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護衛対象は、お嬢様でした。  作者: 愚兎
お食事会、してみました。
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5

突然の質問だった。

(……なんで、いきなりそんな話を?)

思わず神白さんの顔を見つめる。

真剣な表情だった。

冗談で言っているようには見えない。

神白さんは、日本でも指折りの大企業――神白グループの令嬢だ。

そう考えれば、不思議な話ではないのかもしれない。

(大企業の令嬢だし……。)

(今の時代でも、許嫁とかいるものなのかな。)

もし本当に決まった相手がいるのだとしたら。

いつ結婚するんだろう。

高校を卒業してすぐなのか。

それとも大学を出てからなのか。

次から次へと考えが浮かんでは消えていく。

だけど――。

それ以上に気になったのは、自分の胸の奥だった。

その話を聞いた瞬間から、胸のどこかが妙にざわついている。

苦しいわけじゃない。

痛いわけでもない。

ただ、何かが引っ掛かっているような……。

言葉ではうまく説明できない、もやもやとした感覚。

(……なんなんだ、この感じ。)

その正体だけは、どうしても分からなかった。

俺は少しだけ視線を逸らし、小さく息を吐いた。

「正直さ。」

「なんでそんなことを聞くのかは分からない。」

神白さんは黙って俺の言葉を待っている。

「神白さんが大企業の令嬢ってことを考えれば、そういう話があっても不思議じゃないとは思う。」

「でも……。」

そこで言葉が止まった。

胸の奥に残る、この妙な感覚。

何と表現すればいいのか分からない。

俺は頭を掻きながら苦笑した。

「なんて言えばいいんだろ。」

「その話を聞いた瞬間から、胸の中がずっとモヤモヤしてる。」

「引っ掛かるっていうか……。」

「なんか、素直に『そうなんだ』って思えない自分がいる。」

「理由は分からない。」

「だから、ごめん。」

「今の俺には、それ以上うまく答えられないや。」

神白さんは少しだけ目を見開き――。

やがて、ほっとしたように優しく微笑んだ。

そして、張りつめていた表情が少しずつ柔らかくなっていく。

「……そう、ですか。」

その声は、どこか安心したようにも聞こえた。

神白さんは胸の前でそっと両手を重ね、小さく微笑む。

「ありがとうございます。」

「え?」

俺は思わず首を傾げた。

「いや……俺、ちゃんと答えられてないけど。」

「それでも、十分です。」

神白さんはゆっくりと首を横へ振る。

「?」

ますます意味が分からない。

俺が困ったように頭を掻いていると、神白さんはくすっと笑った。

「ふふ。」

「やっぱり黒鉄くんは、黒鉄くんですね。」

「なんだよ、それ。」

「内緒です。」

そう言って神白さんは少しだけいたずらっぽく笑う。

その笑顔は、さっきまで見せていた曇った表情が嘘のように晴れやかだった。

……結局、何が正解だったのか。

俺には最後まで分からないままだった。

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