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「まだ……だ。」
息を吐くたびに腹が痛む。
呼吸が浅い。
それでも視線だけは逸らさなかった。
男は変わらない姿勢のまま、静かに立っている。
(こいつ……)
勝ち誇っているわけじゃない。
終わらせにきているわけでもない。
ただ――
観察している。
俺は歯を食いしばり、一歩踏み出す。
男もまた、ほんのわずかに下がった。
常に一定の距離を保つように。
嫌な感覚だった。
俺は踏み込む。
今度は迷わない。
左拳を顎へ、右拳をみぞおちへ同時に叩き込む。
だが男は動かず、受ける。
左拳は腕で外へ流され、右拳はもう片方の腕で内側へ潰される。
(やっぱり防ぐか……!)
そのまま間を潰される前に、俺は動く。
右膝を引き上げる。
狙いは頭部。
男の目が一瞬だけ動いた。
次の瞬間には、もう腕が上がりガードを固めている。
(ここまでは想定通りだ)
俺は膝を止めない。
そのまま軌道を変える。
腰をひねり、全身を連動させる。
蹴りはそのまま、男の横腹へ叩き込まれた。
鈍い衝撃。
「っ!」
男の体がわずかに揺れる。
ほんの数センチ。
それでも十分だった。
蹴りの反動を殺さず、そのまま地面を踏み込み、距離を詰める。
(ここだ――)
黒鉄流。
“剛の型・時雨”。
踏み込みと同時に、空気を割るように拳を打ち込む。
一瞬の連撃。
男の表情が歪む。
「ぐっ……!」
初めて明確な苦痛の声が漏れ、片膝が落ちる。
だが、男はまだ倒れない。
すぐに距離を取り、呼吸を整えながら俺を見る。
「……なるほど。」
男は口元を歪めたまま言った。
「これが黒鉄流か……」
その目の奥に、さっきまでとは違う色が宿っていた。
戦いは、まだ終わらない。




