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男は俺から数メートルほど離れた場所で足を止めた。
夕陽が沈みかけ、細い路地は半分ほど影に包まれ、辺りには人の気配はない。
聞こえるのは遠くを走る車の音だけだった。
男は無言のまま、じっとこちらを見ている。
その視線に敵意は感じない。
だが、それが逆に不気味だった。
俺は男から目を離さないまま口を開く。
「……何の用だ。」
男は少しだけ口角を上げた。
「随分落ち着いてるな。」
「普通なら逃げる。」
「逃げても無駄だろ。」
俺が返すと、男は肩をすくめる。
「まぁな。」
短い沈黙。
互いに一歩も動かない。
まるで、どちらが先に仕掛けるか探り合っているようだった。
俺はゆっくり息を吐く。
「一つ聞く。」
「神白さんを狙ってるのか。」
その言葉に男は一瞬だけ目を細めた。
だが次の瞬間には、小さく笑う。
「俺は、お前を試せと言われただけだ。」
「……俺を?」
予想外だった。
神白さんじゃない。
俺?
思わず眉をひそめる。
「理由は。」
男は鼻で笑う。
「さぁな。」
「俺みたいな下っ端には教えてもらえねぇよ。」
「言われたことは一つだけ。」
男は人差し指を一本立てる。
「黒鉄朝陽。」
「お前の実力を見てこい。」
俺の名前まで知っている。
背中を冷たいものが走る。
(誰だ。)
(何者なんだ。)
俺を調べている人間がいる。
そう考えた瞬間、昼間から感じていた違和感が一つに繋がった。
男は首を鳴らしながらゆっくり前へ出る。
「悪いな。」
「俺も仕事なんでね。」
その瞬間だった。
男の雰囲気が変わる。
空気が重くなる。
さっきまでの軽い笑みは消え、鋭い眼光だけが俺を射抜いていた。
自然体。
なのに隙がない。
これがコイツの構えなんだ。
俺もゆっくり重心を落とし、拳を握る。
男は小さく笑った。
「いい目だ。」
「少しばかり──」
「試させてもらう。」
夕陽が沈む。
次の瞬間。
男の姿が、一歩で間合いを詰めてきた。




