8
料理がすべて並び終わると、母さんが満足そうに手を叩いた。
「よーし!」
「みんな、席について!」
それぞれが「はーい」と返事をしながらちゃぶ台を囲む。
俺は自分の席へ。
その隣には神白さん。
反対側には黄瀬と緋乃。
神白さんの隣には夕奈が嬉しそうに座り、向かいには小紫さんと青嶌さん。
そして、ちゃぶ台の一番奥に宗一郎さん。
母さんは台所と食卓を行き来しやすいよう、出入口に一番近い席へ腰を下ろした。
少し窮屈ではあるものの、不思議と誰一人嫌な顔はしない。
「なんか修学旅行みたいだな!」
黄瀬が笑いながら辺りを見渡す。
「確かに。」
青嶌さんもくすっと笑う。
「これだけ大人数で一つのちゃぶ台を囲む機会なんて、なかなかありませんからね。」
宗一郎さんも部屋を見回し、穏やかに微笑んだ。
「とても賑やかな食卓ですね。」
その一言に母さんは照れくさそうに笑う。
「狭くて申し訳ないですけど、その分みんなの顔がよく見えるでしょう?」
「私は、こういう食卓が好きなんです。」
その言葉に、宗一郎さんは静かに頷いた。
全員が席に着いたことを確認すると、母さんは最後の料理をちゃぶ台の中央へ並べた。
湯気の立つ唐揚げ。
肉じゃが。
照りのいいハンバーグ。
色鮮やかなポテトサラダ。
そして、神白さんが気に入ってくれたマヨネーズ入りの卵焼き。
家庭料理ばかりではあるが、ちゃぶ台いっぱいに並んだ料理は思わず目を奪われるほどだった。
「おぉー!」
黄瀬が目を輝かせる。
「すげぇ!」
「こんな豪華なご飯、久しぶりに見た!」
「まだ手を出しちゃダメよ?」
母さんが笑いながら黄瀬をたしなめる。
「みんな揃ってから。」
「へへっ、すみません。」
黄瀬は照れ笑いを浮かべながら箸を置いた。
神白さんは料理を一品一品見つめ、どこか感動したように呟く。
「……すごい。」
「全部、お母様がお作りになられたんですか?」
「ええ。」
「特別な物じゃないけどね。」
母さんは少し照れくさそうに笑う。
「みんなで食べるご飯って、それだけで美味しくなるものだから。」
宗一郎さんは静かに料理へ視線を向ける。
「……どれも本当に美味しそうだ。」
その穏やかな表情を見て、俺は少しだけ意外に思った。
テレビで見るような"神白グループ会長"ではなく、今日はただ、一人の父親としてこの場を楽しんでいるように見えた。
「さぁ。」
母さんが手を合わせる。
「冷めないうちにいただきましょう。」
「「「いただきます。」」」
みんなの声が重なり、賑やかな食事会が始まった。
「いただきます。」
全員が箸を手に取る。
「じゃあ、まずは……。」
黄瀬は目の前の唐揚げへ一直線だった。
一口頬張った瞬間――。
「うっっま!!」
思わず立ち上がりそうな勢いで叫ぶ。
「なにこれ!」
「外カリッ、中ジュワッじゃん!」
「店より美味い!」
「ちょっと黄瀬君。」
青嶌さんが苦笑する。
「まだ一口目だよ。」
「いや、これは叫ぶって!」
「緋乃も食ってみ!」
「……。」
緋乃は静かに唐揚げを口へ運ぶ。
数回噛むと、小さく頷いた。
「……美味い。」
「ご飯が進む。」
「だろ!」
黄瀬はなぜか得意げだ。
「俺が作ったわけじゃないけど!」
「ふふ。」
小紫さんも卵焼きを一口食べる。
「とてもまろやかで優しい味ですね。」
「ありがとうございます。」
母さんは照れ臭そうに笑う。
その隣では神白さんが、そっと卵焼きを箸で持ち上げていた。
一口。
ゆっくり味わうように口へ運ぶ。
「……。」
次の瞬間、ふわりと表情が緩んだ。
「やっぱり……。」
「この卵焼き、とても美味しいです。」
「前にいただいた時から、また食べたいと思っていました。」
「まあ。」
母さんは嬉しそうに笑う。
「そんなに気に入ってくれたの?」
「はい。」
神白さんは嬉しそうに頷く。
「この味、大好きです。」
「それなら今日はたくさん作ったから、おかわりもいっぱいあるわよ。」
「本当ですか?」
神白さんの声が少し弾む。
その様子を見ていた夕奈が、にこっと笑った。
「お姉ちゃん!」
「いっぱい食べてね!」
「え?」
神白さんは自分を指差した。
「私?」
「うん!」
「お兄ちゃんのお友達でしょ?」
「いっぱい食べてくれる人、お母さん好きなんだよ!」
「そうなんですね。」
神白さんは優しく笑い返した。
その微笑ましいやり取りを見て、宗一郎さんは静かに箸を置く。
そして部屋をゆっくり見渡しながら、小さく呟いた。
「……賑やかで、温かい食卓ですね。」
その横顔は、どこか羨ましそうにも見えた。
食事も終わりに近づき、みんながお茶を飲みながら一息ついていた。
「ふぅ~!」
黄瀬が満足そうにお腹をさする。
「ごちそうさまでした!」
「めちゃくちゃ美味かった!」
「それは良かったわ。」
母さんが嬉しそうに微笑む。
しばらく談笑していると、黄瀬が何かを思いついたように俺を見た。
「なぁ、朝陽。」
「ん?」
「朝陽のアルバムとかないの?」
「は?」
嫌な予感しかしない。
「なんでだよ。」
「見たいじゃん!」
「絶対ちっちゃい頃かわいいって!」
「私も少し興味があります。」
小紫さんが上品に微笑む。
「黒鉄君の幼少期、ぜひ拝見してみたいですね。」
「私もー。」
青嶌さんも笑いながら頷く。
「神白さんは?」
突然話を振られた神白さんは少し戸惑いながらも、小さく頷いた。
「……はい。」
「私も、少し見てみたいです。」
「緋乃は?」
「……興味はな…。」
そう言った緋乃だったが、
「……少しは…。」
と小さく付け加える。
「ほら!」
「全員一致!」
黄瀬が勝ち誇ったように笑う。
「却下。」
即答した俺だったが、母さんは楽しそうに立ち上がった。
「あら、アルバムならあるわよ。」
「母さん!」
俺の制止も聞かず、母さんは押し入れから何冊ものアルバムを抱えて戻ってくる。
そして、ちゃぶ台とは別に立て掛けて置いてあった小さな丸いテーブルをリビングの隅へ運び、その上へアルバムを丁寧に積み重ねた。
「さぁ。」
「みんな、こっちへどうぞ。」
母さんが一冊目のアルバムをゆっくり開く。
「うわぁ!」
黄瀬が真っ先に駆け寄り、その後ろから神白さん、小紫さん、青嶌さん、緋乃も自然と集まってきた。
俺だけが少し離れた場所で頭を抱える。
(終わった……。)
そんな俺の気持ちなどお構いなしに、黄瀬は楽しそうに最初のページをめくった。




