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その日の夕方。
家へ帰ると、今日一日歩き回った疲れがどっと押し寄せてきた。
「ただいま。」
リビングから母さんの「おかえりー」という声が聞こえる。
軽く返事だけして、自分の部屋へ上がった
部屋へ戻ると、俺は制服から部屋着に着替え、スマホを手に取った。
「よし。」
じいちゃんに電話を掛ける。
数回のコール音の後、すぐに繋がった。
『おう、朝陽。』
「じいちゃん。」
『なんだ?』
『珍しいな、お前から電話なんて。』
「明日さ、道場行くじゃん。」
『おう。』
『サボるなよ?』
「サボらないよ。」
思わず笑う。
「それでさ。」
「友達が見学したいって言うんだけど。」
電話の向こうが一瞬静かになる。
『……友達?』
「うん。」
『朝陽の友達か?』
「そう。」
すると、電話越しに「ははっ」と嬉しそうな笑い声が聞こえた。
『そうかそうか。』
『お前にも一緒に遊ぶ友達ができたか。』
「なんだよ、それ。」
『いやぁ、じいちゃん嬉しくてな。』
『昔のお前は道場と学校の往復しかしなかったからよ。』
「余計なお世話。」
『ははは!』
『いいじゃねぇか。』
『連れてこい、連れてこい。』
『せっかくなら歓迎してやる。』
「ほんとか?」
『ただし。』
『道場ではちゃんと挨拶だけはさせろよ?』
「それくらい分かってる。」
『なら問題ねぇ。』
『明日楽しみに待ってるぞ。』
「ありがと。」
電話を切る。
(あんなに嬉しそうなの、久しぶりに聞いたな。)
俺は少し笑いながら、すぐにグループチャットを開いた。
【朝陽】
『じいちゃんに聞いた。』
『明日、みんな来てもいいって。』
送信して数秒。
【黄瀬】
『よっしゃーー!!』
【青嶌】
『やったー!』
【神白】
『ありがとうございます。よろしくお願いします。』
少し遅れて、
【小紫】
『ありがとう、黒鉄くん。』
『明日、楽しみにしてるね。』
画面を閉じた。
◇ ◇ ◇ ◇
その夜。
自室。
小紫は窓際に立ち、スマートフォンを耳に当てた。
数回のコール音の後、電話が繋がる。
『私よ。』
「お姉様、私です。」
『報告を聞かせて。』
「神白伊吹たちとの接触は順調です。」
『そう。』
短く返事が返ってくる。
小紫は続けた。
「それと。」
「明日、黒鉄朝陽の家へ行くことになりました。」
『……家?』
「正確には黒鉄流古武術の道場です。」
「黒鉄朝陽の祖父であり、黒鉄流古武術先代にも会う予定です。」
電話の向こうで、ロゼが静かに息を吐いた。
『そう、良くやっているわね。』
「ありがとうございます。」
『黒鉄流について分かることは、できる限り見てきなさい。』
『分かりました。』
少しだけ間が空く。
『それと、小紫。』
「はい。」
『任務を忘れないこと。』
その一言だけだった。
「……はい。」
通話が切れる。
部屋は再び静寂に包まれる。
小紫はスマートフォンを見つめたまま、小さく息を吐いた。
そして窓の外へ視線を向ける。
「黒鉄流古武術……。」
その名を静かに口にすると、わずかに口元を緩めた。
「どんな場所なのかしら。」
誰に聞かせるでもなく呟いたその声は、夜の静けさへ溶けていった。




