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「今日はここまでにしようか。」
青嶌さんが教科書を閉じる。
「お疲れさま。」
「終わったぁぁ……。」
黄瀬が机に突っ伏したまま大きく息を吐く。
「英語ってこんな疲れるのかよ……。」
「勉強したからでしょ。」
青嶌さんが苦笑する。
「でも、最初よりはちゃんと分かるようになってきてるよ。」
「ほんと?」
「うん。」
「だから、この調子で続けようね。」
「続ける前提なんだ……。」
黄瀬は肩を落とし、笑いが広がった。
荷物をまとめ、五人は図書室を後にする。
昇降口を出ると、夕焼けが校舎を赤く染めていた。
「もうこんな時間か。」
俺が空を見上げる。
「勉強してると、時間ってあっという間だね。」
青嶌さんが笑う。
「私は結構楽しかったよ。」
神白さんも小さく頷いた。
「皆さんと一緒だからでしょうか。」
「俺は疲れたけどな!」
黄瀬が大げさに伸びをする。
「頭使いすぎて腹減った!」
「使ったのは最後の方だけじゃない?」
「細かいことは気にするな!」
他愛もない話をしながら歩いていると、小紫が自然と俺の隣へ並んだ。
「黒鉄くん。」
「怪我、大丈夫?」
「ああ。」
「は痛みはだいぶ引いたよ。」
「そう。」
小紫さんは安心したように微笑む。
「でも、無理はしないでね。」
その何気ない会話を、神白さんは少し後ろから静かに見つめていた。
「神白さん?」
俺が振り返る。
「えっ?」
「どうしたの?」
「い、いえ。」
「何でもありません。」
慌てて笑顔を作る。
けれど、その笑顔はどこかぎこちなかった。
神白さんを送り届けた後
「じゃあ、私はこっちだから。」
青嶌さんが手を振る。
「また明日!」
「またね。」
青嶌さんと別れ、さらに歩く。
次の角で小紫さんも立ち止まった。
「私はこっち。」
「今日はありがとう、黒鉄くん。」
「また明日。」
「ああ。」
軽く手を振ると、小紫さんは微笑みながら帰っていった。
残ったのは俺と黄瀬。
夕焼けに照らされた帰り道を、ゆっくりと歩き始めた。
□ □ □ □
勉強会を始めて数日。
昼休みは自然と集まって昼食を食べる。
そんな毎日が、いつの間にか当たり前になっていた。
昼休み。
「俺だってやれば出来る!」
教室の後ろから黄瀬の大きな声が響く。
前の授業で黒板に出された問題を見事に解いた黄瀬は、どこか納得がいかない様子だった。
「絶対、みんな俺が問題解けないと思ってただろ!」
「そんなことないよ。」
青嶌さんが苦笑しながらなだめる。
「いや、みんなの顔が物語ってた!」
「被害妄想だろ。」
「朝陽までそんなこと言うのか!」
黄瀬が大げさに肩を落とす。
その様子に青嶌さんが吹き出した。
「でも、前よりちゃんと解けるようになってるよ。」
「そうそう!」
黄瀬はすぐに胸を張る。
「俺、今めちゃくちゃ伸びてるから!」
「まだ平均には届いてないけどね。」
「そこは言わなくていいじゃん!」
教室に笑い声が広がる。
「ふふっ。」
神白さんも思わず口元を押さえて笑った。
「でも、本当に頑張ってますよね。」
「毎日ちゃんと勉強してますし。」
「おっ!」
黄瀬が嬉しそうに身を乗り出す。
「神白さんだけは俺の味方だ!」
「味方というか……。」
「努力してるのは、本当ですから。」
神白さんは少し照れたように微笑む。
「……たぶん。」
「たぶんって何だよ!」
再び教室に笑い声が広がる。
その時だった。
「楽しそうね。」
聞き慣れた声とともに、小紫さんが歩いてきた。
「小紫さん!」
黄瀬が大きく手を振る。
「こっちこっち!」
「ありがとう。」
小紫さんは微笑むと、ごく自然に輪の中へ加わった。
最初は少し距離を置いていた彼女も、今では昼休みになるとこうして一緒に過ごすのが当たり前になっていた。
「昨日教えてもらったところ、ちゃんと解けたわ。」
小紫さんが俺へ笑いかける。
「ありがとう。」
「それならよかった。」
俺は頷く。
「また分からなかったら聞いて。」
「ええ。」
そのやり取りを見て、神白さんも優しく微笑んだ。
「小紫さんも、すっかり勉強会の仲間ですね。」
「ありがとうございます。」
「皆さんのおかげです。」
小紫さんは少し照れながら答えた。
黄瀬は腕を組み、満足そうに頷く。
「いやぁ。」
「もう五人でいるのが普通になってきたな。」
「そうね」
青嶌さんも笑う。
「最初はこんなふうになるなんて思ってなかった。」
神白さんも小さく頷いた。
「毎日、すごく楽しいです。」
その言葉に、四人は自然と笑顔になる。
小紫さんもその光景を見つめ、小さく微笑んだ。
「……複雑ね。」
誰にも聞こえないほど小さく、小紫さんは呟いた。
その時だった。
「なぁなぁ!」
黄瀬さんが何かを思いついたように話し出す。
「今度の土曜日、みんなで遊び行かね?」
「遊び?」
俺が聞き返す。
「そう!」
「最近さ、勉強、勉強、勉強だろ?」
「せっかく五人で仲良くなったんだから、たまには遊ばないともったいねぇじゃん!」
黄瀬らしい単純な発想だった。
だが、その一言に教室の空気が少しだけ弾む。
「いいかも。」
青嶌さんが笑顔で頷いた。
「息抜きも大事だもんね。」
「でしょう!」
黄瀬は胸を張る。
「で、どこ行くんだ?」
俺が尋ねると、黄瀬は一瞬固まった。
「……。」
「……。」
「考えてなかった。」
「おい。」
思わずツッコむ。
「そこまで勢いだったのかよ。」
「いや、遊ぶことしか考えてなかった!」
「さすが黄瀬くん。」
青嶌さんが苦笑する。
すると神白さんが遠慮がちに口を開いた。
「あの……。」
「駅前に新しくスイーツのお店が何軒かできたって聞きました。」
「食べ歩きができるみたいです。」
「おぉ!」
黄瀬が目を輝かせる。
「それだ!」
「スイーツ巡り!」
「俺、それ行きたい!」
「黄瀬くん、甘いもの好きだったの?」
「好き!」
「めちゃくちゃ好き!」
「昨日もコンビニでプリン二つ食べた!」
「だから最近太ってきたのか。」
「余計なこと言うな!」
また笑いが起きる。
小紫さんも柔らかく微笑んだ。
「私も甘いものは好きよ。」
「ぜひ、ご一緒したいわ。」
「私もです。」
神白さんも嬉しそうに頷く。
「じゃあ決まり!」
黄瀬が勢いよく立ち上がる。
「今度の土曜日!」
「五人でスイーツ巡りだ!」
「賛成。」
俺もそう答えると、自然と皆の表情が明るくなった。




