19
緋乃は肩で荒く息をしながら拳を下ろした。
「終わりだ。」
床に倒れた鷹取は、ぴくりとも動かない。
静寂が店内を包む。
黒天狗の構成員たちは呆然とその光景を見つめていた。
「……鷹取さんが。」
「負けた……。」
誰かが小さく呟く。
その声を皮切りに、ざわめきが広がった。
床には鷲尾が倒れ込み、その隣では隼人があぐらをかいたまま戦意を失っている。
そして今、鷹取までもが沈んだ。
黒天狗幹部三人。
全員敗北。
黄瀬は思わず拳を突き上げた。
「よっしゃあ!!」
「やったぜ緋乃!」
青嶌さんも胸を撫で下ろす。
「無事でよかった……。」
緋乃は振り返り、照れくさそうに鼻を擦った。
「ギリギリだったけどな。」
その時…。
パン。
パン。
パン。
静まり返った店内に、乾いた拍手が響く。
全員の視線が一斉にその音の主へ向いた。
天宮だった。
ゆっくりと拍手を続けながら、口元に笑みを浮かべている。
「大したもんだな。」
店内を見回しながら感心したように頷く。
「鷲尾はともかく……。」
「まさか鷹取と隼人までやっちまうとは。」
そのまま倒れている鷹取の前まで歩いていく。
「おい。」
軽く肩を小突いた。
「まだ生きてるか。」
鷹取は苦しそうに咳き込みながら上半身を起こす。
「……申し訳、ありません。」
「負けてしまいました。」
天宮は鼻で笑った。
「まぁ、そんなこともあるだろうよ。」
責める様子はない、そんな口ぶりだった。
そして、ゆっくりと俺たちへ向き直る。
「おい、ガキども。」
首を鳴らしながら、不敵に笑う。
「全員でかかってきてもいいんだぜ?」
その挑発に、黄瀬が真っ先に反応した。
「舐めやがって!」
一歩踏み出そうとした、その時――。
「待て。」
俺は右手を伸ばし、黄瀬の前へ静かに立った。
「……朝陽?」
黄瀬が不思議そうに俺を見る。
俺は天宮から目を離さず、小さく笑った。
「一応、あいつ。」
「約束は破らなかったからさ。」
天宮は肩をすくめ、大きく息を吐いた。
「かぁ~。」
呆れたように頭を掻く。
「まっすぐ過ぎて見てらんねぇよ。」
俺は何も答えない。
ただ静かに構え、天宮を真っ直ぐ見据える。
その視線を受け、天宮は俺の顔をじっと見つめた。
数秒の沈黙。
やがて口元をゆっくりと吊り上げる。
「ったくよぉ。」
「だが――。」
「ガキだからって、手加減はしねぇからな。」
朝陽は一度だけ頷いた。
「分かってる。」
その短い返事に、天宮は満足そうに笑う。
「フッいい返事だ。」
首を鳴らし、拳をゆっくりと握り締める。
ゴキッ……ゴキッ。
店内の空気が一変した。
誰も声を発しない。
その場にいる全員が、これから始まる戦いを固唾をのんで見守っている。
天宮はゆっくりと腰を落とし、獰猛な笑みを浮かべた。
「――いくぞぉ!!」




