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制裁探偵事務所―紅― 『七色の魔法使い』4


「――どりゃァッ!!!」

ルイン、赤薔薇ルインが杖を振るう。


ルインの背後の翼の様な炎が細菌(ウィルス)を狙う。


「くっ!!」

それを辛うじて避ける細菌(ウィルス)

もう息が上がっている――今の回避も少しかすれていた。

「はぁッ――はぁッ――」

荒々しく呼吸する。

そして、息を飲み、呼吸を整える。


「ふむ」


そこでルインが口を挟む。

「『成功』も、こんなものか」と、

「儂の見当違い、勘違いだったようだな。全く」

「成功?どういう意味だジジイ」

「意味?それは貴様がよく分かっておるはずだぞ細菌(ウィルス)

「・・・」

深く息を吸い、ゆっくりと吐く。

無駄に広い部屋の中央に向かい、風が吹いたような気がした。

「まだ、何かをする気か?」

「あぁ、まだやってないこともあるんでな」

笑う。

「なら、受けてやろう」

「気に食わねぇなぁ。気に喰わねぇよ赤薔薇ルイン!!」

陸上競技にてよく使われる、クラウチングスタートの体制。

そこから、そのまま、走った。


――否、駆けた。


「むぅ!?」

今まで冷静を保ってきたルインの表情に余裕が消える。

そう、今まで。

今まで、細菌(ウィルス)は何百回とルインにぶつかっていた。

それを全て、涼しげな顔で、阻まれたのである。


まるで、悪魔を見ているかのような、豪炎で


「ぐ、くううううぅぅぅ!!」

一瞬の反応、反射。

ルインは手に持つ杖を咄嗟にガードに使った。

「――――!!!」

しかし、音もなく、光もなく、ましてや――防ぐこともできずに


向かいの廊下に、ねじ伏せられた。


一瞬遅れて、轟音が部屋を反響する。

なるほど――音速を、超えたのか


「これが――『成功』」


「何笑ってんだよ」

無意識の内に、口元が緩んでいた。

「しかし、おれの周りにゃ変人しかいねぇな、こんなの、痛くて辛くて死ぬだけじゃんか」

はぁ、と露骨にため息をつく細菌(ウィルス)

「なんで、笑えるんだよ――お前達は」

「知らぬな」

くくく、と苦しみながら無理に喋るルイン。

まさか、この一瞬で勝負がつくとは――あっけない。

「笑って死ぬほど、楽しいのだろう」

「楽しい?死ぬのが?馬鹿じゃねぇの」

その場に胡座をかく細菌(ウィルス)


「百歩譲ってお前がもし死を楽しいものとしても、お前の周りはどうなんだ」


「周り?」

その発音に、ルインは首を傾げる。

意識が朦朧としてきた。

胸が涼しい、穴が空いている。

血が足りないな。


「周りなど、『ラフレシア(この組織)』に入った時点でもう無い。そんなものは」

「そうか、悲しいな」

「悲しい、そうか――つくづく貴様は、『成功』だな」

笑いながらも、死の淵を歩く感覚。

「その力を持ってして、感情が抱けるか、同情ができるのか――最高だよ、貴様は」

「ふん」

そんなことは知ったこっちゃない、と言わんばかりに鼻で笑う細菌(ウィルス)

「『成功』ね。実感はわかねぇけど――


失敗ってのは、どんな気分なんだろうな。


おれはまだ、未経験だ」

「そうか、それは、悪くないな」

「はっ、そうかい」

二人で、笑い合う。


何故か、もう感情を捨てたはずのルインに、楽しいという想いが芽生えた。


「所詮は、失敗作か」

「あ?」

「いや、何でもない」

こうして『成功』という存在と笑い合えたことが、素直に嬉しいと思った。


「『成功』、いや、細菌(ウィルス)

「あ?なんだよ」

ぎりぎりの所で、もう、その場から、足を離した所で――


「『成功(そこから)』の景色は、どうだ」


と聞いた。

聞いた時点で、ルインの全ての器官が停止した。

細菌(ウィルス)もそれには気づいただろう。

それでも構わずに、ルインに答えた。



「――最悪だぜ」



そう言って、彼は、開いたままのルインのまぶたを閉じ、その場を去っていった。


少なくとも、細菌(ウィルス)もルインと、同じ気持ちでいたのだろう。



■      ■



廊下。

無骨な殴り合いの音が響く。


「だららららららららァ!!!!」

「はぁああああぁあああ!!!!」


英雄(ヒーロー)と灰薔薇マドウ。

英雄(ヒーロー)と言っても、スタイルは使用できていない。

今の英雄(ヒーロー)は、ただの男子だ。

16歳付近の、男子。


それに対し、相手はいわばプロフェッショナル。

灰薔薇マドウ――手にしていた『逆月』を器用に使いこなす。

そんな彼女に、英雄(ヒーロー)は勝つことなど、ましてやつり合うことなどまずないはずなのだ。

それなのに、何故、彼は戦えている?


それは、多分、いや確実に――今の英雄(ヒーロー)の師匠という存在、『狼男(フェンリル)』だ。


「おおおおおおああああぁああ!!!!!」

しかし、最早技名を叫ぶ余裕などあるはずがない。

「あああああああああぁぁああ!!!!!」

それは、相手も同じようだった。


決して英雄(ヒーロー)モードの時より早くはないが、その複雑な攻撃対象の入れ替わりは、常人とは言えなかった。


つまり、灰薔薇マドウも、苦戦していた。

時に、『逆月』を攻撃に使用し、防御に使用し、回避に使用する。

無論、『逆月』の本当の戦い方は、別にある。


ただ、ここでは使えないだけだ。


大地の無い、この施設では。

だから、実質、彼女の勝率は非常に低い。

いつ、英雄(ヒーロー)が本気になるか分からない上に、自分が本気で戦えないのだ。


ただ、そんなものは言い訳でしかなく、それは彼女のポリシーに背くので、口にしない。

正々堂々と威風堂々と大胆不敵に――闘う。


しかし、その時間も、長くは続かなかった。


ガードに使用した、『逆月』を、弾かれてしまった。

その衝撃故、体制が崩れるマドウ。

マドウに背を向け、足を伸ばした体制の英雄(ヒーロー)だが、すぐに構える。


腰を深く落とし、腕を引いた。


咄嗟にガードするマドウ。

しかし、彼女が守ったのは、胸。


英雄(ヒーロー)が狙ったのは、顔だった。


「ああああぁぁぁぁぁぁああああ!!!!!」

咆哮を上げる。

その、闘いに終止符を打つために


狙いを澄ましたその一閃――


マドウの脳を、直接刺激した。

「があぁ・・ああぁ」

しかし、それでも英雄(ヒーロー)の攻撃は止まらない。


クラクラと揺れているマドウの、がら空きの腹に、逆の腕で――一閃した。


「―――がはぁッ!!」

人を殴ったものとは思えない音を立て、マドウは壁に叩きつけられた。


「・・・最初に見たとき、思ったんだ」


英雄(ヒーロー)が口を開く。

「あんたと戦えば、何か、見えるって」

マドウは聞いているのか聞いていないのか、反応を示さない。


「だから、小細工なしで、精一杯戦った」


英雄(ヒーロー)は、マドウに一礼した。



「おかげで、俺のスタイルの秘密が分かったよ――ありがとう」



そういって、床にうつ伏せに倒れ込んでいるマドウを仰向けにし


「どうか、安らかに」


と、英雄(ヒーロー)モードでしか出せないようなスピードで、彼女の心臓を狙った。

体は貫かれることなく、綺麗なままに、内側から停止した彼女。



そして英雄(ヒーロー)は、何も言わずに去っていった。


■      ■


「紫薔薇シト・・・!正直、舐めていました!!」


その水槽のような部屋は、一面が水で埋もれていた。

水を自在に操るスタイルを持つ、『理酒』

そう守人(ディア)は推理した。


「・・・」


シトは笑わない。

まるで氷のような表情で、ただただディアを睨みつける。


対する守人(ディア)も、ただでさえ水には不向きなスーツ姿で、その水の荒波をしのいでいる。

そう、荒波。


シトは水の上に立っているだけ。


その大量の水の、各部各部の水圧等々を操っているのである。

「くっ・・・」

水の中なので、口は開かないが。


正直、限界が近い。


どれだけ時が過ぎたか覚えていない。

くそ、僕としたことが。


何とかして、彼を仕留めなければ。


しかし、もう守人(ディア)には使える道具が無い。

いや、あるといえばあるのだが、使いこなせる道具が無い。

命から貰ったライター、紅から貰った手榴弾、凪沙からもらった鎖。


例えば、鎖の先端に何とかして手榴弾を取り付け、シトの足元に位置させ、ライターで火をつける。


簡単な方法だが、その分リスクが高い。

まず、そんな長い間息をしないことが無理。位置させた手榴弾に気づかれればおしまいだし、第一火がつかない。


「・・・」


考えろ。

何か、突破口があるはずだ。

守人(ディア)は、シトの死角で息を吸い、周りを見渡す。

シトは、水を操れると言っても、水で相手を感知できるわけではないようだ。

「・・・」

それと、まだ守人(ディア)にはもう一つの武器がある。


コルトパイソン、つまりは拳銃。


完全防水のケースに入っているから、まだ使えるはず。

一度打ってみようとしたけど、シトは殺気に敏感らしく、どうにも標準が合わず(なにしろ水の中からの狙撃だ)結果、波に飲まれてしまった。

何とか銃は無事だったが、水を大量に飲み込んでしまった。

相手の体の中の水も操れるなんて能力無いよね?


銃を使うのは正直嫌いだ。ただ、今回はそんなことも言って入れない。

何しろ生命の危機なのだ。


馬鹿広い部屋の、壁に手を触れる。


その壁を観察する。

一枚の板が、隙間なく埋め込まれているようだ。

一枚、2m程度か。


いける。


ライターを何十回もジッポーし、やっと火が付いたところでシトの正面から投げる。

シトも気づいていたらしく、簡単に避ける。

そして、守人(ディア)が後ろへ回り込むだろうと思い、振り向く。


と、推理した。


そのまま移動せずに、ただ色がわからない深さまで潜れば、認識は不可能。

投げた瞬間、体に巻きつけておいた鎖を引きまくる。

すごい勢いで潜水していく。

だから、シトは気づかなかった。


正面にて浮遊する、ピンを抜かれた手榴弾も。


ドゴォン


爆発音。

シトは驚き、振り向く。

手榴弾の欠片も飛んできたが、それは全て外れた。

水しぶきが巻き上がり、消えたところに、


銃を構えた、守人(ディア)の姿。


爆発によって外れた板に乗っている。

「くっ――」

一瞬の出来事で、身動き出来ないシト。


「卑怯者がッ!!俺ァそれが死ぬほど嫌い――」

「違います」


シトの怒りの咆哮を遮る守人(ディア)



「これは罠です。罠にかかった、あなたの負けです」



バァン。



その銃弾は、シトの脳天を直撃した。


言葉もなくして、シトは息絶えた。

次第に、水が引いていく。

最後には、守人(ディア)と、シトの息絶えた姿が残った。


「さようなら紫薔薇シト。僕はあなたのような人が、死ぬほど嫌いでした」


そう吐き捨てて、守人(ディア)はその部屋を後にした。



■       ■



「・・・・・・うぅ」



白黒暴徒(メイト)は、倒れていた。

明かりのついたその部屋には、一つの肉塊と大量の血液で出来た池が出来ていた。



黄薔薇隼までは、順調だった。



第三者の介入によって、その戦闘は『屍』と化した。



「お助けに行くことができないことを、お許し下さい・・・」

そのまま、死んだように、気を失った。


まだ、息はしている。


屍薔薇。

彼は、全てを屍にする力を持っている。


白黒暴徒(チェックメイト)は、その手に掛かり、屍となるのはギリギリで避けたが――半分、持って行かれた。


戦う意思を、屍にされた。


白黒暴徒(メイト)は戦う理由を見失い、ここに倒れたのだった。



■        ■



戦闘が終わり、倒れたのは(ルージュ)の方だった。



「く・・・そ・・・」

体に力を入れようとも、入らない。

正面にて、膝をつく少女、白薔薇クラン。


「う・・うぅ・・・」

彼女もまた、疲労困憊だった。


「な、なんてことをするんだ・・・ここは、深海だぞ」


少女らしからぬ口調。

無理もない。


(ルージュ)は、この施設内で、ロケットランチャーを使ったからだ。


なんてことする。

「バカじゃないのか・・・?」

話しかけるも、返事は無い。





「ひぐッ――!!?」




急に、声にならない悲鳴をあげたクラン。

そして、そのまま屍になったかのように崩れ落ちた。


「眠れ、最強の光、『白』白薔薇クラン」

男は、屍薔薇ソプラ。



「『銃器式紅一点ブラック・イン・ルージュ』。共に来てもらう」



彼は(ルージュ)を、拉致した。




この話は、後編へと、続いていく。






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