第11話 すきなもの
「セレナは何が好き?」
唐突だった。
「はい?」
夕方。
二人で王宮の廊下を歩いていたときのことだ。
アルベルトは前を向いたまま、もう一度聞いた。
「好きなもの」
「急にどうなさいました?」
「知りたいだけ」
セレナは少し考えた。
「本でしょうか」
「知ってる」
「お花も好きですわ」
「それも知ってる」
「甘いもの」
「知ってる」
「……では、なぜ聞くんですの?」
アルベルトは答えない。
セレナは指を折った。
「綺麗なドレスも好きですし、可愛いものも好きです。」
「それも知ってる」
「全部ご存じではありませんか」
「うん」
変なの。
そう思って歩き出す。
けれどアルベルトは、その場に立ったままだった。
「アル?」
振り返る。
「一番は?」
「一番?」
「セレナが一番好きなもの」
それは難しい。
本と花では比べられないし、焼き菓子とドレスでも比べようがない。
「一番と言われましても……」
困っていると、アルベルトがこちらへ来た。
「僕は決まってるよ」
「そうなんですの?」
「セレナ」
あまりにも迷いなく言われたので。
セレナは数秒、意味を理解できなかった。
「…………わたくし?」
「うん」
「今、物の話をしていたでしょう?」
「好きなものの話でしょう」
「人は『もの』ではありません!」
「じゃあ、好きな人」
「そういう問題でも……」
言いかけて、やめた。
七歳の子ども相手に何を慌てているのだろう。
「セレナは?」
「はい?」
「一番好きな人」
「それなら、お父様とお母様ですわ」
「二人いる」
「家族ですもの」
アルベルトが少し考える。
「じゃあ、家族じゃない人」
「条件を増やさないでくださいませ」
「僕?」
「なぜそうなるんですの?」
アルベルトは答えなかった。
ただ、じっと待っている。
「……アルのことも好きですわよ」
「一番?」
「ですから、一番は決められません」
「ふうん」
不満そうだ。
その顔がおかしくて、セレナは笑った。
「そんな顔をなさらないで」
「してない」
「しています」
セレナは手を差し出した。
アルベルトがその手を見る。
「帰りましょう?」
すぐに握られた。
歩き出す。
しばらくして。
「セレナ」
「なんですの?」
「明日は?」
「はい?」
「明日聞いたら、一番になってるかもしれないでしょう」
セレナは足を止めた。
アルベルトは真面目な顔をしている。
冗談ではないらしい。
「……毎日聞くおつもりですの?」
「だめなの?」
また。
セレナは笑いを堪えきれなかった。
「だめじゃないですけど」
「じゃあ明日も聞く」
繋いだ手が揺れる。
どうやらアルベルトは。
諦めるということだけは、まだ覚えていないらしい。




