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護衛対象は、お嬢様でした。  作者: 愚兎
中間テスト、やってみました。
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53/127

10


待ち合わせ場所は、駅のロータリー前。

俺が着くと、すでに黄瀬がベンチへ腰掛けていた。

「おっ。」

「黒鉄くん!」

「おっはよー!」

「集合二十分前って…。」

「遅刻するよりいいでしょ?」

「まぁ、それはそうだけど。」

そんな話をしていると、

「おまたー。」

黄瀬がやって来た。

「まだそろってない感じ?」

「うん。」

「私も今着いた。」

その時だった。

一台の黒いセダンがゆっくりとロータリーへ入ってくる。

いつものように運転席からスーツ姿の男性が降り、後部座席のドアが開き、神白さんが姿を現した。

「おはようございます。」

神白さんが笑顔で頭を下げる。

「おっはよー。」

「おはよう神白さん。」

「おはよー!」

それぞれ挨拶を交わす。

神白さんは運転手へ向き直る。

「では、行ってまいります。」

そういうとスーツ姿の男性は運転席に戻り、車は静かに走らせた。

すると今度は、

「ごめんなさい。」

聞き慣れた声が後ろから聞こえた。

振り返ると、小紫さんがこちらへ歩いてくる。

肩まで揺れる黒髪が朝日に照らされていた。

「待たせちゃったかしら?」

「いや。」

「今ちょうど全員揃った。」

「それじゃあ出発!」

黄瀬が勢いよく歩き始める。

「行き先分かるの?」

「何となくこっちだと思ってた。」

「誰が決めた。」

「俺!」

「勝手に決めるな。」

笑いながら駅前を歩き出す。

しばらく歩くと、黄瀬が辺りを見回した。

「朝陽。」

「まだ着かないのか?」

「もう少し。」

「歩いて十分くらいかな。」

「そんな遠くないよ。」

「へぇ。」

青嶌さんが周囲を見回す。

「この辺って静かなんだね。」

「昔からあんまり変わってないよ。」

住宅街へ入ると、人通りも少なくなる。

小鳥の鳴き声だけが静かに聞こえていた。

さらに数分歩く。

やがて、大きな木造の門が見えてきた。

門柱には力強い文字でこう刻まれている。

――黒鉄流古武術道場。

俺は門の前で立ち止まった。

「ここだよ。」

四人は同時に門を見上げる。

「……。」

その迫力に、誰もすぐには言葉を発せなかった。



四人は門を見上げたまま、しばらく言葉を失っていた。

「……すごい。」

最初に口を開いたのは青嶌さんだった。

「思ってたよりずっと本格的……。」

「俺も思った。」

黄瀬が思わず頷く。

「もっと体育館みたいなの想像してた。」

「なんか映画に出てきそうじゃね?」

神白さんは門に刻まれた文字を静かに見つめる。

「黒鉄流古武術……。」

「歴史を感じますね。」

俺は門に手を掛け、小さく笑った。

「ただの古びた道場だよ。」

ギィ……。

重厚な木の門がゆっくりと開く。

中へ入ると、広い庭が目の前に広がった。

白い玉砂利が敷き詰められ、その奥には年季の入った木造の道場。

道場の横には手入れの行き届いた竹林が風に揺れている。

穏やかな空気が流れていた。

「静か……。」

神白さんが思わず小さな声を漏らす。

「街の中とは思えない。」

「すげぇ……。」

黄瀬も珍しく辺りを見回すだけで騒がない。

その時だった。

「朝陽。」

聞き慣れた低い声が聞こえた。

縁側に、一人の老人が腰を下ろしていた。

白髪交じりの短い髪。

年齢を感じさせる皺はあるものの、その眼光だけは鋭い。

黒鉄流古武術先代師範――

黒鉄天元。

「じいちゃん。」

「連れてきたよ。」

祖父はゆっくり立ち上がると、四人へ視線を向ける。

一人ひとりの顔を見る。

値踏みするようでもなく。

威圧するわけでもなく。

ただ静かに。

そして口元を緩めた。

「よう来たな。」

「朝陽の友達なら、遠慮はいらん。」

「ゆっくりしていけ。」

その言葉だけで、四人の肩から少し力が抜けた。

「こんにちは!」

黄瀬が勢いよく頭を下げる。

「今日はよろしくお願いします!」

「よろしくお願いいたします。」

神白さんたちも続いて頭を下げる。

祖父は満足そうに頷いた。

「うむ。」

「ちゃんと挨拶のできる子たちじゃな。」

「朝陽。」

「お茶でも出してやれ。」

「はいはい。」

俺が苦笑しながら返事をすると、

祖父は四人を見て、どこか嬉しそうに目を細めていた。



「せっかくだからね。」

俺は四人を見回した。

「まずは中を案内するよ。」

「お願いしまーす!」

黄瀬が元気よく返事をする。

俺たちは道場の中へ入った。

廊下を歩いていくと、一枚の大きな額が目に入る。

「これ……。」

神白さんが足を止めた。

壁一面に、歴代師範たちの写真が並んでいた。

一番古いものは白黒写真。

さらに古いものになると、写真ではなく肖像画になっている。

「全部、黒鉄流の師範なの?」

青嶌さんが尋ねる。

「うん。」

「初代から今までの歴代師範。」

俺は最後から2番目の写真を指差した。

「これが俺のじいちゃん。」

「へぇ……。」

黄瀬が写真と祖父を交互に見比べる。

「今より若い!」

「当たり前でしょ。」

思わず笑う。

そして祖父の横にある写真へと目を移した。

「これが……。」

写真には、黒い道着を着た一人の男性が写っている。

真っ直ぐな眼差し。

どこか俺によく似た顔立ち。

写真の下には、

師範 黒鉄太陽

と刻まれていた。

神白さんが静かに尋ねる。

「この方は……。」

「俺の親父。」

短く答える。

「黒鉄流の師範だった。」

四人が写真を見つめる。

黄瀬が少し声を落とした。

「朝陽のお父さん……。」

「うん。」

「俺が中一の時に亡くなった。」

静かな空気が流れる。

神白さんも青嶌さんも、それ以上何も聞かなかった。

「親父は強かったよ。」

俺は写真を見ながら笑う。

「じいちゃんも勝てなかった相手だから。」

「え?」

四人が同時に驚く。

その時だった。

「負け惜しみは言わん。」

後ろから祖父の声が聞こえた。

「朝陽の父親は、本当に儂より強かった。」

「じゃから安心して師範を任せた。」

そう言って写真へ視線を向ける。

その目は少しだけ優しかった。

さらに奥へ進む。

次に案内したのは武具が並ぶ部屋だった。

壁には大小さまざまな武器が整然と掛けられている。

刀。

槍。

薙刀。

弓矢。

鎖鎌。

十手。

短刀。

見たこともない武器まで並んでいた。

「すご……。」

神白さんが思わず息を呑む。

「こんなにあるんですか……。」

「全部使えるの?」

青嶌さんが驚いたように聞く。

「基本はね。」

俺が答える。

「黒鉄流では全部扱う。」

「全部!?」

黄瀬の声が裏返った。

「そんな覚えられんの?」

「身体でね。」

そのやり取りに、小紫さんだけは静かに武具を見つめていた。

一本一本を確かめるように。

「どうして、こんなに武器があるの?」

小紫さんが尋ねる。

俺は少し考えてから答えた。

「黒鉄流は、戦国時代に生まれた武術なんだ。」

「戦場では刀だけじゃ戦えない。」

「槍を持つ相手もいれば、弓もいる。」

「だから、どんな武器を持った相手にも対応できるように、多くの武具を扱うようになったらしい。」

「なるほど……。」

神白さんが静かに頷く。

その時だった。

「朝陽の説明だけじゃ足りんな。」

後ろから、祖父の声が聞こえた。

振り返ると、いつの間にか後に立っていた。

「じいちゃん。」

祖父は武具を見渡しながら、ゆっくりと口を開く。

「昔の黒鉄流はな。」

「戦場で生き残るための武術だった。」

「極端に言えば、人を斬り、人を殺すための技じゃ。」

四人の表情が少し引き締まる。

「じゃが、それは昔の話。」

祖父は穏やかに笑った。

「今は戦国時代じゃない。」

「人を傷付けるために武術を学ぶ時代でもない。」

一本の木刀を手に取る。

「武術は、力じゃ。」

「力そのものに善も悪もない。」

「使う人間次第じゃ。」

そう言うと、祖父は木刀を元の場所へ戻した。

「だから儂は、黒鉄流の教えを少し変えた。」

「黒鉄流は、人を傷付けるための武術ではない。」

「自分の大切なものを守るための武術じゃ。」

その言葉には、不思議な重みがあった。

誰もすぐには口を開かなかった。

静まり返った道場に、風鈴の音だけが静かに響く。

俺はそんな四人を見ながら、小さく笑った。

「だからじいちゃん、昔から口うるさいんだよ。」

「『力は守るために使え』って。」

「毎日のように言われて育った。」

「当たり前じゃ。」

祖父がすぐに言い返す。

「朝陽は放っておくと、すぐ無茶をするからな。」

「誰のせいだよ。」

「儂じゃな。」

「認めるんかい。」

その一言に、道場中が笑いに包まれた。

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