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それからは何事もなく授業が進み、気付けば放課後になっていた。
「よーし、帰るか!」
黄瀬の一声で、俺たち五人は教室を後にする。
いつものように他愛のない会話をしながら昇降口を抜け、正門へ向かう。
すると――。
「朝陽!」
聞き覚えのある声が、校門前に響いた。
「ん?」
振り向いた俺は思わず足を止める。
そこに立っていたのは、他校の制服に身を包んだ一人の少女だった。
長い黒髪の内側だけを鮮やかな緑色に染めたインナーカラー。
その髪を後ろでひとつに結んだポニーテールが風に揺れている。
両手を腰に当て、仁王立ちでこちらを睨みつける姿は、昔から何ひとつ変わっていなかった。
「……夏穂?」
思わず声が漏れる。
「どうして、うちの学校に?」
夏穂はズカズカと俺の目の前まで歩いてくる。
「どうしてじゃないわよ!」
そのまま勢いよく俺の額を人差し指で突く。
「お父さんから聞いたんだから!」
「黒天狗と揉めたんでしょ!」
「いや……それは……。」
「『それは』じゃない!」
夏穂はぷくっと頬を膨らませた。
「心配したんだから!」
「学校を途中で早退して、わざわざ会いに来たのよ!」
その言葉に、俺は頭を掻きながら苦笑する。
「……うん。」
「ごめんって。」
俺が素直に謝ると、夏穂は小さく鼻を鳴らした。
その様子を見ていた黄瀬が、不思議そうに首を傾げる。
「えっと朝陽。」
「そちらの方は?」
「あぁ。」
俺は夏穂へ視線を向けて答えた。
「幼馴染の緑山夏穂。」
「昨日いた緑山署長の娘だよ。」
「ちなみに今回の件で、少し協力してもらってたんだ。」
その言葉を聞いた夏穂は、さっきまで怒っていたのが嘘みたいに表情を和らげた。
「そっか!」
「朝陽のお友達なんだね!」
そう言うと、夏穂はみんなへ向かってぺこりと頭を下げる。
「紹介に預かりました、緑山夏穂です!」
「朝陽と仲良くしてくれて、本当にありがとう!」
「おい。」
思わずツッコミを入れる。
「保護者みたいな言い方やめろよ。」
「だって、本当じゃない。」
夏穂は悪戯っぽく笑うと、ニヤニヤしながら俺の頬を人差し指でつついてきた。
「昔なんて、私しか友達いなかったくせに。」
「いてっ。」
「だから、それを今言うなって。」
「事実でしょ?」
「……否定できないのが悔しい。」
俺が肩を落とすと、夏穂は満足そうに笑った。
二人のやり取りを見ていた小紫さんが、くすっと笑みをこぼし。
「ふふ。」
「お二人、とても仲が良いんですね。」
「もしかして……。」
「恋人同士だったりするんですか?」
「「違います!」」
俺と夏穂の声がぴったり重なった。
夏穂は少し頬を赤くしながら俺の腕を軽く叩き。
「恋人じゃないけど……。」
「小さい頃に結婚する約束はしたかなぁ…。」
「は?」
俺は思わず夏穂を見た。
「おい。」
「それ、お前が勝手に『約束ね!』って言って、無理やり指切りさせただけだろ。」
「いいじゃない。」
夏穂は悪びれる様子もなく胸を張る。
「約束は約束なんだから。」
「どこの世界に一方的な約束があるんだよ……。」
俺が呆れてため息をつくと、黄瀬がニヤニヤしながら肩へ腕を回してきた。
「朝陽〜。」
「お前、隅に置けねぇなぁ。」
「幼馴染と結婚の約束とか、青春してんじゃん。」
「してねぇよ。」
「全部こいつの一方的な約束だから。」
「一方的って失礼な言い方ね!」
夏穂はぷくっと頬を膨らませる。
「私はちゃんと覚えてるんだから!」
そんな俺たちを見て、小紫さんは意味ありげに微笑み、神白さんは静かに視線を落とした。
その後、俺たちは校門を後にし、家へ向かって歩き始める。
夏穂も自然と俺たちの輪へ加わり
「ねぇねぇ。」
青嶌さんが興味津々といった様子で夏穂へ顔を向けた。
「昔の黒鉄君って、どんな感じだったの?」
「ふふ。」
小紫さんも微笑みながら続ける。
「私も少し興味がありますね。」
「昔の朝陽?」
夏穂は少し考えるように空を見上げた。
「ん~……。」
「よく泣いてたイメージかな。」
「え?」
黄瀬が目を丸くする。
「朝陽が?」
「うん。」
「転んでは泣いて、武術の練習が嫌で泣いて、お母さんの後ろに隠れてたし。」
「虫も苦手だったよね。」
「おいおい。」
俺は思わず顔をしかめる。
「そんな昔の話、今さら聞いてどうするんだよ……。」
「え~。」
「可愛いじゃん。」
夏穂は楽しそうに笑う。
みんなもつられて笑い出した。
そんな中――。
ふと、神白さんへ目を向ける。
さっきまで笑っていたはずなのに、どこか表情が晴れない様子で後を歩いている。
「……神白さん?」
俺が声を掛けると、神白さんはハッとしたように顔を上げた。
「は、はい。」
「どうかした?」
少しだけ言い淀んだ後、神白さんは俺を真っ直ぐ見つめる。
「黒鉄くん。」
「少し、お尋ねしたいことがあります。」
「俺に?」
「いいけど……何かな?」
神白さんは一度だけ小さく息を吸う。
そして、静かに口を開いた。
「仮に……のお話になるのですが。」
「もし私に、将来決まったお相手がいると言ったら――」
「黒鉄くんは、どうしますか?」




