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護衛対象は、お嬢様でした。  作者: 愚兎
SOSに、こたえてみました。
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27

それから間もなく、一台の白い軽自動車が慌ただしく現場へ入ってきた。

助手席のドアが勢いよく開く。

「朝陽!」

母さんだった。

「朝陽、大丈夫なの?」

母さんは俺の腕や顔についた包帯を見るなり、不安そうに問い掛ける。

「うん。」

「なんとかね。」

そう笑ってみせると、母さんは小さくため息をついた。

「もう……。」

「昔から無茶ばっかりするんだから。」

その声には呆れと、無事だったことへの安堵が滲んでいた。

すると神白さんが一歩前へ出る。

「あ、あの……。」

「黒鉄君は、私と友達を助けるために……。」

「どうか責めないであげてください。」

母さんは神白さんを見つめると、ふっと優しく微笑んだ。

「あなたが、朝陽のお友達?」

俺は少し照れながら頭をかいた。

「あ……うん。」

「神白伊吹さん。」

「まあ!」

母さんの表情がぱっと明るくなる。

「あなたが神白さんなのね!」

「朝陽からお話は聞いていたの。」

「一度お会いしてみたいと思っていたのよ。」

俺は思わず目を丸くした。

「……母さん。」

「そんな話、してたっけ?」

「してたじゃない。」

母さんはくすっと笑う。

「『クラスに笑顔を守りたい子がいる』って。」

その言葉に、今度は神白さんの頬がほんのり赤く染まった。

「……母さん。」

俺は母さんの袖を軽く引っ張り、小声で耳打ちする。

「バイトの時の話は、神白さんにしたら駄目だって。」

「あら。」

母さんは「あっ」という顔をした。

「そうだったわね。」

そして神白さんへ向き直り、申し訳なさそうに笑う。

「ごめんなさいね、神白さん。」

「朝陽が照れ屋なもので、怒られちゃった。」

「い、いえ!」

神白さんは慌てて首を横に振る。

「こちらこそ……。」

「黒鉄君を危険なことへ巻き込んでしまい、本当に申し訳ありませんでした。」

母さんは優しく微笑む。

「ふふ。」

「いいのよ。」

「朝陽が、自分でしたくてしたことなんだから。」

「それより。」

母さんはいたずらっぽく笑いながら神白さんを見つめた。

「うちの朝陽は、神白さんのお役に立てているのかしら?」

神白さんは一瞬だけ俺を見つめる。

その頬が少しだけ赤く染まった。

「……黒鉄君は。」

「とても優しくて……。」

「とても強くて……。」

「私が助けてほしい時には、いつも助けてくださいます。」

「それに……。」

「どんな時でも、私のことを守ってくれる方です。」

「うんうん。」

母さんは何度も嬉しそうに頷く。

「それで、それで?」

「母さん!」

俺は思わず声を上げた。

「もうやめてくれよ……。」

「なによ。」

母さんは楽しそうに笑う。

「まだこれからじゃない。」

そして何かを思い付いたように手を叩いた。

「あ、そうだわ!」

「神白さん。」

「今度、うちに遊びに来ない?」

突然の誘いに、神白さんは驚いたように目をぱちぱちと瞬かせた。

お口に合うか分からないけど……。」

母さんは柔らかな笑みを浮かべる。

「今度、一緒にお食事でもどう?」

「……マヨネーズ。」

神白さんが小さく呟いた。

「え?」

母さんが首を傾げる。

神白さんはハッとしたように顔を上げた。

「は、はい!」

「黒鉄くんのお母様がお作りになった、マヨネーズ入りの卵焼き……。」

「とても美味しかったです!」

「まあ!」

母さんは嬉しそうに両手を合わせる。

「そうなのね!」

「そう言ってもらえると、本当に嬉しいわ。」

そのやり取りを少し離れた場所で見ていた黄瀬と青嶌さんが、顔を見合わせてニヤリと笑った。

「お母さん。」

黄瀬が悪戯っぽく手を挙げる。

「知ってます?」

「その時、朝陽のやつ。」

「神白さんに『あ〜ん』して食べさせようとしてたんですよ!」

「なっ……!」

思わず黄瀬を睨みつける。

「余計なこと言うな!」

「まあ!」

母さんは目を丸くし、すぐに楽しそうな笑顔になった。

「この朝陽が?」

「えっと……。」

「あなたも朝陽のお友達でいいのよね?」

「はい!」

黄瀬は胸を張る。

「黄瀬王輝っていいます!」

「ふふ。」

「元気がいい子ね。」

母さんは微笑むと、興味津々といった様子で身を乗り出した。

「それで、黄瀬君。」

「その後も、ぜひ聞かせてもらえるかしら?」

「もちろんです!」

黄瀬が嬉しそうに身を乗り出した、その瞬間――。

「待て!」

俺は慌てて黄瀬の肩を掴んだ。

「これ以上はダメだ!」

黄瀬は俺の必死な様子を見ると、吹き出した。

「分かったよ。」

「今日はこのくらいにしといてやる。」

「……今日は、な。」

「おい。」

俺が睨みつけると、黄瀬はケラケラと笑う。

すると今度は青嶌さんが一歩前へ出た。

「黄瀬君だけずるい!」

「私も黒鉄君のお友達の、青嶌羽唯です。」

そう言って軽く頭を下げる。

「ちなみに、卵焼きは私もいただきました。」

「とっても美味しかったです。」

「まあ!」

母さんは目を輝かせた。

「本当?」

「ありがとうございます。」

青嶌さんは微笑みながら隣に立つ緋乃を手で示す。

「それと、こちらが緋乃栄雅君です。」

緋乃は一歩前へ出ると、礼儀正しく頭を下げた。

「初めまして。」

「緋乃栄雅です。」

「朝陽には、いつも世話になっています。」

「まあまあ。」

母さんは嬉しそうに俺たちを見回した。

「いつの間に、こんなに素敵なお友達に囲まれるようになったのかしら。」

そして、ぱんっと両手を合わせる。

「よーし!」

「今度みんなで、お食事会しましょう!」

「もちろん神白さんもよ!」

その言葉に、その場の空気が一気に和らぐ。

……ふと神白さんの方を見る。

さっきまで普通に話していたはずなのに、いつの間にか顔を真っ赤に染め、小さくしゃがみ込んでいた。

「神白さん?」

俺が声を掛けると、神白さんは両手で顔を隠したまま、小さく首を振る。

「む、無理です……。」

「今日は恥ずかしすぎます……。」

その姿に、一同は顔を見合わせ――。

「ははははっ!」

思わず大きな笑いが起こった。

事件の緊張は消え、ようやく笑顔が戻ってくる。

その光景を――。

少し離れた場所に停車した黒塗りの高級セダンの傍らから、一人の男が静かに見つめていた。

神白宗一郎。

誰にも気付かれることなく、その穏やかな笑顔を見つめながら、静かに目を細めた。

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