11
「それが俺の流儀だ。」
店内に重苦しい沈黙が流れる。
その静寂を破ったのは緋乃だった。
「待て。」
一歩前へ出る。
「この人数相手に、その言葉をそのまま信用しろってか?」
天宮は鼻で笑った。
「疑うのも無理はねぇな。」
「だが安心しろ。」
「俺はなぁ、タイマンに横槍を入れるほどダセぇ真似はしねぇ。」
そう言うと、天宮は後ろを振り返る。
「なぁ、お前ら。」
鷹取が眼鏡を押し上げる。
「異論ありません。」
「私も無駄な戦力は使いたくありませんから。」
鷲尾はガムを噛みながら肩を回した。
「どっちでもいいけど、女の子がいいなぁ。」
隼人は嬉しそうに手を叩く。
「オレも何でもいいよぉ。」
天宮は再び俺たちへ向き直る。
「決まりだ。」
「好きな相手を選べ。」
「それとも、こっちで決めてやろうか?」
その言葉を聞いた瞬間。
緋乃が一歩前へ出る。
「眼鏡。」
「お前だ。」
鷹取は小さく笑う。
「私ですか。」
「構いません。」
「どこまで出来るか見せてもらいましょう。」
「後悔させてやる。」
緋乃が拳を握る。
「次は私です。」
青嶌さんは静かに一歩前へ出た。
その表情から笑みは消えている。
「さっきから聞いていれば……。」
静かな声だった。
だが、その瞳にははっきりと怒りが宿っていた。
「女性を馬鹿にするような発言ばかり。」
「正直、不愉快です。」
鷲尾は青嶌さんを舐め回すように見つめ、口元を歪めた。
「お姉さん。」
「そんな細い腕で喧嘩なんかしなくていいって。」
ゆっくりと青嶌さんへ歩み寄る。
「俺が可愛がってやるからさ。」
店の奥を親指で指した。
「ほら、あっちにVIPルームがある。」
「二人でゆっくり楽しもうぜ。」
「優しくしてあげるからさ。」
店内に下卑た笑いが響く。
その時だった。
「……朝陽。」
隣で黄瀬が低い声を漏らす。
「どうした?」
黄瀬は鷲尾を睨みつけたまま言った。
「なんかアイツ……。」
「すっげぇムカつく。」
「俺がやっていい?」
俺は思わず苦笑する。
「青嶌さんが相手をすると言ったぞ?」
「それはそうなんだけどさ……。」
「青嶌さん、女の子だし。それに……。」
黄瀬は頭を掻きながら小さく呟く。
「なんか、あの人があんな奴に絡まれてるの見てると……。」
「腹が立つ。」
青嶌さんはそんな黄瀬を見て、ふっと笑う。
「ありがとう。」
「でも、この人は私が相手をします。」
「伊吹様に手を出し、女性を見下す人には……。」
「一度、現実を教えてあげないといけませんから。」
その言葉に、黄瀬は肩をすくめながら一歩下がる。
「……分かった。」
「でもヤバそうになったら、俺が飛び込むから。」
青嶌さんは小さく頷いた。
「その時はお願いします。」
青嶌さんは一歩前へ出た。
その背中を見ながら、俺は小さく声を掛ける。
「……青嶌さん。」
「はい?」
「それ。」
「完全に護衛の動きになってるけど、隠さなくていいのか?」
その一言で、青嶌さんの肩がぴくりと震えた。
「……あ。」
「わ、私としたことが。」
困ったように額へ手を当てる。
「つい、体が先に動いてしまいました。」
「どうする?」
「皆に気付かれるんじゃないか?」
青嶌さんは少し考え、小さく息を吐いた。
「……大丈夫です。」
「黒鉄くんのお祖父様の道場で護身術を教わっている、と話してありますので。」
「そのまま押し切ります。」
「押し切れるのか?」
「……押し切ります。」
その言葉に、俺は思わず笑ってしまった。
「分かった。」
「なら、それでいこう。」
青嶌さんも小さく微笑んだ。
「ありがとうございます。」
そう言うと、再び鷲尾へ向き直る。
その瞬間。
穏やかな青嶌さんの姿は消え、一人の護衛としての鋭い眼差しへ変わっていた。
すると、それまで黙っていた隼人が黄瀬を指差した。
「ねぇ。」
「さっきからうるさいキミ。」
「オレと遊ぼうよ。」
黄瀬は眉をひそめる。
「はぁ?」
隼人は無邪気な笑顔を浮かべたまま続ける。
「大丈夫。」
「すぐ終わるから。」
「言ってくれるじゃねぇか!」
黄瀬は拳を握り締める。
「望むところだ!」
天宮は満足そうに頷き、最後に俺を見る。
「で。」
「残ったのは俺とお前だ。」
俺は静かに一歩前へ出た。
「望むところだ。」
天宮は口角を吊り上げた。
「その目。」
「ますます気に入ったぜ。」
店内の空気が張り詰める。
誰も言葉を発しない。
天宮が拳を鳴らした。
それを合図に、四人の幹部が同時に前へ踏み出す。
俺たちも、それぞれ拳を構えた。




