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「陽キャって、笑。」
黄瀬は一瞬きょとんとしたあと、腹を抱えるように笑い始めた。
「アハハッ! 面と向かってそんなこと言われたの初めてなんだけど!」
笑いながら目尻を拭く黄瀬を見て、俺は何をそんなに笑われているのか分からず首を傾げる。
「いやぁ、面白ね!」
そう言うと、黄瀬は何事もなかったように俺の前の席へ腰を下ろした。
「ところでさ、名前なんていうの?」
会話の主導権は完璧にあちらに渡っているこの状況に俺は自己紹介を完全に忘れていた。
「あ、ごめん。俺は黒鉄朝陽」
自己紹介を御座なりにしてしまった事に対する軽い謝罪と自己紹介をすますと。
「じゃ、朝陽でいいかな?それとも中学時代にあだ名とかあった?」
黄瀬に言われ思い返してみたもののあだ名というもので呼ばれた事が無い。
只……唯一心当たりがあるものといえば。
「三中のメデューサかな……」
「……。」
一瞬だけ沈黙が流れる。
(やっぱり、引いたか。)
そう思った次の瞬間――
「ぶっ!」
教室に黄瀬の吹き出す音が響き渡りる。
「いやいやいやいやいや! メデューサって何!」
腹を抱えながら笑う黄瀬は、息を整える間もなく続ける。
「それ、朝陽それ二つ名って言うのよ! !」
「……は?」
予想外すぎる反応に、今度は俺が固まる番だった。
「普通さ、『黒ちゃん』とか『あさひん』とか呼ぶでしょ? いきなりメデューサって情報量過多ですって!しかもめちゃくちゃダサいの付けられてるし笑」
「いやぁ、俺に言われてもなぁ……。」
「じゃあ今日から俺もメデューサって呼ぼうかなぁ!」
「それだけは勘弁を。」
「 冗談、冗談!笑」
「じゃ〜普通に朝陽でいい?」
今まで血縁者と幼馴染以外に名前で呼ばれたことがなかった俺は、少し照れ臭さを覚えながらも、小さく頷いた。
「よろしく、朝陽!」
その時だった。
「あの……。」
控えめな声に、俺と黄瀬は同時に振り返る。
そこには、肩まで伸びた栗色のセミロングの髪をを耳に掛けた女子生徒が立っていた。
小脇に抱えているのは教科書……ではなく、紙袋から少しだけ漫画の表紙が覗いている。
彼女は俺と黄瀬を交互に見比べると、少しだけ目を丸くした。
「もしかして……これが噂に聞くBLというものですか?」
「…………。」
教室の空気が、一瞬だけ止まる。
「え?」
俺が間の抜けた声を漏らすと、彼女はハッと我に返った。
「あっ、ご、ごめんなさい。」
慌てて頭を下げる。
「お邪魔でしたよね。」
どうやら俺たち二人の世界に割って入ってしまった、と本気で思ったらしい。
彼女は申し訳なさそうに俺の左隣の席へ腰を下ろした。
「……。」
俺は黄瀬と顔を見合わせる。
ここで終われば、ただの天然な勘違いで済んだ。
だが。
「朝陽。」
黄瀬が肩に手を回してくる。
「放課後はカフェ行って、そのあと映画デートなんてどう?」
「行かない。」
「即答かい!」
俺が反射的に返すと、黄瀬はケラケラと笑った。
その笑い声につられたのか、隣から小さな呟きが聞こえる。
「進展が早い……。」
「信じるな!」
思わず俺と黄瀬のツッコミが重なった。
「え?」
彼女は不思議そうに首を傾げる。
「違うんですか?」
「違う違う!」
「初対面だから!」
黄瀬が笑いながら手を振る。
「俺たち、さっき知り合ったばっか!」
「……そうなんですか。」
彼女は納得したように頷くと、小脇に抱えていた漫画を机の中へしまった。
……気のせいだろうか。
さっきよりも、彼女の椅子がほんの少しだけこちらへ寄っている。
どう見ても、続きを聞く気満々だった。
本作をお読みいただき、誠にありがとうございます。
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