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護衛対象は、お嬢様でした。  作者: 愚兎
中間テスト、やってみました。
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9


待ち合わせ場所は、駅のロータリー前。

俺が着くと、すでに青嶌さんベンチへ腰掛けていた。

「おっ。」

「黒鉄くん!」

「おっはよー!」

「集合二十分前って…。」

「遅刻するよりいいでしょ?」

「まぁ、それはそうだけど。」

そんな話をしていると、

「おまたー。」

黄瀬がやって来た。

「まだそろってない感じ?」

「うん。」

「私も今着いた。」

その時だった。

一台の黒いセダンがゆっくりとロータリーへ入ってくる。

いつものように運転席からスーツ姿の男性が降り、後部座席のドアが開き、神白さんが姿を現した。

「おはようございます。」

神白さんが笑顔で頭を下げる。

「おっはよー。」

「おはよう神白さん。」

「おはよー!」

それぞれ挨拶を交わす。

神白さんは運転手へ向き直る。

「では、行ってまいります。」

そういうとスーツ姿の男性は運転席に戻り、車は静かに走らせた。

すると今度は、

「ごめんなさい。」

聞き慣れた声が後ろから聞こえた。

振り返ると、小紫さんがこちらへ歩いてくる。

肩まで揺れる黒髪が朝日に照らされていた。

「待たせちゃったかしら?」

「いや。」

「今ちょうど全員揃った。」

「それじゃあ出発!」

黄瀬が勢いよく歩き始める。

「行き先分かるの?」

「何となくこっちだと…。」

「誰が決めた。」

「俺!」

「勝手に決めるな。」

笑いながら駅前を歩き出す。

しばらく歩くと、黄瀬が辺りを見回した。

「朝陽。」

「まだ着かないのか?」

「もう少し。」

「歩いて十分くらいかな。」

「そんな遠くないよ。」

「へぇ。」

青嶌さんが周囲を見回す。

「この辺って静かなんだね。」

「昔からあんまり変わってないよ。」

住宅街へ入ると、人通りも少なくなる。

小鳥の鳴き声だけが静かに聞こえていた。

さらに数分歩く。

やがて、大きな木造の門が見えてきた。

門柱には力強い文字でこう刻まれている。

――黒鉄流古武術道場。

俺は門の前で立ち止まった。

「ここだよ。」

四人は同時に門を見上げる。

「……。」

その迫力に、誰もすぐには言葉を発せなかった。


四人は門を見上げたまま、しばらく言葉を失っていた。

「……すごい。」

最初に口を開いたのは青嶌さんだった。

「思ってたよりずっと本格的……。」

「俺も思った。」

黄瀬が思わず頷く。

「もっと体育館みたいなの想像してた。」

「なんか映画に出てきそうじゃね?」

神白さんは門に刻まれた文字を静かに見つめる。

「黒鉄流古武術……。」

「歴史を感じますね。」

俺は門に手を掛け、小さく笑った。

「ただの古びた道場だよ。」

ギィ……。

重厚な木の門がゆっくりと開く。

中へ入ると、広い庭が目の前に広がった。

白い玉砂利が敷き詰められ、その奥には年季の入った木造の道場。

道場の横には手入れの行き届いた竹林が風に揺れている。

穏やかな空気が流れていた。

「静か……。」

神白さんが思わず小さな声を漏らす。

「街の中とは思えない。」

「すげぇ……。」

黄瀬も珍しく辺りを見回すだけで騒がない。

その時だった。

「朝陽。」

聞き慣れた低い声が聞こえた。

縁側に、一人の老人が腰を下ろしていた。

白髪交じりの短い髪。

年齢を感じさせる皺はあるものの、その眼光だけは鋭い。

黒鉄流古武術先代師範――

黒鉄天元。

「じいちゃん。」

「連れてきたよ。」

祖父はゆっくり立ち上がると、四人へ視線を向ける。

一人ひとりの顔を見る。

値踏みするようでもなく。

威圧するわけでもなく。

ただ静かに。

そして口元を緩めた。

「よう来たな。」

「朝陽の友達なら、遠慮はいらん。」

「ゆっくりしていけ。」

その言葉だけで、四人の肩から少し力が抜けた。

「こんにちは!」

黄瀬が勢いよく頭を下げる。

「今日はよろしくお願いします!」

「よろしくお願いいたします。」

神白さんたちも続いて頭を下げる。

祖父は満足そうに頷いた。

「うむ。」

「ちゃんと挨拶のできる子たちじゃな。」

「朝陽。」

「お茶でも出してやれ。」

「はいはい。」

俺が苦笑しながら返事をすると、

祖父は四人を見て、どこか嬉しそうに目を細めていた。



「せっかくだからね。」

俺は四人を見回した。

「まずは中を案内するよ。」

「お願いしまーす!」

黄瀬が元気よく返事をする。

俺たちは道場の中へ入った。

廊下を歩いていくと、一枚の大きな額が目に入る。

「これ……。」

神白さんが足を止めた。

壁一面に、歴代師範たちの写真が並んでいた。

一番古いものは白黒写真。

さらに古いものになると、写真ではなく肖像画になっている。

「全部、黒鉄流の師範なの?」

青嶌さんが尋ねる。

「うん。」

「初代から今までの歴代師範。」

俺は一番最後の写真を指差した。

「この人が先代師範。」

「俺のじいちゃん。」

「へぇ……。」

黄瀬が写真と祖父を交互に見比べる。

「今よりちょっと若い!」

「当たり前でしょ。」

思わず笑う。

さらに奥へ進む。

次に案内したのは武具が並ぶ部屋だった。

壁には大小さまざまな武器が整然と掛けられている。

刀。

槍。

薙刀。

弓矢。

鎖鎌。

十手。

短刀。

見たこともない武器まで並んでいた。

「すご……。」

神白さんが思わず息を呑む。

「こんなにあるんですか……。」

「全部使えるの?」

青嶌さんが驚いたように聞く。

「基本はね。」

俺が答える。

「黒鉄流では全部扱う。」

「全部!?」

黄瀬の声が裏返った。

「そんな覚えられんの?」

「慣れるよ。」

「いや、慣れねぇよ!」

そのやり取りに、小紫さんだけは静かに武具を見つめていた。

一本一本を確かめるように。

「どうして、こんなに武器があるの?」

小紫さんが尋ねる。

俺は少し考えてから答えた。

「黒鉄流は、戦国時代に生まれた武術なんだ。」

「戦場では刀だけじゃ戦えない。」

「槍を持つ相手もいれば、薙刀もいる。」

「だから、どんな武器を持った相手にも対応できるように、多くの武具を扱うようになったらしい。」

「なるほど……。」

神白さんが静かに頷く。

その時だった。

「朝陽の説明だけじゃ足りんな。」

後ろから、じいちゃんの声が聞こえた。

振り返ると、いつの間にか後に立っていた。

「じいちゃん。」

祖父は武具を見渡しながら、ゆっくりと口を開く。

「昔の黒鉄流はな。」

「戦場で生き残るための武術だった。」

「極端に言えば、人を斬り、人を殺すための技じゃ。」

四人の表情が少し引き締まる。

「じゃが、それは昔の話。」

祖父は穏やかに笑った。

「今は戦国時代じゃない。」

「人を傷付けるために武術を学ぶ時代でもない。」

一本の木刀を手に取る。

「武術は、力じゃ。」

「力そのものに善も悪もない。」

「使う人間次第じゃ。」

そう言うと、祖父は木刀を元の場所へ戻した。

「だから儂は、黒鉄流の教えを少し変えた。」

「黒鉄流は、人を傷付けるための武術ではない。」

「自分の大切なものを守るための武術じゃ。」

その言葉には、不思議な重みがあった。

誰もすぐには口を開かなかった。

静まり返った道場に、風鈴の音だけが静かに響く。

俺はそんな四人を見ながら、小さく笑った。

「だからじいちゃん、昔から口うるさいんだよ。」

「『力は守るために使え』って。」

「毎日のように言われて育った。」

「当たり前じゃ。」

祖父がすぐに言い返す。

「朝陽は放っておくと、すぐ無茶をするからな。」

「誰のせいだよ。」

「儂じゃな。」

「認めるんかい。」

その一言に、道場中が笑いに包まれた。

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