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私を処刑した王子を6歳から矯正してみます  作者: すなな


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第8話 焼き菓子

「セレナ、これ」


差し出された箱を見て、セレナは嫌な予感がした。


「……今度は何ですの?」

「開けて」


数日前、同じように渡された箱から出てきたのは、とんでもなく高価な青い宝石だった。

恐る恐る蓋を開ける。


「…………」


宝石ではない。

小さな花の形をした焼き菓子が、三つ並んでいた。

ふわりと甘い香りがする。


「バニラ……?」


見覚えがあった。

三日前、王妃の研究室で出されたものだ。





その日も、研究室は騒がしかった。


「ルシアン様!」


棚へ伸びていた小さな手を、セレナが慌てて捕まえる。


「見るだけ」

「昨日も同じことをおっしゃいました!」

「今日はほんとに見るだけ」

「昨日は?」

「触った」

「ほら!」


ルシアンが逃げる。

セレナが追う。

四歳児は意外と速い。


「母上!」

「私を盾にしないの」


王妃の後ろへ逃げ込んだルシアンを捕まえようとして、セレナは足を止めた。

笑い声が聞こえた。

アルベルトだった。


「アル! 笑っていないで捕まえてくださいませ!」


アルベルトは立ち上がった。

逃げようとしたルシアンの襟を、あっさり捕まえる。


「にいさま、裏切り者!」

「セレナに言われたから」


王妃まで笑い出した。


「もう。お茶にしましょう」


研究机の一角が片づけられ、茶器が運ばれてくる。

一緒に並んだ皿を見て、ルシアンがすぐに身を乗り出した。


「お花!」


花の形をした、小さな焼き菓子。

今度こそ手を伸ばそうとしたルシアンを、セレナが止める。


「手」

「さっき洗ったよ」

「そのあと床に手をついていました」

「見てたの?」

「見ています!」


ルシアンはしぶしぶ手を引っ込めた。

その隙に、セレナが一つ取る。

さくり。

口の中で軽く崩れた。


「あ……」


甘い香りが、ふわりと鼻へ抜ける。

もう一口。


「バニラですの?」

「ええ。料理長が試しに作ったそうよ」


王妃が紅茶を注ぎながら答えた。

セレナは残った半分を口に入れる。

好きだ。

甘さよりも、あとに残る香りがいい。


「わたくし、バニラの香りが好きですわ」


二つ目へ手を伸ばした。

向かいから視線を感じる。

顔を上げると、アルベルトと目が合った。


アルベルトも一つ取った。

一口。


眉が寄る。


「甘い」

「お菓子ですもの」


セレナは笑って、三つ目を取った。


「洗った!」


そこへルシアンが戻ってくる。

両手を高く上げている。


「今度はどこにも触ってない!」

「偉いですわ」

「お花!」

「はいはい」


焼き菓子を渡す。

一口食べたルシアンが、ぱっと笑った。





そして三日後。


目の前に、同じ焼き菓子が三つある。

セレナは箱とアルベルトを交互に見た。


「これ……」

「うん」

「どうして?」

「三つ食べてたから」


それだけだった。

セレナはもう一度、箱を見る。

三つ。

きちんと並んでいる。

少しだけ、おかしくなった。


「なんで笑うの?」

「いいえ」

「嬉しくない?」

「嬉しいですわ」

「ほんと?」

「ええ」


今度は迷わず答えられた。

アルベルトがじっと顔を見る。


先日の宝石のときと同じだ。

けれど今日は、

「嘘」

とは言われなかった。

代わりにアルベルトが、少しだけ笑った。

それを見て、セレナもまた笑う。


「ありがとうございます、アル」


箱を閉じる。


「食べないの?」

「あとでいただきます」

「好きなのに?」

「好きだからです」

「?」


分からないらしい。

それでいい。

セレナは箱を胸元へ抱えた。


「行きましょう」

「うん」


二人で廊下を歩く。

しばらくして、セレナは箱を開いた。

三つある。

閉じる。

また歩く。

少しして、もう一度開いた。


「セレナ」

「はい?」

「さっきから何してるの?」


ぱたりと閉じる。


「……別に」

「ふうん」


数歩進む。


「嬉しい?」


また聞かれた。

セレナは箱を抱え直す。

今度は少し考えてから答えた。


「とても」


隣を見る。

アルベルトは前を向いたままだった。

けれど。

繋いでいた手が、少しだけ強く握り返された。


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