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護衛対象は、お嬢様でした。  作者: 愚兎
初めての休日、遊んでみました。
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8

「まだ……だ。」

息を吐くたびに腹が痛む。

呼吸が浅い。

それでも視線だけは逸らさなかった。

男は変わらない姿勢のまま、静かに立っている。

(こいつ……)

勝ち誇っているわけじゃない。

終わらせにきているわけでもない。

ただ――

観察している。

俺は歯を食いしばり、一歩踏み出す。

男もまた、ほんのわずかに下がった。

常に一定の距離を保つように。

嫌な感覚だった。

俺は踏み込む。

今度は迷わない。

左拳を顎へ、右拳をみぞおちへ同時に叩き込む。

だが男は動かず、受ける。

左拳は腕で外へ流され、右拳はもう片方の腕で内側へ潰される。

(やっぱり防ぐか……!)

そのまま間を潰される前に、俺は動く。

右膝を引き上げる。

狙いは頭部。

男の目が一瞬だけ動いた。

次の瞬間には、もう腕が上がりガードを固めている。

(ここまでは想定通りだ)

俺は膝を止めない。

そのまま軌道を変える。

腰をひねり、全身を連動させる。

蹴りはそのまま、男の横腹へ叩き込まれた。

鈍い衝撃。

「っ!」

男の体がわずかに揺れる。

ほんの数センチ。

それでも十分だった。

蹴りの反動を殺さず、そのまま地面を踏み込み、距離を詰める。

(ここだ――)

黒鉄流。

“剛の型・時雨”。

踏み込みと同時に、空気を割るように拳を打ち込む。

一瞬の連撃。

男の表情が歪む。

「ぐっ……!」

初めて明確な苦痛の声が漏れ、片膝が落ちる。

だが、男はまだ倒れない。

すぐに距離を取り、呼吸を整えながら俺を見る。

「……なるほど。」

男は口元を歪めたまま言った。

「これが黒鉄流か……」

その目の奥に、さっきまでとは違う色が宿っていた。

戦いは、まだ終わらない。

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