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護衛対象は、お嬢様でした。  作者: 愚兎
SOSに、こたえてみました。
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21

天宮は肝臓を押さえることもなく、その場で口元を吊り上げた。

「いいねぇ。」

まるで痛みを楽しむように笑う。

「急所を狙った、いいパンチだ。」

俺は拳を引き戻しながら眉をひそめる。

(間違いなく入った……。)

(効いているはずだ。)

だが。

目の前の男からは、苦しむ様子がまるで感じられない。

その笑みを見た瞬間。

背筋を冷たいものが走った。

(……まずい。)

嫌な予感。

反射的に一歩後ろへ飛び退いた。

その瞬間だった。

ブンッ!!

空気を切り裂く轟音。

天宮の左拳が、フックにも似た横薙ぎの軌道で凄まじい勢いのまま振り抜かれる。

ほんの一瞬でも下がるのが遅れていれば、顔面を吹き飛ばされていた。

天宮は拳を振り抜いたまま、不敵に笑う。

「ほぉ。」

「勘もいいみてぇだな。」

俺はゆっくりと息を整えながら構えを崩さずいた。

「……じいちゃんと何度も組手してきた。」

「お前みたいな力任せの相手も、何度も相手にさせられた。」

天宮は一瞬目を丸くすると、豪快に笑った。

「はっはっはっ!」

「そうか、そうか!」

「なら、そのじいちゃんに伝えとけ。」

笑みが消える。

代わりに獣のような獰猛な表情が浮かんだ。

「武道なんてもんはなぁ──」

拳を握る。

「圧倒的な力の前じゃ、無力なんだぉ!!」

床が砕けるほどの勢いで踏み込む。

ドンッ!!

一瞬で距離を詰める。

「オラァッ!!」

天宮の拳が唸る。

右。

左。

右。

まるで太い丸太が飛んでくるような連打。

朝陽はまともには受けない。

半歩。

さらに半歩。

身体を紙一重でずらしながら、拳の軌道だけを外していく。

ブンッ!

拳が鼻先をかすめる。

風圧だけで前髪が揺れた。

天宮はさらに踏み込む。

「逃げてばっかじゃ勝てねぇぞ!」

天宮は獰猛な笑みを浮かべると、再び大きく踏み込んだ。

「オラァッ!!」

大振りの右拳が一直線に顔面へ伸びる。

俺は、受け止めずに左手を添えると、その勢いを殺さず外側へ流した。

「なっ――」

力任せに振り抜いた天宮の拳は空を切り、巨体がわずかに前へ流れる。

ほんの一瞬。

その僅かな体勢の乱れを、見逃さない。

左足を踏み込み、腰を落とす。

(剛の型時雨)

ドッ。

ドッ。

ドゴッ!!

人中。

喉仏。

鳩尾。

三つの急所へ、寸分違わず拳が突き刺さる。

「ぐっ……!」

さすがの天宮もたまらず二歩、三歩と後退した。

「……いってぇなぁ、おい」

天宮は鳩尾を押さえ、床に膝を付く

その隙に一気に間合いを詰める。

左足を踏み込み、右膝を鋭く引き上げた。

そのまま天宮の鳩尾目掛けて前蹴りを突き出す。

「甘ぇ。」

天宮は鼻で笑う。

右手で朝陽の足首をがっしりと掴んだ。

「捕まえたぜ。」

だが――。

あくまでも前蹴りは囮だ。

掴まれた右足を支点に身体を浮かせる。

その反動を利用し、残った左足を一気に蹴り上げた。

二段蹴り。

「っ!?」

右足へ意識を向けていた天宮は反応が一瞬遅れる。

ドゴォッ!!

左足の甲が顎を鋭く打ち抜いた。

「ぐっ!」

天宮の頭が大きくのけ反る。

掴んでいた右足が緩み、すぐさま着地した。

距離を取ることなく、そのまま追撃へ入る。

右拳を握り込み、天宮の鳩尾へ拳を突き出す。

だが――。

天宮は強引に体勢を立て直した。

拳が迫る。

普通なら避ける一撃。

しかし天宮は避けない。

「ぐっ……!」

拳を鳩尾にまともに受けながらも、一歩も引かなかった。

「そんな拳で――」

天宮は獰猛に笑う。

「止まるかよ!!」

次の瞬間。

右手が俺の首を掴む。

同時に左手が俺の右腕をがっしりと握り締めた。

「捕まえたぜ。」

万力のような握力。

振りほどこうとした時には、もう遅かった。

「オラァッ!!」

天宮はそのまま全身の力で俺の身体を持ち上げる。

そして勢いのまま、近くにあった傷んだ木製テーブルへ叩きつけた。

バギャァァンッ!!

激しい破砕音。

テーブルは真っ二つに砕け散り、木片が店内へ飛び散る。

「がはっ!」

今まで感じたことのない激痛が背中へ走った。


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