15
黄瀬はゆっくりと左足を前へ出したオーソドックスの構え。
両拳を顎の高さまで上げ、隼人を真っ直ぐ見据える。
隼人は口元を吊り上げた。
「ふーん。」
「じゃあ、これは?」
ジンガ。
左右へ。
右。
左。
右。
一定のようで一定ではない独特のリズム。
次の瞬間。
隼人の身体が沈む。
(来る。)
黄瀬の目が鋭く光る。
「そこだ!」
隼人が回転へ入る、その一歩手前。
黄瀬が一気に踏み込んだ。
ドンッ!
前に出した左足が真っ直ぐ伸びる。
つま先ではなく、足裏全体を押し込むように突き出す前蹴り。
アプチャギ(前蹴り)。
「ぐっ!」
蹴りが隼人の腹へ深く突き刺さる。
一瞬だけ呼吸が止まり、隼人の動きが止まった。
その隙を黄瀬は見逃さない。
左足を素早く引き戻し、そのまま腰を鋭く回転させる。
膝を折り畳んだ右足が、鞭のようにしなって跳ね上がる。
狙うのは側頭部。
パンデドルリョチャギ(回し蹴り)。
ガンッ!!
隼人は咄嗟に右腕を上げてガードする。
それでも衝撃を殺しきれず、身体が横へ流された。
「っ!」
黄瀬は止まらない。
着地と同時に身体を反転。
背中を相手へ向けるように回り込み、腰を一気に捻る。
その反動をすべて踵へ乗せ、右足を真後ろへ一直線に蹴り抜いた。
ティッチャギ(後ろ蹴り)
「しまっ!」
避けようとした隼人だったが間に合わない。
ドゴォッ!!
硬い踵が鳩尾へめり込み、隼人の身体が大きく吹き飛ぶ。
床を二度、三度と転がった。
「終わりだ!」
黄瀬は追撃へ移る。
自身の頭上高く振り上げた足を、鞭のようにしならせながら、隼人の頭部に叩きつけるように打ち下ろす。
ネリョチャギ(かかと落とし)。
「っ!」
隼人は咄嗟に横へ転がる。
ドゴンッ!!
踵がコンクリートへ叩きつけられる。
元からヒビ割れていた床が砕け、小さな破片が四方へ飛び散った。
隼人は床へ手をついたまま、大きく息を吐く。
乱れた銀髪の隙間から黄瀬を見る。
そして――。
笑顔が消えた。
その瞳には、さっきまでの余裕は欠片もない。
代わりに浮かんでいたのは――恐怖だった。
「降参! 降参!」
隼人は両手を勢いよく上げ、慌てたように叫ぶ。
「もう無理!」
「キミみたいな化け物と、これ以上付き合うつもりないよ!」
その場に腰を下ろし、あぐらをかいたまま肩をすくめる。
立ち上がろうとする気配すらない。
誰が見ても、完全に戦意を失っていた。
黄瀬は構えを解くことなく、しばらく隼人を見据える。
本当に戦う意思がないことを確認すると、小さく息を吐いた。
「……最初からそうしてれば良かったんだ。」
そう言い残し、黄瀬は踵を返す。
視線の先には、床へ倒れた青嶌さん。
「青嶌さん!」
黄瀬は一目散に駆け寄った。




