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「次、11番」
「はい……」
俺の次に呼ばれた彼女は、静かに立ち上がった。
艶のある髪は、光の加減でわずかに紫を帯びたセンターパートのロングヘア。腰近くまで伸びたその髪は丁寧に手入れされており、切れ長の瞳とすっと通った鼻筋が知的で凛とした印象を与える。
やや吊り気味の目元は鋭く、高校生とは思えないほど落ち着いた立ち居振る舞いと、大人びた雰囲気が自然と周囲の視線を集めていた。
「小紫楓と申します。」
澄んだ声が教室に響く。
その瞬間だった。
(……ん?)
言葉では説明できない違和感が胸をよぎる。
顔立ちでも、声でもない。
立ち方だ。
頭のてっぺんの天道から人中、水月、丹田を意識し、両足は肩幅よりわずかに狭く、重心はほんの少しだけ前寄り。
力を抜いて立っているように見えるのに、全身が妙に安定している。
まるで――
いつでも動き出せるように。
祖父に何度も叩き込まれた黒鉄流古武術の基本姿勢。
もちろん完全に同じではない。
それでも、どこかそれに通じるものを感じた。
(……気のせい、か。)
ただ立っているだけで、そんなことを考える方がおかしい。
俺はそう自分に言い聞かせ、意識を自己紹介へ戻した。
その後も順番に自己紹介が始まる。
野球部だった男子。
吹奏楽部だった女子。
ゲームが好きな生徒。
犬を飼っている生徒。
どこにでもありそうな自己紹介が続いていく。
(……平和だ。)
それだけで少し安心した。
誰も喧嘩を売らない。
誰も睨み返してこない。
そんな当たり前の光景が、俺には少し新鮮だった。
――どうか、このまま何事もなく終わってくれ。
その願いが、あまりにも甘かったことを、このときの俺はまだ知らない。
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