罠師の場合(中)
「心外・・・ですね」
どこかで、その声がした
「全くもって心外です」
片手に双眼鏡、片手に携帯電話を持って
「・・・えぇ、実に馬鹿ですね。隠れる気が無いのでしょうか」
では――、と続ける
「罠師の名にかけ、堕として差し上げましょう」
そう言って、影は消えた
ボロボロになった携帯電話を残して
■ ■
「ねぇ紅」
「なんだ英雄」
「どうです、上手くいきそうですか」
「さぁな、そういう所は私にも分かんね」
「そうなんですか」
「ただ、今回は当たりってことは確かだな」
「当たりって、確か」
「スタイルを持つ者が関係している依頼のことだな」
「どうして確かなんです」
「今までの形跡だよ」
「はぁ」
「・・・罠師が起こした事件っつうのは全部が全部、罠師自身が標的にされた際に起こる」
「・・・」
「元々、罠師なんて二つ名は無かったろうな。相手の倒し方が共通していたから罠師とされたんだろう」
「・・・それで」
「恐らく『自らが標的となった場合』、『必ず返り討ちにする』みたいなスタイルだろうな」
「ほぼチートですね」
「お前、人のこと言えねぇよ。・・・勿論私もな」
「そうですか」
「ただまぁ、今回は手強いな」
「それは大体の予想は付きます」
「お?なんだ言ってみろ」
「俺達の標的が罠師。という時点で罠師のスタイルは使われている。さらに相手の性別が分からない以上、紅のスタイルは使えないし、まだ紅が狙われていないから、俺のスタイルも使用できない」
「ざっと87点だな」
「え」
「一つ抜けてるぜ。この地形だよ」
「ああ」
そこは木々が生い茂る大きな森だ
「罠を仕掛けるには絶好の場所ってワケですね」
「そうだ。後は、まぁ小さいことだが、罠師が自分自身のスタイルを使いこなしている。ってのもこちらが不利になる状況の一つだな」
「俺の時は分かってなかったですしね」
「まぁな」
「え、でも待ってください。それならどうして俺にスタイルがあると分かったんですか」
「勘だよ」
「・・・」
「・・・・・・嘘だよ、そんな顔をするな」
「では・・・」
「ただのまぐれだよ」
「まぐれ・・・ですか」
「これはいたって真面目だぞ。制探事務所(制裁探偵事務所の略)は基本的に『人に迷惑をかける輩』を取り締まるんだが、そういう奴に限ってスタイルを持っていることが多いからな」
「そうなんですか」
「だから、君の場合はまぐれだよ」
「納得しました」
「そうか、なら今に集中しろ。いつ攻撃を仕掛けてくるか分から―――」
そこまで会話した、
瞬間、紅が視界から消えた
唐突に確実に
「―――ッ!?」
「――――!!」
それは、落とし穴だった
俺は混乱したが、彼女は予測していたかのように手を伸ばし、土にぶら下がった
底には、無数の得体の知れない虫が湧いていた
「紅ッ!!」
「大丈夫だッ!!取り乱すな!!」
簡単に、腕力のみで穴から飛び出す
「キッショ・・・」
「寒気がしますね」
「全くだ。悪趣味な野郎め」
「それは心外だと思いますよ」
ちなみに紅の趣味はフリーシューティングだ
真夜中、それか人がいない場所で銃を使い、標的を定め、打ち進む。というものらしい
正直迷惑だ
「はん・・・まぁ、もうすぐ二発目が来るぞ」
「分かっています」
「本当だろうなぁ」
「本当で―――」
今度は俺が狙われた。
何かのスイッチを押してしまったのだろう
前方から、金属製の矢が飛んできた
「ッ!!!――うおッ!!!!」
ギリギリで躱したが、大きく重心がずれ、不安定な状態に
左右から、金属製の矢が飛んできた
「――――――ッ!!!!!」
「バカ野郎がッ!!!」
紅の声が聞こえる
走馬灯・・・
バウゥン
バウゥン
二発の銃声で気が付いた
「る・・・紅・・・」
「気をつけろっつったろうがこのドアホがァッ!!」
「す、すみません」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
「・・・?」
すると、紅は人差し指を唇に当て(シィ)と音を鳴らした
「え・・・」
(喋るんじゃねぇ英雄)
「・・・」
小さな声で
(近くに、いるぞ)
「・・・!」
(いいか、これから私はお前をこっぴどく説教する。お前は黙って聞いてろ)
「・・・(コクリ)」
「・・・ったく、お前はいつもそうだよなぁ!!あぁ!?」
「・・・」
「人の忠告を無視して助けられての繰り返しじゃねぇか!!学習能力皆無かてめぇは!!」
「・・・う」
ちょっと傷ついた
「しかもこんな戦場で気を抜くなんて言語道断だぞ!!」
「・・・」
「なぁ!!そうだろう!?」
紅の顔から怒りの表情が消え、ぐるりと肩から振り向いた
「そんな所で陰湿にコソコソ罠張ってる方がいくらかマシだと思わないかい?罠師クン」
ガサガサ、と草が揺れる音がした
「――ふむ・・・体重は47キロぐらいか」
「・・・」
なんで分かる
「ほら、出てこいよ・・・私達の標的はお前さんだぜ?」
「・・・」
反応は無い
「大丈夫大丈夫。標的とは言っても抵抗しなければ傷つけたりはしないよ」
「・・・」
反応は無い
「さっさと出てこいや卑怯者。それとも何か?私に説教されてぇのかこのドM野郎」
「・・・」
反応は無い
「そんなに身を隠してぇなら『私の姿を見たものは居ない。なぜなら全員殺しているからだ』とかそういう決め台詞を言えるようにすればいいじゃねぇか。冷てぇの」
「・・・」
反応は無い
「じゃあ、カウントダウンな。ゼロになったらお前がいる方向に銃弾をブチ込む」
「・・・」
反応は無い
「じゅーう、きゅーう、はーち、なーな、ろーく、ごーお、よーん」
「・・・」
反応はない
「さーん・・・にーい・・・いーち・・・ぜー」
カチッ
微かに、聞こえた
「ろッ!!!」
紅が銃弾を放ったのは、逆方向
ドサッと尻餅を付いた音が聞こえた
「!」
慌ててそっちに向かう
そして草木を分け、人を見つけた
ゴスロリの格好をした、可愛らしい女の子だった




