放火魔の場合(下)
「おら、どうした?さっさとかかってこいよ」
『遊炎魔』こと太刀風火奈兔は、燃え盛る紅蓮の炎を背に言った。
「いや、その手には乗らないよ」
「はん、バレてるのか」
「生憎ね」
「でもま、この状況がいつまでも続くなんて、そんな展開は望んじゃいないだろ?」
「まぁね」
「いいよ、分かった。『この技』は一旦解いてやる」
「・・・・・・」
「その代わり、全力で来いよ。お前ら」
「いや、いいよ」
「あ?」
「『その技』は解かなくていいって言ったんだよ」
「はっ、なんだよなんだよ。せっかくのお節介を踏みにじりやがった」
「どうせ君も解除する気なんて毛頭ないんだろう?」
「バレてた?」
「バレバレ―――だよッ!!!」
音もなく。
会話が途切れる。
「『転んだ』ッ!!!」
「――ッ!!」
火奈兔が叫ぶ。
「狂兵器ッ!!」
蒼も叫ぶ。
火奈兔の背後から、大きな火の玉が飛んでくる。
「『火達磨さんが転んだ』何つってな!!」
「甘いよ!!」
それを蒼は、一瞬のうちに取り出した日本刀で斬る。
散乱した炎は笑うように消え去り、紅蓮の中から狂兵器が飛び出てきた。
「――――ッ!!!」
「らぁっ――!!!」
飛翔しながらのおお振りの横からの蹴り。
しかし、それは大きく空振る。
「はっ――ッ!!」
「――――ッ!」
狂兵器は体を下へと捻る。
「なっ、お前――!」
そして、蹴った方の足を地に付け――
反対の足を引き、
「英雄直伝―――闘牛の大角!!!!!」
体をそのまま打ち込むかのようなおお振りの拳を放った。
火奈兔はかろうじてそれを防ぐ。
「うぅっ!――ぐう、うおおおおおおおぉぉぉ!!!」
ごきごき、という嫌な音を立てた火奈兔の右腕。
「はぁ、やるじゃねぇかよ・・・」
「なぁ、もうやめないか、こんな争いは時間の無駄だ」
「あぁ?ふざけんなよ。この俺様がこの程度で諦めるとでも思うか?」
「駄目か」
「勿論だ」
そして、火奈兔は何かを取り出す。
「な、何だあれ」
「新型の拳銃か?」
「ばーか、ちげぇよ。こいつはな、チャッカマンだ」
「・・・」
一時凍結。
「は、はぁ?」
場違いにも程があるような声が狐から聞こえる。
「チャッカマンだよ。知らねぇか?BBQとかでよく使う」
「あぁ、それは知ってるよ・・・でもどうして」
「どうやって使うのかって?」
にたぁ、と笑う。
それを見て全員が緊張する。
「こうさ」
カチッと着火のスイッチを入れる。
そしてそこに現れたのはただの炎ではない。
まるでレイピアのように細くなった紅い物体。
いや、それは言うまでもなく、炎だが
「それは・・・」
「炎だよ。ただぁし、ただの炎じゃねぇ」
「限界まで収束された、炎ってことですか」
「さっすがねぇちゃんあったまいいー!」
「・・・それは、どうやって使うんだい?」
「っせえな、言われなくても――やってやんよ!!」
火奈兔は駆けた。
狂兵器を素通りし、蒼へと。
「くっ――!!」
「ばぁか、こいつは普通の剣じゃねぇ」
防御に使用した日本刀を素通りしたそれは。
斜めに、蒼の体を撫でた。
「ぐぅぁあッ―――!」
「ありゃ!?痛くねぇはずなんだが・・・分量間違えたかな」
「何の―――だよッ!」
狂兵器が咆哮と同時に火奈兔へと襲いかかる。
「熱、だよ」
静かに、火奈兔は構えた。
まるで銃でも構えるかのように。
「ま、まさかッ!」
「離れろ狂兵器!!」
「最初に言ってた『新型の拳銃』って意見。あながち間違ってはいないんだよね」
カチッ、と着火スイッチを入れる。
それはもう、引き金と言ったほうがいいかもしれない。
紅く細い炎が、音の壁を超え、狂兵器へと向かう。
「うぐぅうう――!!」
それは綺麗に、狂兵器の左肩を貫通した。
衝撃で、狂兵器は後ろへ吹っ飛ばされた。
「狂兵器!!」
「狐!!準備は!」
狂兵器は自らの傷口を抑えながら狐へと咆哮した。
「もう120%だよ」
狐は不敵な笑みを浮かべ、手に持ったマイナスドライバーをくいっと動かす。
パチィンと何かが弾かれる音がした。
そしてまたくいっと動かす。
パチィンと何かが弾かれる音がした。
右手に握られたマイナスドライバーをくいっと動かし、
左手ではピアノを弾いているかのように指が動いている。
「――今ので、200%」
今度は違う動き方をし始めたドライバーと指。
くいっ、と
ついっ、と
「今ので300%」
くいっ
「今ので400%」
くいっ
「今ので500%」
くいっ
「今ので600%」
くいっ
「700%」
くいっ
「800%」
くいっ
「900%」
くいっ
「1000・・・」
「なっ、何してんだ、てめぇ・・・」
チャッカマンの銃口を狐に向ける火奈兔。
「あぁ、動いちゃダメだよ」
「んだと?」
「死にたくないなら、ね」
狐は今まで細かく振っていたドライバーを、今度は大きく振るう。
ぶん、と
そして――
「なっ、なんだ!?」
それにより
「なにが、起こっている!?」
周りを囲む樹木が、一瞬のうちに全て切断された。
「なん・・・だと・・・?」
慣性の法則により、その場に倒れる樹木。
ひゅるるる、と風を切る何かの音が聞こえる。
「―――ま、まさか!?」
「遅いよ」
左手を握り、ぐいと引く狐
「大丈夫、死なないから安心して」
「て、てめぇ」
きゅ、と火奈兔の体が膠着する。
――糸、だ。
「名付けて狐遊園地ってね」
「くそ・・・」
腕も上がらない立つことすらままならない。
「はん、俺様の負けだよ・・・」
降参降参、と火奈兔は諦めの声を浮かべる。
「よくそれが無機物だって分かったね」
「俺様は炎に関しては一流を凌ぐんだよ」
「そう」
こうして、多数のけが人を出して、この戦いは幕を閉じた。




