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護衛対象は、お嬢様でした。  作者: 愚兎
文化祭、してみました。
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3

「ふぅー!」

黄瀬が大きく伸びをする。

「今日はここまでだな!」

「腹減ったー!」

「黄瀬君は、そればかりですね。」

小紫さんが苦笑する。

文化祭の準備も一区切りつき、俺たちは帰り支度を始めていた。

「じゃあ今日もみんなで帰ろうか。」

青嶌さんの一言に、

「賛成!」

「帰りましょう。」

神白さんも微笑みながら頷く。

荷物をまとめ、五人で教室を出ようとした、その時だった。

ブルルルッ。

小紫さんのスマートフォンが静かに震える。

「あ……。」

画面を見た小紫さんの表情が、ほんの一瞬だけ強張る。

「すみません。」

「少しだけ電話に出ますので、皆さんは先に帰っていてください。」

「え?」

黄瀬が首を傾げる。

「一緒に帰らねぇの?」

「はい。」

「すぐ終わると思いますので。」

「私も後から帰ります。」

いつもの柔らかな笑顔だった。

だから俺たちも深くは気にしなかった。

「じゃあ、また明日!」

黄瀬が手を振る。

「また明日。」

「お気を付けて。」

小紫さんは軽く会釈をすると、そのまま教室へ戻っていく。

俺たちは四人で昇降口へ向かって歩き始める。

文化祭の準備の話で盛り上がりながら歩いていると、不意に制服のポケットへ手を入れた。

「……あ。」

嫌な予感がする。

右のポケット。

左のポケット。

鞄の中も探してみる。

「ない……。」

思わず立ち止まった。

「ん?」

黄瀬が振り返る。

「どうした朝陽?」

「スマホ。」

「教室に忘れてきた。」

「ごめん。」

「ちょっと取ってくる。」

そう言って引き返そうとすると、

「黒鉄君。」

神白さんが少し心配そうに声を掛けてきた。

「大丈夫ですか?」

「うん。」

「教室まで戻るだけだから。」

その時、青嶌さんがニコッと笑った。

「じゃあさ!」

「私たちは校門で待ってようよ。」

「そうですね。」

神白さんも頷く。

黄瀬が親指を立てる。

「朝陽!」

「五分以内!」

「遅かったらアイス一本な!」

「なんでだよ。」

思わず苦笑する。

「すぐ戻るって。」

「じゃあ校門で待ってるね!」

青嶌さんはいつもの明るい笑顔を浮かべた。

神白さんも優しく微笑む。

「お待ちしています。」

四人へ軽く手を振ると、俺は一人、来た道を引き返した。

放課後の校舎は、さっきまでの賑やかさが嘘のように静まり返っている。

教室の扉へ手を掛けようとした、その時――。

「……申し訳ありません。」

聞き覚えのある声が耳に届く。

(小紫さん……?)

思わず足を止める。

教室の中を覗くと、小紫さんが窓際に立ち、小さな声でスマートフォンへ話しかけていた。

「定期連絡を怠ってしまい、申し訳ありません。」

いつもの穏やかな声。

だが、その口調は学校で見せるものとは少し違っていた。

「はい。」

「現在、神白伊吹の周辺に目立った動きはありません。」

俺の心臓が一つ、大きく脈を打つ。

(神白さん……?)

小紫さんは周囲を確認すると、さらに小さな声で続けた。

「何か変化がありましたら、すぐにご報告いたします。」

「……はい。」

短く返事をすると、通話はそこで切れた。

小紫さんはスマートフォンを制服のポケットへしまい、そのまま教室の出口へ向かって歩き出す。

俺は慌てて隣の教室へと身を隠した。

小紫さんは何事もなかったかのように廊下を歩き去っていく。

静まり返った教室に、一人取り残された俺は、その場から動けない。

(……どういうことだ。)

(なんで、小紫さんが神白さんのことを……?)

頭の中に、次々と疑問が浮かんでは消えていく。

その時だった。

ふと、入学初日の出来事が脳裏によみがえった。

――公園。

青嶌さんが真剣な表情で皆を見渡し、静かに言った。

『神白さんが今日この高校へ入学し、この時間に、この道を通ることを知っていました。』

その言葉に、その場の空気が一変した。

『偶然とは思えません。』

『つまり――』

『誰かが情報を流した可能性があります。』

その瞬間、俺も同じことを考えた。

(内部に……情報を流した人間がいる?)

そして、その直後だった。

俺は襲われた路地を離れる途中、ほんの一瞬だけ小紫さんの姿を見かけた。

街路樹の陰。

スマートフォンを耳に当て、誰かと話している。

その時は、誰かと電話をしているだけだと思った。

深く考えることもなく、そのまま通り過ぎた。

だけど――。

(まさか……。)

今、目の前で聞いてしまった電話の内容。

『神白伊吹周辺に目立った動きはありません。』

あの日の電話。

そして、今日の電話。

二つの出来事が一本の線で繋がった気がした。

(いや……。)

(待て。)

(まだ決まったわけじゃない。)

(ただ電話をしていただけかもしれない。)

そう自分に言い聞かせても、胸の奥に生まれた疑念は消えてくれなかった。


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