6
土曜日。
待ち合わせ場所は駅前の噴水広場。
休日ということもあり、朝から多くの人で賑わっていた。
「朝陽!」
一番乗りだった黄瀬が大きく手を振る。
「今日はちゃんと時間通りだな!」
「今日もだよ。」
「へへっ。」
そこへ青嶌さんも合流する。
ゆったりとしたカーゴパンツにロゴ入りのTシャツ、足元は厚底スニーカーというラフな格好で、いつも以上に活発な雰囲気だった。
「お待たせ。」
「まだ神白さんと小紫さんが来てないね。」
「神白さんは車じゃない?」
黄瀬が何気なく言った、その時だった。
一台の黒い高級セダンが静かに歩道脇へ停まる。
「きたきた。」
黄瀬が思わず声を漏らす。
運転席からスーツ姿の男性が降り、後部座席のドアを開けた。
「お嬢様、到着いたしました。」
「ありがとうございます。」
神白さんが車から降りる。
白いブラウスに淡いブルーのロングスカート。肩まで流れる髪をハーフアップにまとめた姿は、休日でもどこか気品があり、思わず目を奪われるほどだった。
「皆さん、お待たせしました。」
「ごめんなさい。」
「いや、時間ぴったりだよ。」
青嶌さんが笑顔で迎える。
神白さんは運転手へ軽く頭を下げた。
「帰りもお願いいたします。」
「かしこまりました。」
車が静かに走り去る。
そのタイミングで、
「ごめんなさい。」
後ろから小紫さんが歩いてきた。
黒のジップパーカーに細身のパンツ、足元は厚底ブーツ。黒を基調とした私服は大人びた雰囲気をまとい、モデルのような存在感を放っている。
「待たせちゃったかしら?」
「ちょうど今集まったところ!」
黄瀬が笑う。
「これで全員集合!」
「よし!」
黄瀬が勢いよく拳を突き上げた。
「まずは一軒目!」
「シュークリームだ!」
俺たちが最初に入ったのは、焼きたてシュークリームの専門店だった。
店の前まで来ると、甘いバターの香りが鼻をくすぐる。
ショーケースには、きつね色に焼き上がったシュークリームがずらりと並んでいた。
「美味しそう……。」
神白さんが目を輝かせる。
「外がザクザクしてるのが人気なんだって。」
青嶌さんが店の看板を見ながら言った。
「じゃあ全員一個ずつ!」
黄瀬は迷わず注文する。
俺たちもそれぞれシュークリームを受け取り、店の前で食べ始めた。
一口かじる。
「ザクッ」
思わず音が鳴る。
香ばしい生地の中から、とろりとしたカスタードクリームが溢れ出した。
「うまい。」
思わず声が漏れる。
「ほんとですね!」
神白さんも嬉しそうに笑った。
「食感がすごいです。」
「外サクサク、中はとろとろ。」
青嶌さんも満足そうに頷く。
「人気なのも分かるな。」
「朝陽。」
黄瀬がニヤニヤ笑う。
「お前、口。」
「ん?」
「クリーム付いてる。」
「あ、マジ?」
手で拭こうとした瞬間だった。
「動かないで。」
小紫さんがハンカチを取り出し、俺の口元を軽く拭った。
「はい。」
「あ、ありがとう。」
「どういたしまして。」
自然すぎる動作だった。
その様子を見ていた神白さんが、一瞬だけ固まる。
「……?」
何か言いたそうだったけど、結局何も言わず、自分のシュークリームを小さくかじった。
その横で黄瀬だけが肩を震わせて笑っていた。
「何だよ。」
「いや?」
「別に?」
絶対何かある。
でも聞いても教えてくれそうになかった。
二軒目に向かったのは、ロールアイスの専門店だった。
冷えた鉄板の上へクリームを流し込み、店員がヘラで素早く広げていく。
細かく刻んだ果物を混ぜ合わせ、最後は薄く伸ばしたアイスをくるくると巻いていく。
「おぉー!」
黄瀬が子供みたいに声を上げた。
「すげぇ!」
「初めて見ました。」
神白さんも身を乗り出している。
「職人技ですね。」
「見てるだけでも面白いな。」
出来上がったアイスを受け取り、近くのベンチへ座る。
「いただきます。」
冷たいアイスが口の中でゆっくり溶けていく。
「美味しい。」
「うん。」
俺が頷くと、小紫さんがスプーンを差し出した。
「黒鉄くん。」
「マンゴー味も美味しいわよ。」
「一口どう?」
「じゃあ少し。」
一口もらう。
「確かに美味しい。」
「でしょう?」
小紫さんが少しだけ笑う。
その時。
「く、黒鉄さん。」
神白さんがおずおずとスプーンを持ち上げた。
「私のイチゴ味も……。」
「よかったら。」
「ああ。」
「ありがとう。」
一口もらう。
「これも美味しい。」
「よかった……。」
神白さんはほっとしたように笑った。
その笑顔を見て、小紫さんも静かに微笑んでいた。
三軒目は、最近人気だというアサイーボウルの店だった。
色鮮やかなフルーツがたっぷり盛り付けられた器が運ばれてくる。
「写真撮ろ!」
青嶌さんがスマホを取り出す。
「賛成!」
黄瀬もすぐに並べ始める。
「朝陽も入れ!」
「え、俺も?」
「当たり前だろ!」
結局、五人でテーブルを囲んで写真を撮ることになった。
シャッターが切られるたび、自然と笑顔がこぼれる。
こうして休日にみんなで出掛けるなんて、少し前の俺なら想像もしなかった。
でも――。
悪くない。
そんなことを思いながら、俺はアサイーボウルを一口運んだ。




