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教室の前方に設置されたスピーカーからチャイムが鳴り響く。
それまで賑やかだった教室は、少しずつ静けさを取り戻していった。
ガラリ、と教室の扉が開く。
「お前ら、席につけぇ」
女性にしては少し低めの声とともに、1人の女性教師が教壇に立つ。
二十代後半といったところか。
ハーフアップにまとめられた艶のある黒髪と、細く整った眉の下にあるわずかに目尻の上がった切れ長の瞳が印象的な教師だった。
「今日から一年B組の担任を務める、北条冴子だ。よろしく頼む」
教室のあちこちから「よろしくお願いします」と声が返る。
「さて、今日は入学式ということもあり、知らない環境、知らない人間関係で分からないことだらけだと思う」
北条先生が続けて話す。
「まずは出席番号順で自己紹介をしていこうと思う」
先生はおもむろに出席簿に手を伸ばす。
「では名前と出身中学校、それと趣味や特技でも何でも構わないから一言添えてくれ」
「まずは1番」
「はいっ!」
元気よく立ち上がったのは青嶌羽唯だ。
「青嶌羽唯です!」
元気な声が教室を明るくする。
「趣味は買い物だったりカフェ巡りです」
「まぁ、楽しいことは大抵好きかな」
「1年間よろしくお願いします!」
トップバッターを物怖じせず務め上げた。
(……すごいな)
素直に感心した。
黄瀬とはまた違った、人を惹きつける力がある。
「次は、5番」
神白が静かに立ち上がる。
「神白伊吹と申します」
丁寧に一礼する。
「趣味は読書です。不慣れなことも多いと思いますが、一年間よろしくお願いします」
礼儀正しい自己紹介に、男子生徒の何人かが思わず見惚れていた。
「次は、9番」
「はい!」
勢いよく立ち上がったのは黄瀬だった。
「黄瀬王輝です! 趣味というか得意なことはスポーツ全般! 一回見れば大抵のことはできます! あと友達作ることです!」
クラスが少し笑う。
中には「ちょっとカッコいいよね」「なんか可愛い」など、黄瀬にときめく声も聞こえてきた。
「はい、ありがとう」
先生も苦笑いを浮かべる。
「では、10番」
(とうとう来てしまった……)
俺は静かに立ち上がる。
「黒鉄朝陽です」
その瞬間、教室が少し静かになる。
(……やっぱり)
「趣味は……体を動かすことです」
それ以上話すことも思いつかず、小さく頭を下げる。
「よろしくお願いします」
席へ座ろうとした、その時。
「特技は、ツッコミです。」
黄瀬が勝手に言い足した。
「だから違うって。」
「ほら今! その速度!」
「普通です。」
「いや普通じゃないって!」
教室から小さな笑いが漏れる。
「よし、朝陽。」
「今度は何。」
「コンビ結成だ。」
「しない。」
「じゃあコンビ名は――『メデューサと王』」
「俺の黒歴史を勝手に使うな。」
また教室が笑った。
「やばい、この二人。」
「初日からコントしてる。」
黄瀬は満足そうに頷く。
「ほら、もうクラス笑ってる。」
「黄瀬が騒いでるだけだろ。」
「でも勝ったな。」
「何に。」
「初日の空気に。」
その言葉に、また笑いが広がる。
先生が咳払いをした。
「黒鉄、黄瀬。自己紹介の時間だ。漫才はその辺にしておけ。」
「はい!」
返事をしたのは黄瀬だけだった。
「……返事だけかよ。」
また笑いが起きる。
(……なんで笑うんだ。)
でも、不思議と嫌な気はしなかった。
さっきまでの「見られる空気」じゃない。
今はもう、その輪の中にいる。
黄瀬が肩をつつく。
「朝陽。」
「何。」
「お前、ここ来て正解だったな。」
「なんで。」
「俺っていう相方がいるから。」
「最悪だ。」
そう言いながらも、少しだけ口元が緩んだのは、自分でも分からなかった。
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