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「そんな怖い顔するなって。」
鷲尾はヘラヘラと笑いながら青嶌さんへ歩み寄る。
「せっかく可愛いんだからさ。」
「もっと笑えよ。」
言いながら、無遠慮に青嶌さんの頬へ手を伸ばした。
その瞬間だった。
パシッ。
青嶌さんがその手首を掴む。
「触らないでください。」
一歩踏み込み、身体を反転。
「え?」
鷲尾の体勢が一気に浮く。
次の瞬間。
ドンッ!!
一本背負い。
鷲尾の身体が床へ豪快に叩きつけられた。
「いててて……。」
鷲尾は後頭部をさすりながら立ち上がる。
「へぇ。」
「ちゃんと喧嘩できるんだね。」
「そっか、そっか。」
その口元には、まだ笑みが浮かんでいた。
ゆっくりと青嶌さんへ歩いてくる。
青嶌さんは静かに腰を落とし、再び構えた。
(今度も正面から来る。)
そう判断した、その時だった。
鷲尾の右手が不自然に動く。
「なっ──!」
パッ!!
投げ飛ばされた時に手の中へ握り込んでいた砂と埃が、一気に青嶌さんの顔へ撒き散らされた。
「くっ!」
反射的に目を閉じる。
視界が白く霞む。
「そういう顔が見たかったんだよ!」
鷲尾は一気に距離を詰める。
ドンッ!!
鋭い前蹴りが青嶌さんの腹部へ突き刺さった。
「うっ……!」
息が詰まり、身体がくの字に折れる。
その隙を逃さない。
「大人しくしてればいいのに…。」
鷲尾の膝が鋭く跳ね上がる。
ガッ!
青嶌さんの顔を捉え、そのまま後方へ吹き飛ばした。
床へ倒れ込む青嶌さん。
「ほらほら!」
「さっきまでの威勢はどうした!」
鷲尾は倒れた青嶌さんへ歩み寄ると、容赦なく蹴りを放つ。
ドスッ。
ドスッ。
「立てよ。」
「まだ遊び足りねぇぞ。」
「青嶌さん!」
黄瀬の叫びが店内へ響く。
思わず青嶌さんへ視線を向けた、その一瞬だった。
「キミさぁ。」
隼人が無邪気な笑みを浮かべる。
「よそ見してる余裕なんて、ないでしょ。」
ジンガのリズムから、一気に身体を捻る。
右足を前へ踏み込み左足とクロスさせる、その勢いのまま身体を回転。
腰のひねりを利用して右足を大きく振り上げ、扇を描くような軌道で踵を振り抜く。
ケイジャーダ。
「ぐっ!!」
踵が黄瀬の顎を真横から捉えた。
頭が大きく揺れ、身体がよろめく。
しかし、隼人の攻撃は止まらない。
蹴り終えた右足を力強く踏み込み、そのまま左足を軸に身体を反転。
遠心力を極限まで乗せた踵が、大きな円を描いて襲い掛かる。
アルマーダ。
舞うように美しい回転。
だが、その一撃は鋭く、重い。
「っ!」
黄瀬は咄嗟に両腕を交差させた。
ドゴォッ!!
凄まじい衝撃が腕を突き抜け、そのまま身体ごと吹き飛ばされる。
床を滑りながら、それでも両足で踏ん張って立ち止まった。
「くそっ……!」
腕は痺れ、呼吸は乱れる。
だが、それ以上に胸の奥から込み上げてくるものがあった。
倒れた青嶌さん。
下卑た笑いを浮かべる鷲尾。
それを見て笑っている黒天狗の構成員たち。
黄瀬は俯いたまま動かない。
店内が一瞬だけ静まり返る。
誰も口を開かなかった。
やがて、黄瀬の肩が小さく震えた。
「……てめぇら。」
ゆっくりと顔を上げる。
その目から、いつもの軽い雰囲気は消えていた。
拳を強く握り締める。
「いい加減にしろよ。」
その低い声に、隼人は思わず目を丸くする。
「へぇ……。」
「顔つき、変わった。」
黄瀬は何も答えない。
ただ、隼人だけを真っ直ぐ見据えていた。
隼人は再びジンガを始める。
左右へ。
左右へ。
まるで踊るような独特のリズム。
さっきまで読めなかった動きが、不思議とゆっくり見え始める。
(右……。)
(次は左。)
(その次は回転。)
隼人が踏み込む。
「これなら!」
死角から回転蹴りが襲う。
だが――。
ヒュッ。
黄瀬は最小限の動きだけで身体を傾けた。
踵が頬のすぐ横を通り抜ける。
「え?」
隼人の笑みが初めて消えた。
さらに続く蹴り。
その次の一撃。
黄瀬はどちらも紙一重でかわしていく。
「そんな……。」
「見えてるの?」
黄瀬は静かに構え直した。
「一回見れば。」
「だいたい覚えるって言っただろ。」
「じゃあ次は、俺の番だ。」




