監視長の場合(中)
「・・・あら」
裏の刑務所こと『黒鳥の砦』
そこの中央に位置する部屋に、彼女は居た
「随分と、的を射た人達が来たわね」
人達、と言われたのは言うまでもなく、
制裁探偵モードの『蒼』と『狐』だ
扉の前で棒立ちしている。
「・・・おい」
狐が呼びかける。
「おいって」
「ん、あぁなんだい」
答えたのは蒼だ
「どうやって入るんだこれ」
「どうしようか」
「・・・はぁ」
そう深いため息をつき、蒼に向け人差し指を突き立てた
「ん?」
「・・・なんか賭けろ」
「へ?」
「何かを賭けるんだ」
「あぁ、えーと、じゃあこれなんてどう?」
「これって」
蒼が取り出したのは、鋏。
大きく、鋭く、神々しい輝きをしている
「これを上げよう」
「・・・ふーん」
取り出された鋏を品定めでもするように眺め、
「よし、僕がんばっちゃうぞ~」
と、腕まくりをした
「・・・」
流石に引く素振りを見せる蒼
「はん、僕に一定のキャラなんてないんだよ」
と狐は答えてみせる
そして手に握られているのは、一本の針金。
「へぇ」
「・・・」
「ピッキング・・・か」
「その鋏・・・ちょっと欲しくなってきた」
狐がその台詞を言い終わった直後、『ガチャン』という音がした
「すごいね」
「じゃあ貰うぜ」
「あっと、まだだ」
「あぁ?」
「そう睨むなよ、この依頼が終わったらくれてやるさ」
「えー、蒼さんってケチ~」
「ほっとけよ」
「ようこそ、『黒鳥の砦』へ」
「――!!」
「――!!」
不意に現れた正体不明の相手に力む二人
「おっと、うふふ、お二人共元気がイイ事・・・どうぞお入りください。歓迎いたします」
声や口調からすると、20後半ぐらいか・・・?
「・・・・・・」
喋らず、背中からスケッチブックを取り出す蒼。
そして、どこから取り出したのかマッキーでキュッキュと書き始めた
『何者だ』
そう書いてある
対して、
「そんなに警戒しないで下さい。私はただの案内係。何も危害を与える気はありません」
そんな返答が帰ってきた。
「何も危害を与える気がない人間は、そんなものを人には向けませんよ」
「・・・?」
くん、と人差し指と中指と薬指を器用に動かす狐
「えっ、えッ!?あっ、うっ嘘ッ!!」
遅れて、女性の驚嘆の声。
「あ、あなた達・・・何者ですか」
バラバラと床に落ちる金属片を見て、蒼は理解した
「・・・・・・」
スケッチブックに、おもむろに何かを書き始める蒼
『どけ。俺達は監視長にのみ用がある』
「うっ・・・」
あくまで日の光が少ない暗闇の中で、蒼は日本刀を抜く。
漆黒に塗られた散弾銃を蹴飛ばし、目の前にいる存在へ突貫した。
「がっ、はぁッ!!」
ドンと大きな音を立て、静寂が現れる。
「わ・・・分かりました・・・監視長の所へと、案内いたします・・・」
その降参の言葉を聞いて、蒼は日本刀をしまう。
「・・・」
ガチャン、と音がした
「・・・」
「動くな」
「こっちの台詞だ」
「えっ」
確認すれば、そこに居た女性の手には拳銃が握られていた。
動くな、という声は、明らかに女性の声だったが、
「てめぇが動くな」
と後に続いた言葉は、狐の物だった。
「案内しろ」
「だっ、誰が――」
ぐっ、と力を入れる素振りを見せる女性、だが
「うっ、動けない!?」
「何者かは知らないけどさ、君、多分ここに詳しいでしょ?案内してよ」
やっと蒼が口を開く。
「く・・・そ・・・」
ピンポンパンポーン
「え・・・?」
突如流れたアナウンス音。
「あー、あー、聞こえるー?まぁいいけどさ。門番さーん。さっさとその人達を私の所へ連れてきて~」
「かっ、監視長!!」
「今のが・・・」
「監視長か」
声は合成されていて分からなかった。
しかし、どこからかカリスマを感じさせる口調だった。
「はぁ・・・分かりました。付いて来てください」
「はーい」
「・・・」
トーン、トーン
一歩歩く毎に反響する。
あれから一体どれほどの階段を下ったろうか。
「・・・」
そんな風に思いにふける狐
あれだけ降りたのに、空気が薄くない。
空調設備は整っているようだが、なんだろうか。
今、僕達はとんでもない奴に会いに行っている所なのでは
階段を一つ下る毎に胸が締め付けられる。
「・・・くっ」
一体どんな奴なんだ。
監視長!
「着きました」
不意に立ち止まる女性。
横には、牢がある。
「え・・・着いたって」
「こちらにお入りください」
「・・・」
「何言ってんだ、てめぇ、そんな手に引っかかるわけが」
必死にクレームをつける狐とは正反対に、進んで牢へ入る蒼
「っておい!」
「ん?なんだい狐。まさかビビってるわけではないよな?」
「それ以前の――」
「それに、今の俺達に嘘をついても、意味がないというのはわかっていると思うけど?」
「・・・」
「私は、こちらでお待ちしております。ではご命運を」
「え?」
「え?」
女性は、何食わぬ顔で牢の扉を閉じ、鍵を閉め、何食わぬ顔でレバーを下ろした
ん・・・?
レバー?
そうしてそんな物が・・・
ガチャコン。
「行ってらっしゃいませ~」
後日曰く、その笑顔は生涯で一番の狂気を感じました。と。
その牢が、
その部屋が
「うっおおおおお!!!!?」
「―――!!?」
部屋ごと、下降し始めた。
しかも、とんでもない速度で。
「っていうか大丈夫なのか!?ここ牢の中下っているだろ!」
「多分この部屋のあるスペースだけ牢に使われていないんだろう!」
狐ほどの体では、軽く浮いてしまう。
「うっ、コンチクショー!」
ドン。
急停止。
慣性の法則に従って、浮いていた狐は部屋の床に叩きつけられた。
「へぶっ」
「行くよ、狐」
「うー」
「ほら立てよ」
「いたー」
「ったく」
自然と牢の扉が開き、道を示した。
その一直線上に、光が見えた。
「うー、鼻打ったー」
「大丈夫だ、鼻血出てないんだし」
「出そうと思えば出せるけど・・・」
「出さなくっていい」
「うー」
「全く」
次第にその光は大きくなっていき、目の前へと
軽いはずのドアを、重く重く開ける。
「・・・ようこそ」
待ち受けていたのは、
深い群青色の軍服に身を包み、帽子をかぶっている
パイプ椅子に堂々と座り、机に足を置く。
左手には紅茶の入ったカップが握られ
肩で切り揃えられた髪に、強気な眉と可憐な唇
狐は思った。こう言う奴は学級委員に良くいる、と
そして、漆黒のメガネの奥には、どこまでもどこまでも深い闇のような瞳が二人を見据えていた
「・・・あなたが、監視長ですね」
「いかにも、私が監視長です」
強気な口調。
「改めてようこそ、『黒鳥の砦』へ。先ほどは無礼をしました。気にしないでください」
「あ、あぁ」
「それで、貴方達は?」
「制裁探偵事務所第二部部長蒼」
「狐」
「外国の方?」
「いや」
「・・・」
まだ、一言しか発言出来ていない狐
「と、とんでもねぇ所に来ちまった」
その扉の先は、無数の拷問器具が置かれていた。
地が染み込んだような、禍々しい色
「そこにおかけになって。色々とお話いたしましょう」
で、できれば遠慮させていただきたいです・・・。
言いたくても言えない狐だった。




