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護衛対象は、お嬢様でした。  作者: 愚兎
SOSに、こたえてみました。
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81/126

25

天宮は目を見開き、ゆっくりと背中へ手を回した。

手のひらに触れたのは、生温かい液体。

ゆっくりと手を前へ持ってくる。

赤い。

自分の血だった。

「てめぇ……なにしやがる。」

天宮が振り返る。

そこには、血の付いたナイフを無造作に握る百鬼が立っていた。

刃先から、一滴。

また一滴と、赤い雫が地面へ落ちる。

「……っ。」

天宮の膝から力が抜ける。

ガクッ。

片膝をつき、そのまま地面へ手をついた。

「天宮さん!」

鷹取が血相を変えて駆け寄る。

「大丈夫ですか!」

隼人と鷲尾も慌てて天宮の両脇へ回り、その身体を支えた。

「くそっ……。」

鷹取は天宮を二人に任せると、ゆっくりと立ち上がる。

その瞳には、先ほどまでの冷静さはない。

百鬼を真っ直ぐ睨みつけ、一歩踏み出そうとした――。

「百鬼!!」

鋭い声がスクラップ工場に響き渡る。

ロゼだった。

先ほどまでの穏やかな表情は消え失せ、百鬼を強く睨みつけていた。

「痛めつけるだけでいいはずよ。」

百鬼は首を傾げ、口元に笑みを浮かべる。

「あらぁ?」

「そうだったかしら?」

血の付いたナイフをくるりと指先で回す。

「でもぉ……。」

「私の中では、まだ序の口よ。」

ロゼの眉間に皺が寄る。

「……お前は、いつもやり過ぎる。」

「いやだぁ。」

百鬼は肩を震わせながら笑った。

「そんな怖い顔しちゃって。」

「こんな半端者、殺しちゃえばいいのよ。」

そう言って天宮たちへ視線を向ける。

そして、ゆっくりとロゼへ向き直った。

「でもねぇ……。」

「半端者っていうのは――」

百鬼の笑みが深くなる。

「ロゼ、あんたも同じよ。」

一瞬、空気が凍りつく。

ロゼの瞳が鋭く細められた。

その時だった。

「百鬼さん。」

二人の間へ、一人の部下が静かに割って入る。

「組織内での私闘は、規律違反です。」

「統括からも、組織内抗争は固く禁じられています。」

「どうか、お控えください。」

百鬼は舌打ち混じりに肩をすくめる。

「……ちぇっ。」

「相変わらず堅いわねぇ。」

百鬼は小さく肩をすくめると、鷹取と目線を合わせた。

「ねぇ、あなた。」

「助けてほしかったら、最後に一つだけ答えなさい。」

「今回、あなたたちへ依頼を出したのは誰かしら?」

鷹取は唇を固く結ぶ。

答えれば依頼人を裏切ることになる。

しかし、答えなければ天宮の命が危ない。

長い沈黙の末、鷹取は静かに口を開いた。

「……神白グループと敵対する企業…。」

「御影グループの役員、香取です。」

百鬼は表情一つ変えず続きを促した。

「理由は?」

鷹取は観念したように息を吐く。

「香取は数年前から、大型都市再開発プロジェクトを進めていました。」

「ですが、その計画は神白グループに先を越されました。」

「神白グループがより優れた事業計画を打ち出し、行政との契約もすべて獲得したんです。」

「その結果、御影グループは莫大な損失を出し……。」

「香取自身も役員としての立場を失いかけています。」

百鬼は静かに耳を傾ける。

「だから香取は考えた。」

「神白グループそのものを揺るがせばいい、と。」

「神白家の令嬢を誘拐し、大事件へ発展させる。」

「企業イメージを失墜させ、世間の信用と株価を暴落させ、契約を打ち切らせることが目的でした。」

「そして、その混乱に乗じて神白グループを追い詰める……。」

鷹取は拳を握り締めた。

「それが、今回の依頼の全てです。」

百鬼は静かに目を閉じ、小さく笑った。

「そう。」

「ありがとう。」

その笑顔には、どこか不穏な色が滲んでいた。

「いいわぁ。」

「今日は、このくらいにしておいてあげる。」

そして口元を吊り上げ、意味ありげに笑う。

「ロゼちゃん。」

「あ・ん・た・も・よ。」

その言葉だけを残すと、百鬼は一人の部下を連れ、ゆっくりと車に乗り込みその場を後にした。

スクラップ工場には、重苦しい静寂だけが残る。

「お、俺たち……。」

鷲尾が呆然と呟く。

「助かった……のか?」

鷹取は首を横に振った。

「……まだ分かりません。」

その時だった。

ロゼが冷たく言い放つ。

「あんたたち。」

「早くしないと、そいつ死ぬわよ。」

視線の先には、血を流したまま膝をつく天宮。

だが誰も動けない。

突然の出来事に、足がすくんでいた。

ロゼは深くため息をつく。

「はぁ……。」

「だから、早く病院へ連れて行きなさいって言ってるのよ。」

「それと。」

「あんたたちの仲間は、全員警察に捕まったみたいよ。」

「もう逃げ場なんてないわ。」

ロゼは四人を真っ直ぐ見つめた。

「……あんたたちも、自首しなさい。」

誰も口を開かない。

ただ風だけが、静かに吹き抜ける。

しばらくの沈黙の後、ロゼは静かに目を伏せた。

「まだ……。」

「引き返せるところにいるんだから。」

その言葉には、先ほどまでの冷たさとは違う、どこか寂しさが滲んでいた。

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