3
教室へ戻ると、あちこちから昨日のニュースについて話す声が聞こえてきた。
「昨日の事件、すごかったよな。」
「ニュースでずっとやってた。」
「半グレ集団が捕まったんだろ?」
「怖ぇよな……。」
誰も、自分たちのクラスメイトがその事件の当事者だったとは思っていない。
俺は何事もなかったように席へ腰を下ろした。
その時だった。
「よっ!」
聞き慣れた声と共に、黄瀬が勢いよく俺の肩を叩く。
「昨日のやつ、ニュースに出てたな!」
「うん。」
俺は小さく頷く。
「でも、なるべく俺たちはこのことには触れないようにしよう。」
「余計な騒ぎになるだけだから。」
「だな。」
黄瀬も珍しく真面目な表情で頷いた。
「私も、それが良いかと思います。」
後ろから声がして振り返ると、小紫さんがいつもの穏やかな笑みを浮かべて立っていた。
その隣では、青嶌さんも小さく頷く。
「私も黒鉄くんの意見に賛成です。」
四人で話していると、教室の扉がゆっくりと開いた。
「おはようございます。」
神白さんだった。
神白さんは俺たちの前まで来ると、周囲に聞こえないよう小さく頭を下げる。
「昨日は、本当にありがとうございました。」
俺は苦笑しながら首を振った。
「お礼なら昨日で十分伝わったよ。」
「だから、もう気にしなくていい。」
神白さんは少しだけ照れたように微笑んだ。
その瞬間――
ガラッ。
勢いよく教室の扉が開く。
「おーい! お前ら席につけー!」
担任の北条先生だった。
教室中が慌てて自分の席へ戻っていく。
北条先生は出席簿を机へ置くと、教室をぐるりと見渡した。
そして――
ニヤリ、と笑う。
「それとな。」
「神白、黒鉄、黄瀬、青嶌、小紫。」
「私の授業を無断欠席とは……。」
「なかなかいい度胸してるじゃないか。」
五人が同時に固まる。
「ホームルームが終わったら――」
「全員、職員室まで来るように!」
教室中が静まり返る中、黄瀬だけが小さく呟いた。
「……終わった。」
ホームルームが終わると、俺たちは北条先生に連れられ職員室へ向かった。
職員室へ入ると、先生は自分の席へどっかりと腰を下ろす。
俺たちはその前に一列に並んだ。
先生はしばらく俺たちを見つめると、大きくため息をついた。
「青嶌のご両親から、大体の事情は聞いている。」
その一言に、俺たちは黙って耳を傾ける。
「だからといって、お前たちのやったことを褒めるつもりはない。」
先生の表情が真剣なものへ変わる。
「いいか。」
「いくら人を助けたいという気持ちがあったとしても、お前たちのしたことは学生の範疇を完全に超えている。」
「相手がどんな連中だったか分かっているのか?」
「一歩間違えれば、お前たちは誰一人ここに立っていなかった。」
先生は机を軽く叩いた。
「無事だったことを奇跡だと思え!」
職員室に先生の声が響き渡る。
俺たちは誰一人言い返すことなく、ただ黙って頭を下げた。
「「「「「……申し訳ありませんでした。」」」」」
先生は再び大きく息を吐く。
「反省しているなら、それでいい。」
「だが、二度と同じことはするな。」
「これは教師としての命令だ。」
「……はい。」
俺たちは揃って返事をすると、職員室を後にした。
教室へ戻ると、待っていましたと言わんばかりにクラスメイトたちが一斉に集まってくる。
「おいおい、何したんだよ!」
「朝から職員室って珍しいな!」
「神白さんまで呼ばれるなんて何があったんだ?」
質問攻めに遭う俺たち。
俺は黄瀬たちと顔を見合わせると、小さく頷いた。
「昨日、みんなでサボったのがバレたんだよ。」
そう答えると、黄瀬も大げさに肩を落とした。
「いやぁ~、めちゃくちゃ怒られたわ!」
「しばらくサボるのはやめようぜ……。」
その言葉に教室は笑いに包まれる。
黄瀬のおかげで、それ以上深く追及してくる者はいなかった。




