第12話 セレナが正解?
「殿下、一緒に遊びませんか?」
声をかけられて、アルベルトが顔を上げた。
庭では、同じ年頃の子どもたちが待っている。
アルベルトはそちらを見て、それからセレナを見た。
目が合う。
セレナは何となく笑い返した。
「……少しだけなら」
「本当ですか?」
少年たちが嬉しそうに駆け出す。
アルベルトもそのあとをついていった。
セレナは紅茶を口に運びながら、その背中を眺めた。
以前なら、興味がなければ断っていた。
それが今では、誘いに応じることもある。
少しずつ。
本当に少しずつだけれど。
変わってきているのかもしれない。
そう思うと、なんだか嬉しかった。
◇
「楽しかったです?」
帰りの廊下で聞いてみた。
「別に」
「まあ」
あまりにも早い返事に、思わず笑う。
「では、なぜ?」
「セレナが笑ったから」
「……はい?」
「行った方がよかったんでしょう?」
セレナは足を止めた。
アルベルトだけが、そのまま数歩先へ行く。
「アル」
「なに?」
振り返ったアルベルトは、いつも通りの顔をしていた。
「もしかして、いつもわたくしを見て決めています?」
「うん」
「…………」
「違った?」
違った。
かなり違った。
てっきり、相手のことを考えられるようになってきたのだと思っていた。
「では、わたくしがいないときは?」
アルベルトは少し考えた。
「セレナならどうするか考える」
「それも違います!」
即座に返すと、アルベルトの眉が寄った。
「じゃあ」
本当に分からないらしい。
「セレナが正解じゃないの?」
「違います!」
「そうなの?」
「そうです!」
なぜそこで驚くのだ。
セレナはアルベルトのところまで歩いていった。
「アル。わたくしだって間違えますのよ」
「ふうん」
絶対に信じていない顔だった。
「とにかく。何でもわたくしを見て決めるのはやめてくださいませ」
「じゃあ、どうするの?」
「まず、ご自分で考えるんです」
「何を?」
「アルがどうしたいかですわ」
アルベルトが黙った。
どうやら考えているらしい。
セレナも黙って待つ。
やがて、アルベルトが手を差し出した。
「……何ですの?」
「手」
「それは分かります」
「繋ぎたい」
セレナはその手を見る。
それから、アルベルトを見た。
「それは、わたくしを見て決めました?」
「違うよ。僕が繋ぎたい」
今度は迷いがなかった。
セレナは少しだけ笑った。
「では、どうぞ」
手を重ねる。
アルベルトの指が、すぐに握り返してきた。
二人でまた廊下を歩き出す。
数歩進んだところで。
「セレナ」
「なんですの?」
「これは正解?」
セレナは隣を見る。
「どうでしょう」
「でも、セレナも繋いでる」
「そうですわね」
「じゃあ正解」
満足そうに言って、繋いだ手を揺らす。
セレナは笑った。
「……まあ、今日はそれでいいですわ」
どうやら。
矯正には、まだもう少し時間がかかりそうだった。




