間話(3)
「そこにおかけになって下さい」
言って、呆然としている俺たちに構うことなく台所でお茶を沸かしているのは
言うまでもなく、罠師だ
「ボクは虫が嫌いなんです。早く扉を閉めていただけますか」
「・・・え?あ、あぁ悪いな」
固まった体をロボットのように動かし、同じような状況にある紅を無理矢理移動させた
「・・・」
勝手に椅子に座る。座らせる。
いや、座れ。と言われているから当たり前なのだけれど
部屋、小屋の間取りはいたってシンプルで、木製の机、椅子、ダイニング、ベットまで揃っていた。
どころか、テレビまで
・・・ここ電波なんてあるんだな
「まずは、憎悪と叱咤と驚愕と感嘆を持って、歓迎いたします」
紅茶が出され、お互い一口飲み、今日は色んなことがあったなぁ。と思い返したところで罠師はそう切り出した
「はぁ」
チラと横を見る。
まるで氷のように固まった紅が目に入った
「次に、目的を聞きましょう」
「あなたの捕獲・・・ですね」
「そうだろうと思いました」
はぁ、とため息をつく罠師。
なぜか、美少女なので、正直ドキッとした。
「・・・痛ッ」
足を踏まれた
紅だ
無意識のままの攻撃かよ
「捕獲と言っても、どうせマスコミやなんかに晒し者にするようなものでしょう」
「え、えぇそうです」
「それはボクにとっては公開処刑と同等の行為ですね」
「はぁ」
「なんせこんな格好なので、あ、いやこれは単なる趣味でしてね」
「別に、否定はしませんよ」
「父親の趣味です」
「うわぁ」
「ですよね」
どんな父親だよ
「まぁ、とは言っても父親は2年ほど前に死にましたし」
「そうなんですか」
「ボクの最後の肉親でしたから、その爪痕だけは残そうかと」
「なるほど」
「話を戻しまして、あ、えーと」
「そういえば自己紹介がまだでしたね。えっと」
今は仕事・・・だよな?
まぁ、いいか
「こちらで固まっているのが戦ヶ丘 紅さんで、俺が命、いのちと書いて命です」
「・・・あれ、でもさっきまでは違う名前で読んでたような」
「あぁ、あれは仕事で使う為の偽名みたいなものですよ」
「はぁ」
「紅さんが銃器式紅一点で『ルージュ』。俺が英雄で、そのまま『ヒーロー』と」
「厨二病ですね」
「ですよね」
「では、えー《ヒーロー》さん?ボクはマスコミの晒し者になるつもりなど1μmもありません。お分かりでしょうか」
「そう言われましても、こちらも仕事ですので」
苦笑いをしながらセールスマンのような受け答えをしている最中
「いや」
横から声が入った
紅さんの声だ
「その心配はないぜお嬢ちゃん」
罠師はリアクションはするも、表情は一切変わらないという奇妙なポーカーフェイスだったのだか、この言葉を受け、少し反応した。
「私が、一肌脱いでやろう」
「あら、お優しいのですね」
「たぁだぁし」
「?」
「あんたには、うちの事務所に加入してもらう」
「お断りします」
「えー、なんでよー。ブーブー」
「ボクは、それほど暇では無いのです。まだ、やり終えてないことが」
「実の兄の、捜索か?」
「え」
ここで、紅、いや、紅さんの表情がゆるりと変わる。
鋭い、刃物のような眼光
その威圧に、関係の無い俺も思わずたじろく
「ど、どうして・・・それを」
「私の情報収集力をなめんな。そんぐらい見当がつくし、大体、お前目的があやふやすぎんだよ」
「あ、あやふや?」
「客観的に見れば何がやりたいのかさっぱり。ただの正義バカか、戦闘狂か、復讐鬼か」
「・・・」
「答えは簡単だったよ。『生き別れ、存在は知っているのに認められない兄の捜索』ねぇ。泣かせるぅ」
「そこまでは言っていません」
「あ、そ。まぁ、ちょっとしたハンデを付けてやろうと思ってこの話題を出したんだが」
「ハンデ・・・ですか」
「そうだよ。『お前が私達の仕事を手伝う代わりに、私達もお前の兄の捜索をする』。いわゆるギブ&テイクってやつだよ」
「・・・ちょっと、考えさせてください」
「おう。いつでも待ってるぜ。おら、行くぞ命くん」
「は、はい」
その日の、罠師との面談は終わり、事務所へと帰った
「ねぇ紅さん」
「なんだよ命くん」
真っ黒のソファに横たわりながら銃の手入れをする紅さん
俺は漫画を読んでいた
「来ると思いますか」
「さぁな。でも、連れてきてやるさ」
いやらしい口調で言う紅さん
大方、予想はつくが
「なんてったって罠師はお前の――」
「やめてくださいいいぃい。誰が聞いてるのかわからないのにぃい」
「はん、青春だなぁ。いいなぁ」
「あ、そいえば、紅さんは結婚とかしてるんですか」
「してると思う?」
「思いません」
「その通りだよバーカ」
「すみません」
「謝んじゃねぇよ。余計惨めになるだろうが」
「はぁ」
「まぁ、元同棲相手ってのは居たんだけどな」
「同棲相手・・・ですか」
「なんせ『あいつ』は『焼きそばは塩だろ』とか『悪いけど辛い物嫌い』とか、終いにゃ『ハーゲ○ダッツ食べる?』とか言ってくるんだぜ?」
「いい人じゃないですか」
「どこがだよ。私は焼きそばはソースだし辛い物大好きだしアイスは大嫌いだっつーの」
そう言って紅さんは胸ポケットから取り出した赤いものを口にくわえた
唐辛子だ
「食うか?」
「いいです」
「んでぇつまんねぇ」
「すみません」
「だから謝んなっての!」
唐辛子を投げつけられた
口にジャストミート
「――――!!!―――――――――!!!!!」
「はっはっはっはっは」
「―――――!!!み、水・・・みずぅ・・・」
「コンビニでも行ってこい」
「死ぬわ!!」
「そう簡単に人は死にゃせんよ」
「そういう問題じゃないッ!!」
なんやかんやでその日は幕を閉じた。
それからなんとなく月日が流れた。
時々、紅さんが電話相手に大喧嘩しているような気がしないでもなかったが・・・
とりあえず、ゴミ拾いやら飼い猫の捜索やらを手伝わされ、地味に過酷な日々が続いた
そんなある日のこと
今日も平和だなぁ・・・とか思いに更けていながら、寮に設置してある男用のトイレに向かう
近所の子供がワイワイ騒いでる
「さわやかな天気だな」
とか言っていると、男用のトイレの入口から、誰かが飛び出してきた
「――ッ!!うおっ!?」
突然の出来事に、思わず重心が崩れる
「あっ、すっ――すみません!!」
女のような美声で一言だけ謝り、駆けていった
「一体、なんだったのだろう」
一体、誰だったのだろう
用を済ませ、部屋に戻ると留守電が入っていた
紅さんからだ
『おい命くん。いい知らせと悪い知らせがある。用が済んだらスーツ姿でこっちに来い』
だそうだ
そう急ぐ理由も無いのでマイペースに髪を整え、スーツを着る
「ふむ・・・」
てくてくと歩く。
寮と事務所を結ぶ学校の渡り廊下のような場所を通り過ぎる
事務所の一階は、プラモ屋さんだ。
昨日らへんで初めて聞いたが、紅さんは仕事が無いときは、そこで自営業をしているそうで
二階が、俺らが事務所
三階も一応あるのだが、紅さんによると、物置になっているらしい
今更の紹介をしながら、事務所の扉を開く
そこには、いつものスーツ姿の美人の紅さん・・・だけじゃなかった
身長は低め(紅さんと並んでいるので余計小さく見える)で、肌が白い。
漆黒の目をしていて、腰まで届くような長い黒髪、前髪は一直線に切られている
整った顔立ちで、見た目からでは恐らく女の子だろう。中2くらい
きっちりとしたスーツに、白と銀のストライプのネクタイ。
ちょっとソワソワしているように見える
(ちょ、ちょっと引かれてるんじゃないですか!?)
(大丈夫だ。あいつはそこまでデリカシーがない奴じゃないはず)
(はずってなんですか!初めに言ってくださいよ!!)
こそこそと話す声が聞こえる。ダダ漏れだけど
「・・・あ、あの」
俺の言葉に対し、ビクッと反応するソワソワ娘
「べ、紅さん・・・こちらの方は・・・」
「え?あ、やっぱり忘れてたか命くん。流石にそうだよな、2週間も待たされればそりゃ忘れるよな」
「に、2週間・・・前・・・」
と、すると・・・もしかして
「いい知らせと悪い知らせがあると言ったよな?これはいい知らせだ。ほら、自己紹介しな」
そう言われて背中を強めに叩かれたボク。
「・・・」
勇気を振り絞れ
「きょ、今日から、この部に配属となりました。姫劉院 幸です!よ、よよ、よろしくお願いします!!」
俺は唖然とした。
こ、こんなに可愛かったっけか?
「お前・・・確か、罠師・・・だよな・・・」
「は、はい」
「・・・」
「一応ボクの方が後輩なので、無礼な真似は一切いたしません」
ボクは後輩が夢だった。
後輩・・・いいよね・・・(どこがだ!)
「スタイル名『守人』。ディアとお呼びください」
「お、おう。よろしくな。ディア」
俺のボルテージは有頂天へと達していた
「よろしくお願いします。ヒーロー」
「あー、浮かれてるとこ悪ィな。まだあるぜ」
「悪い知らせですか」
「あぁ」
ニヤニヤとする紅さん
嫌な予感しかしない
「悪い知らせっていうのはなぁ!!こいつは!幸ちゃんは!!男なんだよぉ!!」
「・・・?」
・・・・・・ん?
「だから、男の子!!『幸くん』なの!!」
「・・・・・・」
・・・・・・ん?
「究極の美男子が入ってきたなぁおい!!まぁ私にとってはいい知らせなんだけどね!!」
「・・・・・・」
・・・・・・ん?
「男の子!!もとい、男の娘!!!!なんちって!!」
「・・・・・・」
・・・・・・ん?
え、ちょっと待て一旦整理させてくれ。この前会った絶世の美少女罠師は実は男の子で、絶世の美男子だったと、つまり俺がかわいいと思っていたのは男だと、いやいや、そんなはずはない。嘘だ。そんなのいつもの紅さんのノリのいい笑えない冗談だろう。なぁ、そう思うだろう?頼むそうだと言ってくれ。
俺は、罠師、否、ディアに視線を戻す
「・・・(コクリ」
ディアは、恥ずかしがるように、頷いた
あ、あれ、お、おかしいなぁ・・・あはは、視界がグルグルまわってるよ父さん。こんなのはじめてだ・・・はは、アインシュタインも腰を抜かすぜ、ふふ、はは、あはは、あはははは
プシュー
何かが壊れる音がした
多分、俺の思考回路だろう。
ダメだ。
疲れた。
寝よう。
「衝撃の事実に思考回路を爆破させられた馬鹿、命くん!さて、次回の出番はあるのか!!はたして命くんはガチホモなのかぁ!!」
「変なエピローグ繋げないでくださいッ!!」
三人目。
俺=命。ボク=幸。




