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「見てください!」
黄瀬が一枚の写真を指差す。
「朝陽、小さい頃から目つき悪っ!」
「本当ですね。」
小紫さんも思わず笑う。
「赤ちゃんの頃から三白眼だったんですね。」
「転んで泣いてる!」
「この顔、今と全然変わらないじゃん!」
「おい、そこ!」
「笑いすぎだろ!」
俺の抗議など誰も聞いていない。
リビングには笑い声が絶えず響いていた。
その様子を少し離れた場所から眺めながら、宗一郎さんが静かに口を開く。
「……楽しそうですね。」
「ええ。」
母さんは優しく微笑む。
「みんな、本当にいい子たちです。」
宗一郎さんは神白さんへ視線を向けた。
アルバムを覗き込みながら、心の底から笑っている娘。
その笑顔は、屋敷では滅多に見ることのできないものだった。
「伊吹が……。」
「こんなふうに笑っている姿を見るのは、本当に久しぶりです。」
少しだけ自嘲気味に笑う。
「私は今まで、娘を危険から遠ざけることばかり考えてきました。」
「良かれと思って決めた学校。」
「良かれと思って付けた護衛。」
「良かれと思って制限してきた日々。」
「ですが……。」
宗一郎さんはゆっくりと目を伏せる。
「今日の伊吹を見ていると。」
「本当に、あれが娘のためだったのか……分からなくなってしまいました。」
その言葉を聞いた母さんは、少しだけ考えるように空を見上げた。
そして穏やかに微笑む。
「子育て、難しいですよね。」
母さんは優しく笑いながら、お茶を一口飲んだ。
「子どもが転ばないように、失敗しないようにって。」
「つい、先回りして何でも解決してあげたくなるんです。」
宗一郎さんは静かに耳を傾けている。
「でも……。」
「何でも先回りして解決してしまうと、その子自身で考えて、悩んで、乗り越える力が育たなくなってしまう。」
「私は、そう思うんです。」
少し間を置いて、母さんは続けた。
「もちろん、本当の危険から遠ざけることも、親の大切な役目だと思います。」
「朝陽からお話は聞いています。」
「伊吹ちゃんの立場を考えれば、宗一郎さんが今までそうしてこられたのも、私は仕方のないことだったと思います。」
宗一郎さんは小さく目を伏せた。
母さんは神白さんたちの笑い声へ目を向け、穏やかに微笑む。
「でもね。」
「伊吹ちゃんには、自分で考えて、自分の足で立ち上がれる強さがあります。」
「だからこそ、お友達のことを心から大切に思って、自分から行動できる優しい子に育ったんじゃないでしょうか。」
その言葉に、宗一郎さんは娘の笑顔へ静かに目を向ける。
「ですから……。」
母さんは優しく笑った。
「どうか、ご自分を責めないでください。」
「これまでと同じように、伊吹ちゃんにとって一番安心できる場所でいてあげてください。」
「それだけで、十分なんだと思います。」
そして照れくさそうに頭を掻く。
「今はただ……。」
「あの子たちが心の底から笑い合える友達と出会えたことを、一緒に喜んであげましょう。」
「……なんて。」
「偉そうなことを言ってしまって、ごめんなさいね。」
宗一郎さんはしばらく何も言わなかった。
やがて小さく息を吐き、どこか肩の荷が下りたような穏やかな笑みを浮かべる。
しばらく神白さんの笑顔を見つめていた。
友達と笑い合い、時には照れ、時には大きな声で笑う娘。
その姿を見ているうちに、自然と口元が緩む。
「……そうですね。」
小さく頷く。
「私はいつの間にか、娘を守ることばかりに必死で……。」
「娘を信じることを、少し忘れていたのかもしれません。」
その表情に、先ほどまでの迷いや後悔はもうなかった。
あるのは、一人の父親としての穏やかな笑顔だけだった。
「ありがとうございます。」
「今日は、この家へ来て本当に良かった。」
「おかげで、大切なことを思い出すことができました。」
そう言うと宗一郎さんは、もう一度神白さんへ視線を向ける。
「伊吹。」
「これからも、たくさん笑いなさい。」
「お前のその笑顔が、お父さんは一番好きだから。」
離れた場所にいた神白さんは、その言葉に驚いたように振り返り――
やがて花が咲くような笑顔を見せた。
「はい、お父様。」
その笑顔を見た宗一郎さんも、今までで一番晴れやかな笑みを浮かべるのだった。




