制裁探偵事務所―紅― 『七色の魔法使い』7
「――よぉ」
日露璃、いや、細菌は既に内部へと侵入していた。
「あんたが、『屍』か?」
「ああ、そうだ」
屍薔薇と、遭遇していた。
「今んところ、殺気とか、闘気とか、そういうの感じねぇんだけど――何?おれの事は無視みたいな感じか?」
「いや、お前に用があるのは息子だ。我が関与する必要は無い」
「はん、そうか――なら、ここでおれがあんたに攻撃しても、あんたはおれに手を出せないってことか?」
「・・・お前は、何故、我と戦う?」
「・・・?何故?なぜって――なぜだ?」
「お前には、我と戦う理由など無いはずだ」
「・・・・・・」
「立ち去れ」
「・・・」
「失せろ」
「・・・なんだかよくわかんねぇが、あんたの言ってることは確かに本当だ。ここは行かせてもらう」
「・・・・・・」
屍薔薇の横を通過していく細菌。
細菌は、ソプラと戦う意思を、理由を、『屍』にされた。
「なぁんかしっくり来ねぇなぁ・・・」
これが、彼の感想である。
■ ■
二度目のダイビング(流石に叫ぶほどではない)を終え、一同は固まって動いている。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
会話は無い。
ピリピリとした空気が漂っている。
その眼光は鋭く、まるで刃物のようで。
ぴんぽんぱんぽーん
チャイムが鳴る。
後から
『ほいほーい!みんなのアイドルKOIちゃんだよぉおおお!!!』
と声が聞こえた。
「・・・」
英雄は手のひらは顔面に押さえつけている。
笑っているのだろう。
『英雄、守人、白黒暴徒。親愛なる事務所の仲間達へ』
文字に変えればまともに見えるだろうが、実際はふざけ散らかしている。
KYもいいところだ。
『道案内するから、言った通りに進んでねっ☆』
もはやツッコミすら無い。
『そこからまっすぐ――』と、そんな聞いててイライラするような厄介な道案内のおかげで、英雄達は屍薔薇ソプラと対面することができた。
「ふむ、守人、白黒暴徒、以外は先へいけ」
それが彼が発した言葉だった。
いくら質問をしても、微動だにしなかった。
「ちっ、しゃーねーな・・・!守人!白黒暴徒!後は任せたぞ!」
と英雄は走り去っていった。
「全く、かっこいいですねー英雄は」
「ええ、わたくしも同感です」
残された二人は、ソプラと対峙する。
「行きますよ・・・屍薔薇ソプラ!!」
「制裁を実行します!」
「・・・・・・」
それに対し、ソプラは、何一つ答えなかった。
しかし、そんな事は気にも触れず、白黒暴徒は手にした鈍器を大きく振りかぶった。
「らああぁっ!!!」
「――!!」
単純かつ大雑把で、尚且つ回避困難な攻撃だった。
しかし、ソプラが驚いたのはそこではない。
「貴様、何故、我と戦える」
『戦う意思』を『屍』にしたはずなのに。
それに対し、白黒暴徒はくすと笑った。
「わたくしに、2度目の攻撃は聞きませんの」
弾かれ、壁にめり込んでいる鉄球を引き抜く。
「ですから――」
がしゃん、がしゃん。と機械音がする。
「わたくし達も、同じ攻撃を連続して使うことはありませんわ」
ジャイアントパパラッチだ。
ソプラの背後に、守人が立っている。
「今度は、僕のターンです」
ピ、とボタンを押す。
ソプラの正面に登場したパパラッチの銃口が、ソプラに向けられた。
同時に、守人がパパラッチの背後に跳ぶ。
そして、放たれたのは、電磁砲。
ソプラはそのまま吹っ飛んだ。
「うぐぅ――ッ!!!」
守人が駆け足で白黒暴徒のところへ向かう。
「ぐ、ぐぐ」
ソプラが起き上がる。
「ぐぐぐぐぐぐががががががががががががが!!!!!!!!!!」
どうやら、笑っているらしい。
「面白い、面白いぞ小娘ども!我の屍を受け流すか!!!ががががががが!!!!!」
大いに哄笑する。
「さぁ、さぁさぁさぁさぁ!!!!もっと、もっと我を楽しませろ!ががが!!!」
「・・・」
守人は答えない。様子を探る。
「来い!戦士ども!!」
「―――ッ!!」
声にならない気合を放つ白黒暴徒。
鉄球側を持ち、金槌状になっている部分を叩きつけた。
それは、勿論のこと、とてつもない衝撃を伴う攻撃だったが。
しかし、彼女は、まだ本気を出していない――スタイルを発動させていない。
スーツのままだ。
一方守人は、先ほど英雄に『頼まれた』ため、スタイルは発動している。
「ががががが!!」
白黒暴徒が放った攻撃をいとも簡単に受ける、いや、衝撃を殺すソプラ。
「我への衝撃をすべて『屍』と化した!これでもう貴様達の攻撃は通じんぞ!」
「それはどうでしょう」
守人が取り出したのは、ナイフ3振り。
「行きますよ」
両手に1振りづつ、もう1振りを口に加える。
「ががが、だから、攻撃はもう我には――」
嘲笑するソプラ。
それを聞いて、守人は不敵に笑む。
「攻撃が通じないなんて、誰も言ってませんよ?」
少し手前――ソプラの少し手前で、少なくとも守人が手を伸ばしても届かない所でバックステップをする。
「!?何を――」
「BAAAAAAANG!!!!!!」
驚く暇もなく、右手が持っていたナイフの刃が、飛んだ。
まるで銃のように、発射された。
「ぐっうううう!?」
その刃は、確実に心臓を狙っていた。
しかし守人は、左手に握っているもう1振りのナイフを構える。
ソプラはその一瞬で左手を胸の前に出し、防御した。
それを確認する前に、守人は左手のナイフの刃は発射させた。
「ぐっ、うううううう」
その二つ目の刃はソプラの左腕の筋を狙った。
「ぐぅううああッ!!!」
それに気づくソプラ。
左腕を精一杯捻る。
筋を切ることは無かったが、ナイフの刃が二つ腕に深く刺さったことは確かだ。
「ぐ、うぅ、うぅ」
肩で息をするソプラ。
「ぐぐぐぐぐ、ぐぐぐぐ」
そして震えだす。
「があああああああああああああぁぁぁぁあああ!!!!!」
叫んだ。
辺りの壁がその衝撃で揺れる。
「なるほど、衝撃ではなく『斬撃』か」
と、笑う。
「次は、我の番だ」
そう言った。
瞬きなど、戦いの最中にするわけがない。
ただ、その時は目を疑った。
屍薔薇ソプラが、消えたのだ。
「え・・・」
視界から、漠然と。
「がががが」
気づけば、先程まで居た位置にもどっていた。
「なん・・・」
「その面倒な機械と、我への『斬撃』を『屍』にした」
「・・・」
「さて、次はどう出る?」
笑うソプラ。
「衝撃と斬撃が聞かないなら――」
白黒暴徒が言う。
「電撃、ですか?」
パリッ、と音がして、そのすぐあと、轟音と共に爆発が起こった。
「ッ!」
ソプラは何かを言う間もなかった。
その場に倒れる。
「白黒暴徒・・・あんた」
気づけば、白黒暴徒はいつの間にかエプロンドレスを着ていた。
「いつの間に」
「わたくしのスーツは表がスーツ裏がエプロンドレスの特別仕様です」
「はぁ・・・」
呆気にとられる守人。
「で?今は何をしたの」
「先ほどの、この機械から出されたものと同じ原理ですよ」
「え?」
「ただ、わたくしは電流と電圧で電気を飛ばしたのですけれど」
「・・・」
守人は理解を放棄した。
「ががが、電気とは、我も盲点だった」
「!」
ソプラが立ち上がった。
「な、なんで――」
「ふ、不死身なのか?」
「・・・一つ勘違いをしているようだな、ががが」
一歩前に出て、言った。
「我は、すでに『屍』だぞ」
と、堂々と言った。
「つまりは既に死んでいる、又は初めから我は生きていない」
「え・・・」
「・・・」
「さぁ戦士ども、『屍』の我を、どう薙ぎ倒す?」
期待たっぷりの笑みには、確かに、生気は感じられなかった。




