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突然の質問だった。
(……なんで、いきなりそんな話を?)
思わず神白さんの顔を見つめる。
真剣な表情だった。
冗談で言っているようには見えない。
神白さんは、日本でも指折りの大企業――神白グループの令嬢だ。
そう考えれば、不思議な話ではないのかもしれない。
(大企業の令嬢だし……。)
(今の時代でも、許嫁とかいるものなのかな。)
もし本当に決まった相手がいるのだとしたら。
いつ結婚するんだろう。
高校を卒業してすぐなのか。
それとも大学を出てからなのか。
次から次へと考えが浮かんでは消えていく。
だけど――。
それ以上に気になったのは、自分の胸の奥だった。
その話を聞いた瞬間から、胸のどこかが妙にざわついている。
苦しいわけじゃない。
痛いわけでもない。
ただ、何かが引っ掛かっているような……。
言葉ではうまく説明できない、もやもやとした感覚。
(……なんなんだ、この感じ。)
その正体だけは、どうしても分からなかった。
俺は少しだけ視線を逸らし、小さく息を吐いた。
「正直さ。」
「なんでそんなことを聞くのかは分からない。」
神白さんは黙って俺の言葉を待っている。
「神白さんが大企業の令嬢ってことを考えれば、そういう話があっても不思議じゃないとは思う。」
「でも……。」
そこで言葉が止まった。
胸の奥に残る、この妙な感覚。
何と表現すればいいのか分からない。
俺は頭を掻きながら苦笑した。
「なんて言えばいいんだろ。」
「その話を聞いた瞬間から、胸の中がずっとモヤモヤしてる。」
「引っ掛かるっていうか……。」
「なんか、素直に『そうなんだ』って思えない自分がいる。」
「理由は分からない。」
「だから、ごめん。」
「今の俺には、それ以上うまく答えられないや。」
神白さんは少しだけ目を見開き――。
やがて、ほっとしたように優しく微笑んだ。
そして、張りつめていた表情が少しずつ柔らかくなっていく。
「……そう、ですか。」
その声は、どこか安心したようにも聞こえた。
神白さんは胸の前でそっと両手を重ね、小さく微笑む。
「ありがとうございます。」
「え?」
俺は思わず首を傾げた。
「いや……俺、ちゃんと答えられてないけど。」
「それでも、十分です。」
神白さんはゆっくりと首を横へ振る。
「?」
ますます意味が分からない。
俺が困ったように頭を掻いていると、神白さんはくすっと笑った。
「ふふ。」
「やっぱり黒鉄くんは、黒鉄くんですね。」
「なんだよ、それ。」
「内緒です。」
そう言って神白さんは少しだけいたずらっぽく笑う。
その笑顔は、さっきまで見せていた曇った表情が嘘のように晴れやかだった。
……結局、何が正解だったのか。
俺には最後まで分からないままだった。




