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私を処刑した王子を6歳から矯正してみます  作者: すなな


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第20話 変わった未来

対策を始めて四日目。


「減ってる」


アルベルトの指が、数字の上で止まった。

セレナはすぐ隣へ寄った。


「昨日より?」

「うん」


新しく症状が出た人数が、初めて前の日を下回っていた。

一日だけ。

まだ安心はできない。

それでも、セレナの肩から少し力が抜けた。


「セレナ様」


振り返る。

公爵家の侍女が、研究室の入り口に立っていた。

息を切らしている。

その顔を見た瞬間。


「奥様が、今朝から熱を出されております」


指先が冷たくなった。





馬車の中で、セレナは一言も話せなかった。


「咳は?」


アルベルトが侍女へ尋ねる。


「少しございます」

「呼吸は?」

「今のところ問題ないと、お医者様は」

「薬は?」

「すでにいただいております」

「そう」


馬車が揺れる。

窓の外を、見慣れた王都の景色が流れていく。

前も、最初は熱だけだった。

膝の上で握りしめていた手に、温かいものが触れた。

アルベルトだった。

何も言わず、指を包んでいる。

セレナはその手を握り返した。





「お母様」

「あら、セレナ」


声が返ってきた。

母は寝台の上で笑っていた。

頬が赤い。

時折、小さく咳をする。


「そんな顔をしないでちょうだい」


セレナは寝台のそばへ行き、母の手を取った。

熱い。

息が止まりそうになった。


「セレナ?」

「お医者様は何と?」

「今のところ、重い症状はないそうよ」

「お薬は?」

「いただいたわ」

「いつ?」

「朝に一度」

「次は?」

「セレナ」


熱い手が、頬に触れた。


「落ち着きなさい」

「……嫌です」


自分でも驚くほど、小さな声だった。

母の手を握る指に、力が入った。


「セレナ」


後ろからアルベルトが呼んだ。


「薬を確認してくる。母上にも連絡するよ」

「……はい」

「必要なら、王宮から医師も呼ぶ」


扉が閉まった。

セレナは椅子に座った。

薬はある。

医師もいる。

それでも、母の手を離せなかった。





熱は三日続いた。


アルベルトは毎日来た。


朝、公務へ向かう前に。


夜、公務を終えてから。


「今日は?」

「まだ熱があります」

「そう」


大丈夫とも。

きっと治るとも言わなかった。


ただ隣に座った。

セレナも、それでよかった。


四日目の朝。


「セレナ」


声に目を開けた。


「お母様?」

「お腹が空いたわ」

「……え?」

「昨日のスープ、まだあるかしら」


セレナは母の額に手を当てた。

もう、熱くない。


「お母様」

「なあに?」

「熱が……」


もう一度触れる。


やっぱり熱くない。


母が笑った。


「よかったわ。寝ているのも飽きたところなの」


その顔が、滲んだ。


「セレナ?」

「なんでもありません」

「なんでもない顔じゃないでしょう」


母の手が伸びる。

髪を、ゆっくり撫でられた。


「……よかった」


それだけで精一杯だった。





部屋を出ると、廊下にアルベルトがいた。

壁に背を預けて、本を読んでいる。


「アル」


すぐに顔が上がった。


「熱、下がりました」

「うん」

「お腹が空いたって」

「よかった」


アルベルトが笑った。

それを見たら、また泣きそうになった。


「……間に合いました」


声が震える。


「今回は、間に合ったんです」


アルベルトは何も聞かなかった。


ただ、そこに立っていた。


セレナは一歩近づいた。


もう一歩。


額を、その胸に預ける。

アルベルトの身体が、一瞬だけ固まった。


「……少しだけ、このままで」

「うん」


背中に腕が回る。


いつものように勝手に抱きついてくる腕とは違って、ひどく静かだった。


セレナは目を閉じる。

少し前まで頬に触れていた母の手は、温かかった。

今度は、その温かさを失わずに済んだ。


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