放火魔の場合(上)
そこは学校である。
ただし、山と言い表すしかないほどの山の中に存在する、事実上廃校である。
「ひゃは」
そこに、ひとりの人間がいた。
「ひゃはは」
燃え盛る豪炎の目の前に、その人間は立っていた。
「ひゃははははははははははははははははははは!!!!!!!」
その廃校が、崩れ落ちる5秒前だった。
■ ■
「この辺」
「この辺て・・・」
ご存知制裁探偵事務所の蒼御一行は、名古屋に来ていた。
「ここのひつまぶしは旨いんだ」
「・・・・・・」
蒼は名古屋観光(食べる)以外に考えていないっぽいが
「あの蒼さん・・・私達、戦力を集めるためにここに来たんですよね」
「あぁそうだよ?」
昼の1時。
彼らは昼食真っ最中である。
「でもよく言うじゃんか、腹が減っては戦はできぬつって――」
「食べ過ぎもよくありません」
「・・・わかったよ、手羽先は我慢するよ」
「あれ、案外素直ですね」
「あぁ、まぁね」
目が泳ぐ蒼
「どうせういろうかエビフライでしょう?」
「うっ――」
海がツッコミを入れる。
「な、なぜ分かった」
「蒼さん隠し事してると目が泳ぐんですよ」
「え!?まじで!?」
「まじです」
「はぁーあ」
あちゃー、とがっくりする蒼。
萌九頭は出されたひつまぶしを黙々と食べている。
「それで?標的は一体?」
「ああ、放火魔だよ」
「放火魔?これは何とも」
「危ないね――でも君たちがいれば安心安心」
「どうでしょうね」
「あ」
と、海。
「そういえば監視長」
「はい?」
「あの、前にした約束覚えていますか?」
「約束・・・あぁ!お父様とのゲームに勝ったら――ってやつですね」
「はい・・・せっかくですので教えて欲しいのですが」
「了解です。では説明いたしましょう」
横に座る萌九頭を避け、反対に座る海のところへ四つん這いで近寄る監視長
「か、かんしちょ――」
「しっ・・・静かに」
そして、海の頬に触れる。
妖艶に。
「なっななななななああああ――」
「ふふ」
と何事もなかったかのように海から離れる監視長。
「狐さん。あなた、私に惚れましたね?」
と、言った。
「え?」
海は図星を刺されたように唸る。
「私の一つ目のスタイル『禁断の愛』は、『生物に触れたとき』『その生物の恋愛感情を操作する』というスタイルです」
「恋愛感情?」
「そのままです、恋とか愛とかそういうのを操れるのですよ」
「それって」
「えぇ、相手を振り向かせることも出来ますし、動物も有無を言わさず懐かせることもできます」
「すごいんですね」
「いえいえ」
「それで、一つ目、ということは」
「あ、二つ目もあります」
「それって?」
「うーん、これは狐さんには出来ませんね」
「そうなんですか?」
「えぇ、まぁ口だけで紹介すれば――」
自らの人差し指を唇に当てる監視長。
「『キスをした相手に』『スタイルを作る』というスタイルです」
「・・・」
「名づけて『天魔の口付け』」
ウィンクしながらわざとお茶目に決める監視長。
それを見て呆れたのか、海は
「まぁ確かにそれじゃあ僕にはできないわけだ」
と首を横に振った。
「それで?そのスタイルを使ったことは?」
「あります、萌九頭に一度」
「へぇ、で、萌九頭くん・・・その、感触・・・というかそういうのh――」
「俺は寝ていた」
ひつまぶしを食べ終わった萌九頭が言った。
「寝ている間にされたらしい」
「・・・そっすか」
「萌九頭の所有する1000000のスタイルを束ねる1のスタイル――『狂兵器』は、『許可を得ていないとき』『自らが所有するスタイルを全て使用不可にする』と『許可を得たとき』『自らが所有する使用不可となっているスタイルを全て開放する』という二つのスタイルの総称なのです」
「そんな萌九頭くんにしか扱えないようなスタイルを、作ったというわけですか」
「えぇ、そうですね」
「でもその気になればめちゃくちゃなスタイルも作れるということですよね」
「ですね」
「条件も監視長が決めるのですか?」
「えぇ」
「そうですか」
「話は終わったかい?」
「えぇまぁ大体」
「じゃ、行こうか」
「またその台詞ですか」
蒼が期待の眼差しをこちらに向けている。
「分かりましたよ、言えばいいんでしょう?それで?どこに行くんですか?」
「長野。山の奥の奥の奥の奥の奥の奥の方」
「今奥って何回言いました?」
「6回」
「はぁ」
嫌な予感しかしない――と、心の中で海は思い
そしてどこか、楽しみだったりしているのだ。




