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護衛対象は、お嬢様でした。  作者: 愚兎
SOSに、こたえてみました。
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4


その日の夜。

事情聴取を終えた俺は、重い足取りで家へ戻った。

時計を見ると、もう午後8時を回っている。

「ただいま。」

母さんが心配そうな顔でリビングから顔を出した。

「遅かったわね。」

「ちょっと色々あって。」

「ご飯温めようか?」

「ごめん、後でもらう。」

それだけ言って、自分の部屋へ向かった。

制服から部屋着に着替える。

ベッドへ腰を下ろしたが、落ち着かない。

頭の中では、栞さんの最後の声が何度も繰り返されていた。

『助けて……。』

俺はスマートフォンを手に取る。

連絡先を開き、一人の名前を押した。

緑山 夏穂

プルルル……

一回。

二回。

三回目で電話が繋がる。

『……もしもし?』

「夏穂。」

一瞬の沈黙。

次の瞬間だった。

『はぁっ!?』

『朝陽!?』

『なによ、いきなり!!』

思わず苦笑する。

「悪い。」

『悪いじゃないわよ!』

『一ヶ月連絡してこないと思ったら突然電話!?』

『普通さぁ!』

『「元気?」とかあるでしょ!?』

「元気か?」

『今さら遅い!!』

思わず笑ってしまう。

昔から全然変わらない。

すぐ怒って。

すぐ騒いで。

でも、どこか放っておけない奴だった。

『……で?』

『朝陽から電話なんて珍しすぎる。』

『何かあったんでしょ?』

さすが幼馴染だけあって、勘だけは昔から鋭い。

俺は笑うのを一旦やめる。

「相談がある。」

その一言で、夏穂も空気を察したらしい。

『……何。』

声の調子が変わる。

「今日、知り合いが誘拐された可能性がある。」

電話の向こうが静まり返った。

「警察には通報した。」

「現場にも警察は来た。」

「でも、まだ何も分かってない。」

「夏穂。」

「おじさん、署長だよな。」

「何か……情報は入ってないか聞けないか?」

夏穂は少し考えるように黙った。

『朝陽。』

『捜査情報は、お父さんでも簡単には話せない。』

「分かってる。」

『でも。』

『事件として動いてるかどうかくらいなら確認できるかもしれない。』

『ちょっと待って。』

『お父さん、まだ書斎にいると思う。』

「頼む。」

『……うん。』

『ちょっと聞いてくるから、切らないで待ってて。』

受話器の向こうから、バタバタと走っていく足音が聞こえた。

俺はスマートフォンを耳に当てたまま、静かに息を吐いた。

どうか。

まだ間に合ってくれ。

その願いだけが、頭の中を巡っていた。



数分後。

受話器の向こうから足音が聞こえ、夏穂が電話へ戻ってきた。

『朝陽。』

「どうだった?」

夏穂は少しだけ言葉を選ぶように黙る。

『詳しいことは教えられないって。』

「……だよな。」

『でも、お父さんが一つだけ伝えていいって。』

俺は自然と姿勢を正した。

『今回の件。』

『誘拐事件として正式に捜査が始まった。』

「……。」

『それと。』

『まだ断定はできないけど、捜査線上にある半グレ組織がいるらしい。』

「半グレ?」

『名前は――』

夏穂は小さく息を飲んだ。

『黒天狗。』

その名前を聞いた瞬間、部屋の空気が一気に重くなった気がした。

「黒天狗……。」

聞いたことはない。

だが、その響きだけで普通の相手ではないことが伝わってくる。

『お父さんが言ってた。』

『もし本当に黒天狗なら、絶対に関わるなって。』

『あいつらは普通の不良じゃない。』

『違法カジノや闇バイトの元締めもやってる、県内でも有名な半グレ組織。』

『警察もずっと追ってるけど、なかなか尻尾を掴めないくらい厄介な相手なんだって。』

夏穂の声に、冗談は一切なかった。

『朝陽。』

『お願いだから、警察に任せて。』

『相手が黒天狗だったら、本当に危ない。』

俺は静かに目を閉じた。

「……分かった。」

そう答えながらも、頭の中では栞さんの最後の声が離れない。

『助けて……。』

あの声を聞いてしまった以上。

何もしないままでいられるほど、俺は器用じゃないし、相手は神白さんも狙っている。

きっとこのまま終わるはずが無い。

そんな不安を残しつつ夏穂に感謝を伝えると静かに通話を切った…。


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