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「えっと……」
不自然な彼女との距離が気になり、自分の席と彼女の席を交互に見比べ、伝え方を考える。
「あ、私ったら……アハハ。」
何かを悟ったのか、乾いた笑い声とともに定位置へといそいそと戻っていった。
「べ、別にあれですよ。どんな会話するのかなぁ、とか、見つめ合ったりしちゃうのかなぁなんて気になってた訳じゃありませんからね……。」
「……ね?」
「ね?」と言われても、彼女の期待を裏切って悪いが、入学初日で初対面の男同士が誤解されるようなことをするつもりはない。
「あ、うん……。分かってるよ。」
必死の彼女をわざわざ指摘するのも野暮だと思い、下手なツッコミは飲み込んだ。
「ところで、まだ名前聞いてないよ?」
微妙に気まずい空気を察したのか、机に肘をついて眺めていた黄瀬が話題を変える。
「そうでしたね。失礼いたしました。」
彼女は姿勢を正すと、小さく会釈をした。
「私は、神白伊吹と申します。」
肩口でふわりと揺れる艶のある栗色のセミロング。毛先は自然に内側へ流れ、優しい雰囲気をより引き立てている。
大きく澄んだ瞳は人懐っこく、整った顔立ちはどこか儚さも感じさせる。
白く透き通るような肌に、小柄で華奢な体つき。守ってあげたくなるような雰囲気をまといながらも、どこか育ちの良さを感じさせる上品さがある。
「神白ちゃんね! 俺は黄瀬王輝! よろしくねぇ!」
「で、こっちが……」
「隣の席の黒鉄朝陽です。よろしくお願いします。」
「よろしくお願いします。」
神白は柔らかく微笑んだ。
その時だった。
「わぁ! もうみんな仲良くなってる!」
教室の後ろから弾むような声が響く。
振り返ると、一人の女子生徒がこちらへ駆け寄ってきた。
少し青みがかった丸みのあるショートヘアは、耳元がすっきりと見える長さで、軽やかに揺れるたび爽やかな印象を与える。
くりっとした大きな瞳と、整った目鼻立ち。
身長は百六十センチ前後。無駄のない引き締まった体つきは細身でありながらもしなやかさを感じさせ、制服も自然と着こなしている。
「ねぇねぇ! 私も混ぜてもらっていい?」
人懐っこい笑顔を浮かべながら、何のためらいもなく輪の中へ入ってきた。
「もちろん!」
黄瀬が笑顔で応える。
「俺は黄瀬王輝!」
「私は青嶌羽唯! よろしくね!」
元気よく頭を下げる羽唯に、伊吹も笑顔で応えた。
「神白伊吹です。よろしくお願いします。」
「伊吹ちゃんだね! よろしく!」
羽唯は嬉しそうに笑う。
続いて朝陽へ視線を向ける。
「朝陽くんだっけ?」
「あ、はい。」
「さっきから見てたけど、黄瀬くんとすっごく楽しそうに話してたね!」
「いや……楽しそうというか、完全に振り回されてただけだけど。」
「アハハッ! 面白い!」
羽唯は屈託なく笑う。
「そうそう! 朝陽、ツッコミが結構キレあるんだよ!」
「まだ自己紹介しかしてないぞ。」
「あれ? そうだっけ?」
黄瀬が首を傾げると、羽唯はまた吹き出した。
「ふふっ、本当に面白い人たち!」
朝陽は三人を見渡した。
黄瀬は誰にでも遠慮なく話しかける。
神白は上品で穏やか。
そして青嶌は、初対面とは思えないほど人懐っこい。
(……この学校の奴らって、みんなこんなに距離感が近いのか?)
普通の高校生活。
その言葉が、ほんの少しだけ現実味を帯びた気がした。
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