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――お食事会当日。
俺たち家族の朝は、いつもよりずっと早かった。
黒鉄家のリビングは、決して広いとは言えない。
普段なら家族三人で十分な広さだが、今日は違う。
神白さん、宗一郎さん。
黄瀬、青嶌さん、小紫さん、緋乃。
六人のお客さんを迎えるとなると、このままでは少し手狭だ。
「よし……。」
俺はリビングを見回すと、まず必要のない荷物を自分の部屋へ運び込む。
夕奈のおもちゃ箱や雑誌、小さな棚も別の部屋へ移動した。
母さんはダイニングテーブルを片付け、押し入れから長めのちゃぶ台を取り出す。
二人で位置を何度も調整しながら並べてみる。
「これなら……。」
俺は一歩下がって部屋全体を見渡した。
少し窮屈にはなるが、全員が座ることはできそうだ。
「うん。」
「何とかなるかな。」
その時――。
「朝陽!」
母さんの元気な声が台所から響く。
「買い物行くわよ!」
「あ、うん。」
財布をポケットへ入れ、母さんと一緒に玄関を出る。
向かう先は、歩いて数分の場所にある二十四時間営業のスーパー。
今日は、母さんが何日も前から楽しみにしていたお食事会の準備が始まった。
買い物を終えると、両手いっぱいに食材の入った袋を提げて家へ戻る。
「いやぁ、買った買った!」
母さんは満足そうに笑う。
「これだけあれば足りるでしょ!」
「……いや。」
俺は袋の中を見て苦笑した。
「ちょっと買いすぎじゃない?」
「何言ってるの。」
母さんは胸を張る。
「今日はお客様をお迎えするんだから!」
「お腹いっぱいになって帰ってもらわないと!」
「食べ切れるかな……。」
「余ったら明日食べればいいのよ。」
そんなことを話しながら家へ入る。
母さんは買い物袋を台所へ運ぶと、手際よく食材を冷蔵庫へしまい始めた。
「朝陽。」
「野菜、お願い。」
「了解。」
俺は買い物袋から野菜を取り出し、母さんへ渡していく。
「夕奈!」
「テーブル拭いてくれる?」
「はーい!」
夕奈も嬉しそうに返事をすると、小さな手で一生懸命ちゃぶ台を拭き始める。
午前中には料理もひと段落し、部屋の片付けも終わった。
ちゃぶ台の上には取り皿や箸が人数分並べられ、あとは料理を運ぶだけだ。
「よし!」
母さんが部屋を見回し、満足そうに頷く。
「準備完了!」
その時だった。
ピンポーン。
玄関のインターホンが鳴る。
「来たみたいね。」
母さんがエプロンで手を拭きながら玄関へ向かう。
俺も後を追った。
ガチャ。
扉を開けると、そこには神白さんと宗一郎さんが立っていた。
神白さんは淡い色のワンピース姿で、学校とはまた違った落ち着いた雰囲気を纏っている。
宗一郎さんも休日らしいジャケット姿だった。
「こんにちは。」
宗一郎さんは柔らかな笑みを浮かべる。
「本日はお招きいただき、ありがとうございます。」
神白さんも一歩前へ出ると、丁寧に頭を下げた。
「本日はよろしくお願いいたします。」
すると母さんは慌てる様子もなく笑顔で手を振る。
「あらあら!」
「同級生の子どもを持つ親同士なんですから、そんなにかしこまらなくていいんですよ。」
「さあ、どうぞどうぞ。」
「狭い家ですが、ゆっくりしていってください。」
「ありがとうございます。」
二人が玄関へ入ると、奥から小さな足音が聞こえてきた。
「お兄ちゃーん!」
夕奈だった。
俺の後ろからひょこっと顔を出すと、不思議そうに神白さんを見つめる。
「……?」
母さんが優しく夕奈の肩へ手を置く。
「夕奈。」
「こちらがお兄ちゃんのお友達の神白さんよ。」
夕奈は少し緊張した様子で頭を下げた。
「は、はじめまして。」
「黒鉄夕奈です。」
神白さんは自然と目線を合わせるようにしゃがみ込み、優しく微笑む。
「はじめまして、夕奈ちゃん。」
「神白伊吹です。」
「今日はよろしくお願いしますね。」
その笑顔を見た夕奈も、安心したようににこっと笑った。
「よろしくお願いします!」
その微笑ましい空気の中―
「ピンポーン。」
「今日は賑やかになりそうね。」
母さんが笑いながら玄関へ向かう。
扉を開けると、今度は黄瀬、青嶌さん、小紫さん、そして緋乃が並んで立っていた。
「こんにちはー!」
「お邪魔しまーす!」
「本日はよろしくお願いいたします。」
「失礼します。」
「こんにちは。」
四人が次々と挨拶をすると、母さんは嬉しそうに両手を広げた。
「みんないらっしゃい!」
「さぁさぁ、遠慮しないで入って!」
こうして黒鉄家に全員が揃い、お食事会が始まろうとしていた。




