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同時刻――。
赤色灯を載せた二台の黒いセダンは、一定の車間距離を保ちながら道路を走っていた。
先頭車両の後部座席。
天宮と鷹取が並んで座っている。
手錠を掛けられたまま、鷹取が静かに口を開いた。
「……これで黒天狗も解散ですか。」
天宮はシートへ深くもたれ、小さく笑う。
「はっ。」
「年貢の納め時ってやつだ。」
それきり車内は静まり返る。
ゴォォ……。
タイヤがアスファルトを転がる音だけが響いていた。
しばらくして。
助手席の男性警察官が、くすりと笑う。
「うふふ……。」
「そろそろかしらぁ?」
運転席の警察官はルームミラーをちらりと見て答えた。
「はい。」
「目的地まで、あと五分ほどです。」
その会話を聞いた鷹取の眉がわずかに動く。
「……おかしいですね。」
天宮へ小声で囁く。
「この先に警察署や留置施設はありません。」
「進行方向が違います。」
天宮も窓の外へ目を向けた。
人通りはなく、工場ばかりが並ぶ景色。
口元がゆっくりと吊り上がる。
「どうも……。」
「雲行きが怪しいじゃねぇか。」
その時だった。
先頭のセダンが速度を落とす。
ゆっくりとハンドルを切り、人気のない寂れたスクラップ工場へ入っていった。
後続のセダンも、それに続いた。
二台の黒いセダンは、スクラップ工場の入口左側に停められていた油圧ショベルの横で静かに停止した。
キキッ――。
エンジンが止まり、辺りは静寂に包まれる。
運転席と助手席のドアが次々と開き、四人の警察官が車から降り立った。
後部座席のドアも開かれる。
「ほら、降りなさい。」
鷹取は腕を掴まれ、そのまま半ば引きずり出されるように車外へ降ろされた。
続いて天宮も車外へ連れ出される。
「離せや。」
天宮は肩を乱暴に振り払い、不機嫌そうに舌打ちした。
「自分で降りる。」
助手席に座っていた男性警察官が、口元を緩める。
「あらぁ、聞き分けがいいじゃない。」
その言い回しに、天宮は一瞬だけ眉をひそめた。
しかし何も言わず、もう一台の車へ視線を向ける。
そちらでも同じように後部座席のドアが開き、鷲尾と隼人が車外へ降ろされていた。
四人は互いに顔を見合わせる。
誰一人として言葉を発しない。
ただ、この状況が普通ではないことだけは全員が悟っていた。
天宮は四人の警察官をゆっくりと見回した。
そして、低い声で問い掛ける。
「……お前ら。」
「何者だ?」
その問いに、助手席に座っていた男性警察官が肩をすくめた。
「そうねぇ。」
「ここまで来たら、もう隠す必要もないかしら。」
そう言うと、男は警察帽をゆっくりと脱ぎ捨てる。
ふわりと揺れた髪の下から現れたのは――。
両サイドを高く刈り上げ、中央だけを立たせたモヒカン。
その髪は、カラフルに彩られ、虹のように鮮やかな色へ染め上げられていた。
男は妖しく微笑み、唇を吊り上げる。
「改めまして。」
「百鬼虹士郎よ。」
「聞いたことくらいは、あるかしら?」
その名を聞いた瞬間。
鷹取の表情から笑みが消えた。
天宮も、隼人も、鷲尾も無言のまま百鬼を見据える。
その場の空気が、一変した。
天宮は百鬼から視線を外さず、小さく口を開いた。
「……おい。」
「どうした?」
隣に立つ鷹取へ問い掛ける。
鷹取の額には、じわりと冷や汗が浮かんでいた。
「……非常にまずい状況かもしれません。」
「もし、あの百鬼という人物の噂が本当なら……。」
小さく息を呑む。
「我々に、生きて帰れる保証はありません。」
その言葉に、天宮は数秒黙り込んだ。
そして、小さく笑う。
「……そうか。」
「お前がそこまで言うなら、本当にやべぇ相手なんだろうな。」
一方で鷲尾は顔色を変え。
「えっ?」
「え? え?」
「な、何?」
「俺ら……殺されちゃうの?」
隼人も眉をひそめる。
「でも、なんで?」
その時だった。
女性警察官が帽子へ手を掛ける。
ゆっくりと脱ぎ去ると、薄桃色の髪がさらりと流れ落ちた。
「うるさい連中ね。」
呆れたように肩をすくめる。
「安心しなさい。」
「殺しはしないわよ。」
百鬼は隣の女性へ視線を向け、口元を緩めた。
「ほんっと、ロゼちゃんは優しいんだからぁ。」
そう笑うと、今度は天宮たち四人へ視線を戻す。
「でもねぇ。」
「あなたたち。」
「触れちゃいけない人に、手を出しちゃったのよ。」
百鬼は妖しく微笑む。
「神白家。」
「その名がどういう意味を持つか……。」
「これから、身をもって教えてあげる。」
百鬼は天宮を見つめ、妖しく微笑んだ。
「そうねぇ。」
「ただ痛めつけるだけじゃ、つまらないわ。」
「あなたの好きなタイマンとやらで、決着をつけるのはどうかしら?」
天宮は鼻で笑う。
「……俺が勝ったら?」
百鬼は肩をすくめた。
「仮によ?」
「私が負けるようなことがあれば、あなたたち全員解放してあげるわ。」
その言葉に、天宮は獰猛な笑みを浮かべる。
「言ったな。」
「約束、忘れんじゃねぇぞ。」
「ふふっ。」
百鬼は楽しそうに笑う。
「精々、頑張ることね。」
そう言うと、後ろに控えていた部下へ軽く顎をしゃくった。
「あなた、この子の手錠を外してあげてちょうだい。」
「はい。」
部下が天宮の背後へ回る。
天宮は肩を鳴らしながら笑った。
「さっさと外せ、この――」
振り返った、その瞬間だった。
グサッ。
鋭い感触が背中へ走る。
「……っ!」
背筋を貫くような激痛。
遅れて焼けるような熱が背中全体へ広がっていく。




