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私を処刑した王子を6歳から矯正してみます  作者: すなな


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第9話 甘え方

「セレナ!」


研究室へ入った途端、小さな身体が飛び込んできた。


「わっ」


慌てて受け止める。


「ルシアン様。廊下は走ってはいけません」

「走ってないよ」

「では今のは?」

「急いだだけ」

「それを走ったと言うんです!」


ルシアンがけらけら笑う。

蜂蜜色の髪が、今日もふわふわと跳ねていた。

一房、額にかかっている。

セレナはそれを直そうと手を伸ばした。

指先が触れる。

柔らかい。

もう一度。


「セレナ?」

「はい?」

「もう直ったよ」

「……そうですわね」


分かっている。

けれど、手が離れない。

指を通すと、くるりとした髪がふわりと戻る。


「ルシアン様の髪、ずっと触っていたくなりますわ」

「いいよ」

「本当に?」

「うん」


それなら遠慮はしない。

ふわふわ。

くしゃり。

また、ふわふわ。


「セレナはルーに甘いわね」


王妃が笑った。


「仕方ありませんわ。可愛いんですもの」

「僕、かわいい?」

「ええ。とっても」


即答すると、ルシアンが嬉しそうに抱きついてきた。

可愛い。

小さくて、ふわふわで、素直に甘えてくる。

こういうものには弱い。


「にいさまは?」

「はい?」

「にいさまもかわいい?」


思わず顔を上げる。

少し離れたところにアルベルトがいた。

目が合った。


「アルベルトは可愛いというより、綺麗かしら」


王妃が答える。


「ああ。それは分かりますわ」


薄い金髪に、緑の瞳。

七歳とは思えないほど整った顔立ちは、確かに可愛いより綺麗が似合う。


「僕はかわいい?」

「ルシアン様はとっても可愛いです」

「やった!」


ルシアンがまたセレナへくっつく。

その向こうで、アルベルトは何も言わなかった。





「あとでね、セレナ!」

「ええ」


王妃に連れられ、ルシアンが研究室を出ていった。

途端に静かになる。

セレナは長椅子へ座り、読みかけの本を開いた。

ようやく落ち着ける。

そう思ったのに。

隣が沈んだ。

アルベルトだった。


「アル?」

「なに?」


近い。

長椅子は広いのに、肩が触れている。

セレナは少し横へずれた。

アルベルトもずれた。

もう一度。

また来る。


「……なぜついてくるんですの?」

「ルーもしてた」

「ルシアン様の真似ですの?」

「うん」


さらに寄ってきた。


「だめなの?」


緑の瞳がこちらを見る。


「……だめじゃないですけど」


答えた途端。

アルベルトが動いた。


「え?」


ころん。

金色の頭が、セレナの膝に落ちてきた。


「…………」


見下ろす。

アルベルトはもう目を閉じている。


「アル」

「なに?」

「何をなさっているんですの?」

「ルーもしてた」

「それも真似するんですの!?」

「だめじゃないんでしょう?」


先ほどの言葉を使われた。


「それは……」


確かに言った。

けれど、こうなるとは思わなかった。


「少しだけですわよ」

「うん」


アルベルトは満足したらしい。

そのまま動かなくなった。

セレナは本を持ち直す。

一行読む。

視界の端に金色の髪が入る。

もう一行。

気になる。

仕方なく、そっと頭へ手を置いた。

一度、撫でる。

アルベルトの目が開いた。


「……何ですの?」

「もう一回」

「はい?」

「ルーには、もっとしてた」


セレナは吹き出した。

「もう」


仕方なく、また撫でる。

一度。

二度。

三度。


「これで満足です?」

「まだ」

「まだ?」

「ルーの方が多い」

「まさか、数えていたんですの?」


返事はない。

けれど、口元が少しだけ上がっている。


セレナは呆れながら、もう一度撫でた。

アルベルトが、ほんの少し笑った。


セレナの手が止まる。

綺麗だと思っていた。

いつも静かで、何を考えているのか分からない子。

けれど今は。


「……可愛い」


思わず、声に出た。

緑の瞳が開く。


「え?」

「い、いえ。何でもありません!」


慌てて本へ顔を戻す。

しばらくして。

膝の上から、小さな声がした。


「もう一回」

「……何をです?」

「撫でて」


セレナは本で顔を隠した。

どうやら。

本当に、とんでもないことを覚えさせてしまったらしい。


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