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護衛のバイト、してみませんか?  作者: 愚兎
護衛のバイト、してみませんか?
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9/14

1

教室を出た廊下は、入学初日のざわつきをまだ完全には消せずにいた。


「じゃあ、駅まで行こっか!」

青嶌羽唯がいつものように明るく声を上げる。


「はい。ご一緒できて嬉しいです」

神白伊吹は柔らかく微笑み、小さく頭を下げた。


「おー、なんか帰宅イベントって感じするねぇ」

黄瀬王輝が肩をぐるりと回しながら歩き出す。

その後ろを、俺も何気なくついていく。

入学初日。

それは、ごく普通の下校になるはずだった。


少し先を歩いていた青嶌の足が、不意に止まる。

ほんの一瞬。

気にしてなければ見逃すほどの間だった。

だが、次の瞬間には何事もなかったように笑顔へ戻っている。


玄関で靴を履き替え、校門へ向かう途中。

青嶌の視線が何度か周囲を流れる。

景色を眺めているようで、その実、何かを探しているようにも見えた。

偶然にしては、回数が多い。

「神白さん」

「はい?」

「可愛いレディーは壁側を歩こうか。わたくしがエスコート差し上げます♪」

「え、は、はい……?」

理由のない提案。

だが、不自然さを感じるほどでもない。

神白は素直に壁側へ移動した。

その瞬間だった。

校門を出て、長い坂を下る。

何度目かの角を曲がった、人通りの少ない路地。

「――ッ」

青嶌の笑顔が消えた。

神白のすぐ脇を、黒塗りのバンが勢いよく走り抜ける。

「チッ」

青嶌が小さく舌打ちするのが聞こえた。

バンは数メートル先で急停止し、俺たちの進路を塞ぐように横向きで止まった。

狭い路地には不自然すぎる止め方。

まるで最初から待ち伏せしていたようだった。

「……なんか嫌な予感しませんかい?」

ふざけた口調のまま。

だが黄瀬の声色だけが、わずかに低い。

ザァッ――。

スライドドアが開く。

中から男が二人降りてきた。

一人はスキンヘッド。

首を鳴らしながらゆっくり歩いてくる。

もう一人は肩まで伸びた長髪を掻き上げ、大きな欠伸をしていた。

その姿を見た瞬間、理解する。

――こいつらは、まともじゃない。

「走って!」 

青嶌の叫びが路地に響く。

俺たちが反転した、その瞬間。

反対側の路地から、金髪の男が姿を現した。

逃げ道が塞がれる。

「……ッ」

青嶌が短く息を呑む。

「神白伊吹さん、いますかねぇ」

スキンヘッドの男が、値踏みするような目で辺りを見回す。

神白の肩が、ぴくりと震えた。

「あ、いたいた。反応した。」

長髪の男が神白を指差して笑う。

「おとなしく来てもらえると助かるんだけどなぁ」

神白の喉が小さく鳴る。

一歩下がろうとした、その時だった。

「動くな。」

スキンヘッドの男が笑う。

「騒がれると面倒なんで。」

軽い口調。

だが、その目だけは笑っていなかった。

「……ごめんなさい」

背中越しに、かすれるような声が聞こえる。

(謝るな)

そう思うより先に、口が動いていた。

「神白さんが謝る必要はない。」

「黒鉄君……」

俺は青嶌へ視線だけを送る。

「……青嶌さん」

「分かってる。」

返事は一瞬だった。

いつもの明るい少女は、もうそこにはいない。

笑顔は消え、瞳だけが静かに周囲を測っている。

(この人……)

今までとは別人みたいだ。

俺は黄瀬へ目を向けた。

「黄瀬。」

「あいよ。」

「喧嘩したことあるか?」

「んにゃ。ないねぇ。」

即答だった。

「格闘技は?」

「それもない。」

「……だよな。」

思わず額を押さえる。

すると黄瀬は、男たちから視線を外さないまま笑った。

「でもさ。」

「?」

「こいつらくらいなら、なんとかなる気がする。」

「根拠は?」

「昨日、MeTubeで格闘技動画いっぱい観た。」

思わず吹き出しそうになる。

「信じてないでしょ?」

「まあな。」

「でも俺、スポーツなら見れば大抵できるから。」

その声には、不思議とハッタリだけじゃない自信があった。

俺は小さく笑う。

「……その自信だけは羨ましいよ。」

本作を最後までお読みいただき、誠にありがとうございます。

まだまだ読者の方も少なく、皆様がどのように感じられたか、そわそわとした気持ちでおります。

どのような些細なことでも、また率直なご意見でも大変励みになりますので、一言だけでも感想をいただけますと幸いです。


最後に気に入って頂けたら、ブックマークと評価のほど宜しくお願い致します

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