監視長の場合(上)
昼間の商店街を二人は歩く。
とても賑わっているため、小学生のスーツ姿も、自然と馴染んでいる――
「わけねぇだろッ!!」
ビターンと買ったばかりのパック詰めのコンニャクを地面に叩きつけるのは、
ただいま買い物中の、砂滑 海だ。
その横でクスクス笑っているのが、争谷 蒼。
「こらこら海くん。ナレーションにツッコミするなんて前人未到だよ」
「僕は事実の剣を振りかざしたんだ!!ギリ140cmの僕になんつう物着せてんだあんたは!!」
「えー、似合ってるよ」
「そういう問題じゃねぇッ!!」
「でも海くん、本当に不思議だよねぇ」
「何が?」
「だって一日単位で口調変わるじゃん」
「ああ・・・あれは僕の――」
「今日の夕食は何にしよっかな」
「聞け!!」
「え!?何を!?」
「・・・いい」
「?」
「いいよ、何でもないよ気にするなよ」
「・・・なんだよ気になるなぁ」
「はん」
「ところで海くんってさ、不思議だよねぇ」
「何が?」
「だって一日単位で口調変わるじゃん」
「ああ・・・あれは僕の――」
「そういえば昼食って何食べたっけ」
「デジャヴ!!」
「ははは、冗談だよ。そんな目で俺を見るんじゃない」
「・・・それで、何でしたっけ」
「そういえば海くんってふし――」
「そこからやらなくていい」
「・・・口調が変わることについて」
「ああ、それは――」
ニヤと笑う海
「僕の戦い方の基盤みたいなものです」
「戦い方?」
「ええ、一対一の場合は使用しないんですけど、複数対一の時は使用します」
「へぇ、それで、どんな?」
「偽名です」
「偽名・・・」
「僕の本名は海と言いますが、『波』『真美』『亜美』などなど」
「へぇどうして」
「そっちの方が効果的なんですよ。集団に限って言えば」
「そうなんだ」
「一人の敵が急に3人や4人になったら焦りますよね」
「それはそうだね」
「そういうことです」
「ふーん」
「ところで蒼」
「なんだい狐」
「今はどこに向かっているのですか?目的地ぐらい教えて欲しいですね」
「どこかって?えーと、刑務所、かな」
「刑務所ですか・・・それで、『かな』というのは」
「いや、場所は知ってるんだけど、名称は知らなくてね」
「それで、どうして刑務所と」
「標的が、『監視長』と呼ばれていてね」
「かんしちょう?」
「囚人を監視する監視官の長だね。一番偉い人」
「へぇ、っていうか、ネットとかで場所が分かるなら調べれますよね」
「俺はそういうの苦手なんだよねー、昔は『あいつ』に任せっきりだったから」
「・・・『あいつ』って」
「元カノだよ」
「そうですか」
手に持つのは饅頭。
30個入りの物を5つ。
150個
蒼が肩に下げているのは日本刀
海が服に仕込むのはマイナスドライバー
踏切で立ち止まり、列車が前を通れば、彼らは
蒼では無く静蒼無双こと『蒼』
海では無く『狐』と、
制裁探偵モードだ。
■ ■
そこは、別名『漆黒の別荘』こと『黒鳥の砦』
いわゆる『裏』の、刑務所だ
「整列」
その中で、女性の声が聞こえた
続いて、ダダダッと大げさな足音が
「番号」
「いち!」
「にい!」
「さん!」
「よん!」
「ごぉ!」
「ろく!」
「・・・気をつけェッ!!!!」
怒号が鳴り響く
「おい4番、ちょっと来い」
「・・・」
「4番、ちょっと来い」
「・・・え」
パァン
銃声よりも少し軽い・・・鞭の音が響く
「あがッ!」
「4番、来い」
「・・・は、はい」
しばらくして
「戻れ」
「ひっ、ひぃィィっ!」
「気をつけェェッ!!」
ダッと綺麗に音が重なる
「今日の夕食は何がいい?」
「はいッ!!」
「はい5番」
「私はッ、ポテトサラダとッ、白ご飯がいいです!!」
「ポテトサラダ・・・ね」
「はいッ!!」
「はい1番」
「僕はッ、蕎麦が食べたいですッ!!」
「蕎麦・・・か、いいね」
「はいッ!!」
「はい3番」
「私はッ、カレー希望ですッ!!」
「あ、カレーね・・・いいねぇ」
「はいッ!!」
「あー、ごめんねぇ、先着三名なの~」
「そ、そんな」
「文句ある?」
「あっ、そんな、そのっいやっめっそうもないです」
「そ、ならいいけど」
パタンと軽い足音を響かせて
「じゃあ今日は饅頭ね~」
「そっ、そんな監視長!!」
監視長と呼ばれたその女性は振り返る
「何」
「あっ、いや」
「ふん、今日は来客の手土産だって。6人で120個。贅沢だね」
「・・・」
150個の内、120個を引いて、30個。
「残りの30個は、私のもの~」
そう歌いながら、彼女はご機嫌に、闇へと消えていった。
「来客かぁ、背の高い草食系のイケメンか、小学生くらいのショタがいいなぁ」
その言葉は、そのフロア全体に届いたという




