二人は、同時に走り出した。
「―――!」
それを見て、嬉しそうに笑うアルト。
そして、ステッキを取り出した。
「――!?」
一瞬の判断では処理しきれない、それは――細菌にとって、どこか覚えている感じがあった。
「『赤』の『纏杖』。君には、見覚えがあるんじゃないのか?フェンリルくん」
「『赤』・・・?」
少し、思考して
「―――!」
理解した。
「英雄!跳べッ!!!」
聞くや否や、予想通り、その杖からは滾るような豪炎が放たれた。
「英雄!!!」
決死に叫ぶ。
英雄は着地した瞬間、上へ飛んだ。
「はぁああああああ!!!!!」
天井に足をつき、重力を重ねた飛び込みの平手打ち。
これは、細菌が教えた技だ。
「ふっ――」
後ろへ軽く跳び、アルトはそれを避ける。
それを見た英雄はくるりと体を縦に回し、ものの見事に着地した。
「そう、そうだ!」
細菌は嬉しそうに叫ぶ。
アルトが炎を纏う。
「行くぞッ!」
英雄の背後からダッシュしてきた細菌は、英雄の肩に足を乗せ、踏み切った。
その時、英雄は同時に踏み切る。
とてつもない速さが出来上がった。
アルトが作った炎の壁を、銃弾のように突き抜け、右ストレートを狙う。
「はぁあ!!!」
アルトは笑った。
反時計回りに体を回転させ、細菌の突き出た右手を掴んで投げ飛ばした。
「ぐっ」
唸る細菌。
英雄の正面を向く。
目と鼻の先に、英雄は居た。
「――!」
驚くアルトだったが
普通に防御してやればいい。
両手を組み、英雄の頭を抑える。
勢いを殺したところで押し返し、一歩踏み込んで、『纏杖』で突いた。
「ぐぁあっ!!」
地に足がつかないまま、英雄はそのまま吹っ飛ばされた。
「ふぅ・・・面白いね」
あはは、と笑うアルト。
「でも、まだだね。君達は本気を出していない。本気を出しても倒せない相手に、本気を出さずに挑んでどうするんだい」
立ち上がる二人。
「・・・るせぇよ、アルト――それは、こっちの台詞だ」
細菌が言った。
虚勢などではない、本気の目だった。
「ふふふ」とアルトは笑うだけ。
「お前、多分だが、その『ピアス』『指輪』『服』『腕輪』全部、その『纏杖』と同じように、『何か』を作り出せるんだろ?」
「おっと、これはすごいね・・・何もしていないのに、バレちゃったよ」
驚いた様に両手を広げる。
ステッキを右腕に掛けて。
「85点だよ、フェンリルくん。一つ足りないね。なんだと思う?」
「・・・『眼』だな」
「正解」
目を閉じて笑って、開く。
左目が、青から赤に変わっていた。
「やっぱりな・・・英雄、来るぞ」
「・・・」
先ほどから黙っていた英雄は、常に突撃するチャンスを伺っていたが、目を閉じた時でも、隙は見当たらなかった。
なぜか、その理由は、次の一瞬で理解することになった。
「ははッ!!!」
少なくとも、英雄が知らない物質で出来たその壁。
かなりの硬さを持つその壁が、崩壊した。
一瞬だけ、アルトが言い放った直後、アルトの体を青白い『稲妻』が覆っていた。
それが、強烈な閃光を放ち、その壁を崩壊させた。
「なっ――!」
まず浮かんだのは、ここが海のかなり深いところにあるということ。
次に浮かんだのは、水圧のこと。
次に浮かんだのは、水流のこと。
その心配要素は、結局のところ意味をなさなかったけれど
どうやら壁一枚だけではなく、あといくつかの空洞で覆われていることを知った。
知った後に浮かんだのは、なぜ自分達にはダメージが無いのかということ。
これほどの壁を崩壊させた雷なら、一瞬で倒すこともできたはず。
何故しなかったのか、遊んでいるのか?
逆に考える――その雷が、人間の体を突き抜けても害のないほど微弱な雷だとしたら、
この壁が、微弱な雷で崩壊するものだとしたら。
「英雄ッ!!!」
思考が切断された。
細菌の叫び声によって
「前ッ!!」
確認する。
水だ。
「へっ!?」
その場所は、水で覆い尽くされた。
というか、追放された。
部屋を抜け、水の流れの行くまま
「こっ、この水は――」
「アルトの仕業だ――」
激流。
息をするのが精一杯だ。
しかし、このまま行けば、ソプラと守人と白黒暴徒の戦闘に出くわしてしまう。
細菌は思った。
命と違ってあの二人は勘がいい。
おれが一昨年日露璃だということがバレてしまう危険性がある。
おれは正体がバレてはいけない――これは、前提としての決定事項だ。
焦る。
だが、いつまでたってもその戦闘に出くわすことはなかった。
どころか、入口へ戻ってしまった。
「ここは――」
入口直下の、あの道(?)だ。
しかし、水の勢いは衰えることを知らず、流れは上へと変わった。
「くっ――」
余計息がし辛くなる。
10秒。
たった10秒で、海面上の扉を抜けた。
まるでどこかの絵本で見た、鯨の潮吹きのように噴出された水と細菌と英雄。
そして、『着地』した。
「え?」
噴出されたため、着地と言えるような鮮やかではなかったが、そこには『地面』があった。
「な、なん――」
そこで思う。
もう引き始めている水がアルトの力なら、この地面も――
「恐らくご名答だよ、英雄。そして、フェンリルくん」
目の前に、居た。
「い、いつの間に・・・」
「おいおい、謎を作りすぎるのは良くないよ。一つ一つ解決していこう」
にこっ、と笑うアルト。
「まず、あの水だね――あの水は、この『指輪』なんだけど、名を『理酒』と言う。君達のお仲間さんの一人、『罠師』である守人に倒された『紫』の物。水を操るんだ」
「でぃ、守人が」
「次に、なぜその守人と、メイドさん――白黒暴徒と父さん・・・あ、父さんはソプラのことね。その三人の戦闘に出くわさなかったのか」
まるで心を読んでいるかのように、淡々と言うアルト。
「簡単だよ、すこし道を弄ってやればいい。僕には簡単なことだ」
簡潔に言う。
「次だ、なぜここに地面があるのか。これは、英雄。君が戦った『灰』の物。『逆月』の力だ。これは、土を操る」
「え・・・」
英雄は少し戸惑った。
「『逆月』は、盃の――」
「ああ、言い忘れていたね、元々の形は仮の形なんだ。まるで王道バトル漫画のラスボスのようにね」
「・・・?」
その例えは、細菌には伝わらなかったが。
「でも、フェンリルくん。君には分かっていたんじゃないかな?あの『纏杖』と炎を見たときに」
「薄々な――でも、確信に変わったよ」
「そう、それは良かった」
そして続けるアルト。
「さぁ、第2Rだ。この『島』を『人災島』と名付けよう。この人災島のどこかに、銃器式紅一点――戦ヶ丘紅がいる。それを見つけ出せば君達の勝ち。その前に君達を殺すことができたら、僕の勝ちだ」
「――!」
驚く英雄も、喋るアルトにも目もくれないで、空を見る細菌。
「今日は、新月か」
それは、彼にとって、最高のニュースだった。
「今日のおれは、ツいてるな」
「ん?何か言ったかい?フェンリルくん」
「いいや、でも、その戦闘を始める前に、一つ聞かせろ」
「なんだい?」
「なぜ、あの時、おれ達を殺さなかった」
あの時、それは、雷を発動させた時の『謎』
「おそらく、君が思っていることが正解だよ」
「答える気は、無いか」
はっ、と笑う細菌。
いや、フェンリル。
「そういや、今おれが言ったことを教えてやるよ、青薔薇アルト」
「?」
「この勝負、おれの――おれ達の、勝ちだ」
フェンリルは、まるで野獣のように、喰らうように笑った。
その眼は、全てを威圧するような――彼の封印は、ここで解かれた。
今夜限りの、百獣の謝肉祭――開演。




