↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私を処刑した王子を6歳から矯正してみます  作者: すなな


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

16/26

第16話 近づく病

それから数日、研究室には東部からの報告が次々と届いた。

王妃が目を通し、セレナが必要なものを抜き出していく。

いつもなら薬草や硝子瓶が並ぶ大きな机も、今は地図と帳簿に占領されていた。


「月白草、残り十二束です」

「少ないわね」

「先月、医療院へまとまった数を回したそうです。次の入荷は十日後ですわ」

「十日……」


王妃が地図へ目を落とした、そのときだった。


「母上」


扉が開く。

ルシアンが紙の束を抱えて入ってきた。


「これ、見て」


机の端に、ばさりと置く。


「何ですの?」

「東部の話。医療院の先生と薬師と、商人にも聞いた」


王妃が一枚を手に取った。


「ずいぶん集めたわね」

「最初は先生に聞いただけだったんだけど」


ルシアンが椅子を引く。


「隣にいた薬師が、東部から薬草の注文が増えてるって教えてくれて。その話をしてたら、今度は商人がラーデンでも熱を出してる人がいるって」

「それで、この量に?」

「うん。みんな色々知ってた」


ルシアンは何でもないことのように言う。

紙には、町の名と日付が並んでいた。

ラーデン。

ベルカ。

ハーン。

同じ話を複数から聞いたところには、小さな丸までついている。


「こちらの丸は?」

「同じ話を二人以上から聞いたところ」


セレナは紙から顔を上げた。


「きちんと分けていらしたんですのね」

「だって、一人だけだと本当か分からないでしょう?」

「ええ。その通りですわ」


ルシアンが少し嬉しそうに笑った。


「それで、これ」


一枚の紙が抜かれる。


「昨日、東部から着いた商人に聞いた」


王妃が受け取る。


「六人で王都に向かってたんだけど、一人だけハーンに残ったって」

「なぜ?」

「熱。咳も出てたらしい」


セレナの視線が地図へ落ちた。

ハーン。

すでに報告のあった町から、街道を西へ進んだ先だ。


「その方は?」

「銀鹿亭っていう宿にいる」


王妃の目が上がった。


「名前は?」

「ここ」


ルシアンが紙の下を指す。

患者の名前。

宿。

一緒に旅をしていた五人の名前と、王都での滞在先まで書かれている。


「よくここまで聞けましたわね」

「向こうから教えてくれたよ」

「向こうから?」

「僕が東部の話を聞いてるって言ったら、俺も知ってる、私も、って」


ルシアンが笑う。


「最後、全然帰れなかった」


その様子が簡単に想像できて、セレナも笑った。


「ルシアン様らしいですわね」


そのとき。

背後から腰に腕が回る。

ぽす、と肩に顎が乗った。


「ただいま」

「お帰りなさい、アル」


長い金髪が頬に触れる。

セレナはもう振り返らなかった。

王妃もルシアンも気にしていない。

いつものことだ。


「何してるの?」

「ルシアン様が東部のお話を集めてきてくださったんです」

「へえ」

「兄上、これ」


ルシアンが紙を差し出す。

アルベルトはセレナにくっついたまま目を通した。

途中で、視線が止まる。


「ハーンで熱?」

「うん。咳も」

「いつから?」

「着く少し前」

「宿は?」

「銀鹿亭」

「一緒に来た人は?」

「五人。全員王都にいる」

「どこ?」

「下に書いた」


アルベルトは少しだけ考えてから、セレナの腰に回していた腕を離した。


「医師を向かわせる」


近くにいた侍従を呼ぶ。


「ハーンの銀鹿亭。熱と咳がある人がいる。できるだけ他の客と離して診てもらって」

「承知いたしました」

「同行していた五人も確認を。名前と宿はここ」


紙を渡す。

侍従が足早に出ていった。

ルシアンがその背中を見送る。


「兄上」

「なに?」

「僕、もう少し聞いてくる」

「誰に?」

「商人組合。あそこなら東部を通る人も多いでしょう?」


アルベルトが頷く。


「直接会うのはやめて」

「分かってる。組合に話を集めてもらう」

「それならいい」


ルシアンは残った紙をまとめる。


「薬師の話はそこにあるよ。解熱に使う薬草が上がってるって」

「ありがとうございます、ルシアン様」

「また何かあったら持ってくる」

「お願いしますわ」

「じゃあね、姉上」

「ええ」


ルシアンが出ていく。

扉が閉まると、研究室が少し静かになった。

王妃が残された紙を一枚持ち上げる。


「この子、いつの間にこんなに聞いてきたのかしら」

「ルシアン様ですもの」


セレナは笑って、薬師から聞いたという紙を取った。

東部からの注文量。

仕入れ値。

王都の在庫。

数字を追うにつれ、笑みが消えていく。


「……かなり上がっていますわ」


王妃も覗き込む。


「特に解熱に使うものね」

「このまま増えたら、王都の分まで足りなくなるかもしれません」

「北部から回せるかしら」

「帝国から入れた方が早いよ」


アルベルトの声がした。

二人で顔を上げる。

いつの間にか地図を覗き込んでいた。


「帝国から?」

「北部にも倉庫を持ってる商会がある。薬草も扱ってるよ」


王妃が交易路を目で追う。


「間に合う?」

「たぶん一番早い」

「すぐに取引できるかしら」

「聞いてみる」


アルベルトは紙を一枚取った。


「僕が行く」


王妃は少し考え、頷いた。


「お願い」


アルベルトがペンを取る。

さらさらと、一つの名を書いた。

セレナは何気なくその文字を目で追う。





『ヴァレン商会』



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。