表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
護衛対象は、お嬢様でした。  作者: 愚兎
文化祭、してみました。
PR
95/127

2

「希望がある人は手を挙げてくださーい!」

その一言で、再び教室が賑やかになった。

「俺、厨房!」

「私は装飾!」

「レジやりたい!」

それぞれが希望を口にする中、

「私は……。」

神白さんがおずおずと手を挙げた。

「接客を、やってみたいです。」

その言葉に教室中が少し驚く。

「神白さんが?」

「いいじゃん!」

「絶対似合う!」

「袴姿とか最高じゃん!」

神白さんは少し照れながら微笑んだ。

「接客のお仕事は、経験がありません。」

「だからこそ、一度やってみたいと思いまして。」

「決まり!」

学級委員が名簿へ書き込む。

「神白さん、接客担当ね!」

「はい。」

神白さんは嬉しそうに頷いた。

「黒鉄君は?」

突然話を振られる。

「俺?」

「うーん……。」

何となく神白さんの方を見る。

「じゃあ俺も接客で。」

「よし!」

「黒鉄も接客!」

すると、

「待ったぁ!」

黄瀬が勢いよく立ち上がる。

「朝陽が接客なら俺も接客!」

「いや、お前は却下。」

学級委員が即答する。

「なんで!?」

「お前は落ち着きがないし。」

「注文わすれるだろ。」

教室中が笑いに包まれる。

「じゃあ厨房で!」

「はい決定。」

「くそぉ……。」

黄瀬は大げさに肩を落とした。

「私は神白さんと同じ接客で。」

青嶌さんも自然と立候補する。

「私も接客を希望します。」

小紫さんも静かに手を挙げた。

「お客様をご案内するくらいでしたら、お役に立てるかと思います。」

「よし!」

「接客は神白さん、黒鉄、青嶌さん、小紫さん!」

「その他は後で調整!」

こうして役割分担も順調に決まっていった。

「じゃあ次!」

「装飾担当は教室を大正時代っぽくしたいんだけど、何かアイデアある?」

「ランプとか!」

「ステンドグラス!」

「和傘!」

「レトロポスター!」

次々と意見が飛び交う。

「そうだ!」

黄瀬が何かを思いついたように立ち上がる。

「入口にでっかいウェルカムボード置こうぜ!」

「『ようこそ1-B大正喫茶へ』みたいな!」

「いいね!」

「賛成!」

「じゃあ誰が描く?」

教室がシーンとなる。

すると――

「私が描きます。」

小紫さんが静かに手を挙げた。

「絵を描くのは、昔から好きなんです。」

「おぉー!」

「じゃあお願い!」

「頼んだ!」

期待の眼差しを受けながら、小紫さんはスケッチブックを取り出し、真剣な表情で鉛筆を走らせ始めた。


文化祭の出し物が**『大正喫茶』**に決まってから数日。

ロングホームルームや放課後の時間を使い、それぞれが準備を進めていた。

接客担当は、お辞儀や配膳の練習。

厨房担当はメニューの試作や役割分担。

教室の中では机や椅子を移動させながら、大正時代らしい内装づくりも着々と進んでいた。

そんな中――。

教室の後方では、小紫さんが入口に飾るウェルカムボードへ真剣な表情で絵筆を走らせている。

「……。」

「……。」

誰にも話しかけられないほど集中している。

その姿を見た俺たちは、

「小紫さん、絵得意なんだ。」

「完成が楽しみだな。」

なんて勝手に期待していた。

やがて。

「できました。」

小紫さんは満足そうな笑みを浮かべながら、乾いたばかりのウェルカムボードを皆の前へ向けた。

「…………。」

教室が静まり返る。

「……えっと。」

最初に口を開いたのは黄瀬だった。

「ちなみに、これ何?」

小紫さんはきょとんと首を傾げた。

「はい?」

「看板の中央にいるのは女性です。」

「その隣が珈琲ですね。」

「上に飛んでいるのが鳩ですね。」

「…………。」

再び沈黙。

そして次の瞬間――。

「鳩ぉぉぉ!?」

その声をきっかけに、教室中が一斉に笑い出す。

「いやいや!」

「どう見ても魚だろ!」

「私は犬かと思いました!」

「いや、恐竜じゃない?」

「珈琲も花瓶にしか見えないぞ!」

「真ん中の女性はアゴが凶器だって」

「あはははは!」

教室は笑い声に包まれた。

小紫さんだけが、不思議そうに周りを見渡す。

「皆さんには……そう見えるんですか?」

「私は、かなり上手く描けたと思ったんですが……。」

その真面目な一言で、

「ふっ……。」

神白さんが思わず口元を押さえた。

肩が小刻みに震えている。

「神白さん?」

俺が声を掛けると、

「ご、ごめんなさい……。」

「でも……。」

「ふふっ。」

「本当に、面白くて……。」

神白さんは堪えきれず、小さく笑った。

その笑顔を見た俺は、思わず頬が緩む。

色々なことがあった神白さんが、こんなふうに心から笑っている。

それだけで、なんだか嬉しかった。

「黒鉄君まで笑ってます。」

小紫さんが少しだけ頬を膨らませる。

「いや、ごめん。」

「でもさ。」

俺はもう一度絵を見つめる。

「俺、この鳩……嫌いじゃないよ。」

「本当ですか!」

小紫さんの表情がぱっと明るくなる。

だが、その横で黄瀬がすかさずツッコミを入れた。

「朝陽!」

「それ鳩じゃねぇから!」

再び教室中が大きな笑いに包まれた。

「じゃあ、私も手伝うからさ描き直そうか。」

青嶌さんが苦笑しながら言う。

「えっ……。」

小紫さんは目に見えて肩を落とした。

「でも。」

俺はウェルカムボードを見ながら笑う。

「この絵、俺は嫌いじゃないけどな。」

「味があるっていうか。」

「スタッフルームに飾れば記念にもなるし。」

「私もそう思います。」

神白さんも微笑む。

「見ていると、なんだか笑顔になります。」

「ありがとうございます。」

小紫さんは少しだけ表情を和らげた。

その様子を見た黄瀬がニヤニヤしながら近寄る。

「いやでもさぁ。」

「この看板娘だけは何回見ても妖怪なんだよなぁ!」

「妖怪三日月?」

「いや、やっぱり妖怪アゴ出し女だ!」

教室中がまた吹き出した。

小紫さんは黄瀬をじっと見つめる。

数秒の沈黙。

そして――

「……黄瀬君。」

「はい?」

「嫌いです。」

「えぇぇぇぇぇぇぇっ!?」

黄瀬の悲鳴が教室中に響き渡る。

「ちょ、ちょっと待って!」

「冗談だから!」

「お願い!嫌いだけはやめて!」

「今さらです。」

小紫さんはぷいっと顔を背ける。

「あーっ!」

「小紫さんに嫌われたぁぁぁ!」

頭を抱えて大袈裟に嘆く黄瀬を見て、

「ふふっ。」

神白さんがまた笑う。

「自業自得ですね。」

青嶌さんも肩を震わせ、

「これは黄瀬君が悪いかな。」

俺も飽きれながら、

「完全に自爆だな。」

と苦笑する。

賑やかな笑い声が、今日も教室いっぱいに響いていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ