7
夏穂と別れ、支度を済ませ足早に学校へ向かう。
教室へ入ると、いつもと変わらない朝の喧騒が広がっていた。
「おー、朝陽!」
黄瀬が大きく手を振る。
「おはよう!」
青嶌さんも笑顔で席へ着いている。
「おはよう。」
小紫さんも席についていた。
俺も軽く返事をすると、自分の席へ向う
ふと、教室を見渡す。
神白さんの席。
……空席だった。
(まだ来てないのか。)
時計を見る。
始業まであと十分。
遅刻するような人じゃない。
胸の奥に嫌な違和感が広がる。
「どうした?」
黄瀬が俺の視線を追う。
「神白さん、まだ来てないな。」
「そういえば。」
青嶌さんも神白さんの席を見た。
「珍しいですね。」
「迎えの車で来てるなら、遅れることなんてほとんどないのに。」
俺は静かに立ち上がった。
「ちょっと見てくる。」
「俺も行く。」
黄瀬がすぐ立ち上がる。
「私も。」
青嶌さんと小紫さんも続いた。
四人で教室を出る。
昇降口へ向かう廊下。
その途中だった。
「黒鉄。」
久しく聞いていない低い声。
振り返ると、緋乃がこちらへ歩いてくる。
「緋乃。」
「どうした?」
「神白さん見なかったか?」
俺が尋ねると、緋乃は少し考えるように顎へ手を当てた。
「ああ。」
「見たぞ。」
俺たち全員が緋乃を見る。
「朝、いつもの黒い車で送ってもらってた。」
「……。」
「でも。」
「校門の前で車を降りたあと、そのまま学校とは逆の方向へ歩いていった。」
「!」
俺の胸がざわつく。
「一人だったか?」
「ああ。」
「誰かを待ってる様子もなかった。」
緋乃は俺の表情を見て眉をひそめる。
「何かあったのか?」
少しだけ迷う。
だが、このまま黙っている場合じゃない。
俺は静かに息を吐いた。
「……皆にも話す。」
黄瀬たちも表情を引き締めた。
俺は昨日の出来事を順を追って話し始める。
栞さんからの電話。
『助けて……。』
警察への通報。
現場に残されていた荷物。
そして。
夏穂から聞いた話。
「警察では、黒天狗って半グレ組織が捜査線上にあるらしい。」
その名を聞いた瞬間。
空気が変わった。
「黒天狗……。」
青嶌さんが小さく呟く。
「知ってるのか?」
「噂だけね。」
「違法カジノや闇バイトを仕切ってる半グレ集団。」
「かなり危険だって。」
黄瀬が顔をしかめる。
「マジかよ……。」
「そんな奴らが相手なのか。」
緋乃は腕を組んだ。
「聞いたことはある。」
「喧嘩だけならそこらの不良とは比べもんにならねぇ。」
「本当に厄介な連中だ。」
俺は続ける。
「栞さんの自宅へ脅迫文が届いた。」
「神白さんを一人で連れて来い、警察に知らせたら殺すって。」
全員が言葉を失った。
「だから……。」
「神白さんは一人で向かった可能性が高い。」
「そんな……。」
青嶌さんが青ざめる。
黄瀬は拳を握り締めた。
「助けに行こう!」
緋乃も迷わず頷く。
「当然だ。」
「俺も行く。」
しかし。
青嶌さんが静かに口を開く。
「でも……。」
「どこへ?」
その一言で全員が黙った。
黒天狗。
名前は分かった。
だが、居場所が分からない。
黄瀬が悔しそうに頭を掻く。
「当てもなく探すわけにもいかないし……。」
重い沈黙が流れる。
その時だった。
今まで一言も話さなかった小紫さんが、静かに顔を上げた。
「……。」
全員の視線が集まる。
小紫は朝陽を真っ直ぐ見つめ、静かに口を開いた。
「一つだけ。」
「心当たりがあります。」




