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翌朝。
目覚まし時計が鳴るより早く、スマートフォンの着信音で目が覚めた。
時刻は午前六時。
画面には、
神白伊吹
の文字。
嫌な予感しかしなかった。
「もしもし。」
『黒鉄くん……。』
神白さんの声は昨夜よりさらに沈んでいた。
「栞さんは?」
『まだ……見つかっていません。』
「そうか。」
短く返す。
『それと。』
『昨日の夜。』
『警察の方から連絡があって……。』
「何か分かったのか?」
『栞さんのお母さんのところへ。』
『一通の封筒が届いたそうです。』
俺は眉をひそめた。
「封筒?」
『はい。』
『中には写真が一枚だけ。』
「写真?」
神白さんは息を整えてから続けた。
『栞さんともう一人の友人が縛られている写真だそうです。』
「……っ。」
『それと、一枚だけ紙が入っていたらしく。』
『そこには――』
『"神白伊吹を一人で連れて来い。"』
『"警察へ知らせれば殺す。"』
『それだけ書かれていたと…。』
沈黙が流れる。
神白さんが小さく嗚咽を漏らした。
『黒鉄くん……。』
『私、どうしたら……。』
俺は窓の外を見る。
朝日が昇り始めていた。
「絶対に一人では動かないで。」
『でも……。』
「相手の目的は神白さんだ。」
「一人で行けば、そのまま二人とも帰れなくなる。」
神白さんは何も言えなかった。
その時だった。
玄関のチャイムが鳴る。
ピンポーン。
こんな朝早くに誰だ。
一階から母さんの声が聞こえる。
「朝陽ー!」
「夏穂ちゃんよー!」
「え?」
俺は慌てて部屋を飛び出した。
玄関を開けると、
制服姿の少女が腕を組んで立っていた。
「おはよう。」
「朝陽。」
「夏穂?」
「電話じゃ話せないと思って。」
「お父さんから伝言。」
夏穂の表情は、昨日までの明るさとは違っていた。
真剣そのものだった。
「黒天狗。」
「思ってたより、厄介な相手かもしれない。」
「ここじゃなんだから。」
「少し歩こう。」
俺は無言で頷いた。
家から少し離れた公園。
朝の静けさの中、ベンチへ腰を下ろす。
夏穂は俺の顔を見るなり、真剣な表情になった。
「昨日、お父さんと少しだけ話した。」
「黒天狗。」
「やっぱり警察でも有力な線で見てるみたい。」
俺は黙って聞く。
「でもね。」
「まだ証拠が足りない。」
「相手のアジトも分からない。」
「だから今は水面下で捜査するしかないんだって。」
「……。」
「それに。」
夏穂は視線を落とした。
「犯人から脅迫文が届いてて…。」
「"警察に知らせれば殺す"って。」
「だから警察も簡単には動けない。」
俺は拳を握る。
「つまり。」
「時間だけが過ぎていく。」
夏穂は小さく頷いた。
「うん。」
「もちろん警察は本気で探してる。」
「でも相手は黒天狗。」
「普通の誘拐犯じゃない。」
「下手に動けば、人質が危なくなる。」
静かな沈黙。
やがて夏穂が俺を見る。
「朝陽。」
「お願い。」
「変なこと考えないで。」
「黒天狗は本当に危ない。」
「高校生が相手にしていい連中じゃない。」
俺は苦笑した。
「そんな顔するなよ。」
「まだ何も決めてない。」
「嘘。」
夏穂は即答した。
「その顔。」
「昔から知ってる。」
「何かを決めた時の朝陽の顔。」
図星だった。
「……。」
「ねえ。」
「お願いだから、一人で行かないで。」
夏穂のお願いに俺は、何も答えなかった。




