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それから数日が過ぎた。
放課後の勉強会はすっかり日課となり、昼休みになれば自然と五人で机を囲む。
黄瀬の騒がしい声に青嶌さんが笑い、神白さんが優しく微笑む。その輪の中には、今では当たり前のように小紫さんの姿もあった。
「黒鉄くん、この問題なんだけど。」
「ここなら、この公式を使えば分かりやすいよ。」
「なるほど……ありがとう。」
そんな何気ないやり取りも、いつしか自然になっていた。
小紫さんも最初の頃のような遠慮はなくなり、時折冗談に笑ったり、自分から話しかけたりする姿が増えていた。
そんな穏やかな時間は、あっという間に過ぎていく。
そして――。
いよいよ中間テスト当日を迎えた。
教室には、いつもの賑やかさはほとんどない。
参考書を開く者。
単語帳を見返す者。
机に突っ伏して現実逃避をする者。
その最後に該当するのは、もちろん黄瀬だった。
「終わった……。」
開始十分前だというのに、机へ額を押し付けたまま動かない。
「まだ始まってもないだろ。」
俺が呆れて声を掛ける。
「違うんだよ朝陽……。」
「始まる前から終わってるんだよ……。」
「毎日勉強してたじゃない。」
青嶌さんが苦笑する。
「そうだよ!」
黄瀬は勢いよく顔を上げる。
「だから今回は前よりマシなはずなんだ!」
「ここはさぁ…。」
「私が教えてたんだから、大丈夫って言って欲しかったな。」
「うっ……。」
教室に小さな笑いが広がる。
神白さんも口元を押さえながらくすっと笑った。
「きっと大丈夫ですよ。」
「勉強会の成果、出ます。」
「神白さん……!」
黄瀬は両手を合わせる。
「神白さんを拝んでおけば点数が上がる気がする!」
「気のせいだ。」
「最後まで朝陽はきびしぃ〜」
そんな他愛もない会話を交わしていると、教室の扉が開く。
「席に着けー。」
先生の声が響き、教室の空気が一変した。
全員が静かに席へ着くと、机の上には筆記用具だけになる。
やがて問題用紙が配られ始めた。
(さて……。)
俺は静かに深呼吸をし、配られた問題用紙へ視線を落とした。
試験開始の合図と同時に、教室には紙をめくる音とシャープペンシルの走る音だけが響く。
問題を一通り見渡す。
(……思ったより難しくないな。)
勉強会で何度も解いた問題と似たような内容がいくつもあった。
迷うことなく答えを書き進めていく。
ふと前を見ると、黄瀬が頭を掻きながら問題用紙を睨みつけていた。
(……頑張れ、大丈夫。)
心の中だけで応援し、俺は再び問題へ集中した。
□ □ □ □
「終わったぁぁぁー!」
最後の教科が終わると同時に、黄瀬が机へ突っ伏した。
「もう一生勉強したくない……。」
「まだ私達、高校1年の5月よ。」
青嶌さんが苦笑する。
「でも今回はどうだったの?」
神白さんが優しく尋ねると、黄瀬は胸を張った。
「今回は自信ある!」
「7割くらいは埋めた!」
「黄瀬にしては頑張った方だね。」
「でた!朝陽のトゲがある言い方!」
教室に笑いが広がる。
「皆さんはどうでした?」
神白さんが俺たちを見回す。
「普通かな。」
「私はそこそこ!」
「私は……大丈夫だと思います。」
小紫さんも静かに答える。
「私も問題なく解けました。」
勉強会の成果は、少なくとも全員に出ているようだった。
「よーし!」
黄瀬が勢いよく立ち上がる。
「テストも終わったことだし、今日は遊びに――」
「今日は帰って寝ろ。」
「なんでぇ!?」
また笑いが起きる。
そんな穏やかな空気の中、不意に神白さんのスマートフォンが震えた。
「……。」
画面を見た神白さんの表情が、わずかに曇る。
「どうした?」
俺が声を掛けると、神白さんは少しだけ困ったように笑った。
「ごめんなさい。」
「少し、電話に出てもいいですか?」
「もちろん。」
神白さんは教室の外へ出ていく。
数分後。
戻ってきた神白さんの表情は、さっきまでとは明らかに違っていた。
どこか落ち着かず、不安を押し隠しているような顔だった。
「神白さん?」
青嶌さんが心配そうに声を掛ける。
神白さんは少し迷ったあと、小さく息を吸った。
「皆さんに……少し相談したいことがあります。」
その一言で、教室の空気が静かに張り詰めた。




