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休みというものは、どうしてこうもあっという間に終わるのだろう。
気づけばまた月曜日。
今日も俺は、いつもと変わらない騒がしい教室で、自分の席に座っていた。
窓際から差し込む朝日が少し眩しい。
それ以外は、特別何もない、ごく普通の朝だった。
「はい、静かにしろー。」
北条先生の声が教室に響く。
ざわついていた教室は、少しずつ静けさを取り戻していく。
先生は黒板の前で出席簿を閉じると、教卓を軽く叩いた。
「来月は中間テストだ。」
その一言で、教室の空気が目に見えて重くなる。
あちこちから小さなため息が漏れた。
特に前の席から聞こえてきたため息は、人一倍大きかった。
……まあ、誰のものかは今さら言うまでもない。
今は触れないでおこう。
「そろそろ勉強も本格的に始めるように。」
「分からないところは友達同士で教え合うこと。」
「グループで勉強会なんかをやるのもいいだろう。」
それだけ言い残し、北条先生は教室を後にした。
ホームルームが終わった途端――
「じゃあやるか、勉強会!」
案の定、一番最初に声を上げたのは黄瀬だった。
「お前、それ絶対勉強しないやつだろ。」
俺は即座に、勉強会の未来を予知する。
「いやいや、ガチでやるって!」
「ほら、神白さんもいるしさ!」
確かに神白さんは勉強で苦労している様子はない。
むしろ教えてもらう側になることはまずないだろう。
だが、その名前が出た瞬間、神白さんは小さく瞬きをして首を傾げた。
「勉強会……ですか?」
「そういうものは、あまり経験がなくて……。」
「じゃあちょうどいいじゃん。」
少し離れた席から歩いてきた青嶌さんが、自然と会話に加わる。
「せっかくだし、一緒にやってみればいいよ。」
その一言で流れは決まった。
いつものように、半ば強引に。
「日程どうする?」
「放課後に決めようぜ。」
そんな流れで、一度解散となり、青嶌さんは自分の席へ戻っていった。
一日の授業が終わる頃には、教室は昼間とは違う静けさに包まれていた。
黒板には今日の授業の跡が残り、夕日が机を長く照らしている。
俺たちは帰り支度を済ませ、校門へ向かって歩いていた。
「なぁ。」
黄瀬が後ろから声をかける。
「勉強会、いつにする?」
「土曜?」
「それとも日曜?」
他愛のない会話。
いつも通りの、どうでもいい相談。
――そのはずだった。
その瞬間。
俺は足を止めた。
(……何だ?)
理由は分からない。
誰かに見られているわけでもない。
物音がしたわけでもない。
嫌な匂いがしたわけでもない。
説明できない。
ただ――
何かがおかしい。
その漠然とした違和感だけが胸に残る。
「黒鉄くんも?」
青嶌さんが、俺の様子に気づいたように声を掛けてきた。
「……うん。」
俺は小さく頷く。
「何かいるってわけじゃない。」
「でも、妙な違和感がある。」
青嶌さんは少し考えるように目を細めた。
「私も……少し前から同じような感覚があります。」
その言葉に、俺は青嶌さんを見る。
俺だけじゃなかった。
だが、それ以上は何も分からない。
違和感でしかない。
そう言ってしまえば、それで終わる程度のものだった。
それでも、その小さな引っ掛かりだけは、妙に胸の奥へ残り続けていた。
「で、勉強会どこでする?」
黄瀬が腕を組みながら言う。
「俺ん家は無理!」
「早っ。」
思わずツッコむ。
「姉ちゃんがうるさいんだよ!」 「友達連れてくるなら事前申請して私が承認してからにしろとか言われるし。」
「承認はおりなさそうね」
青嶌さんが苦笑する。
「じゃあ青嶌さんの家は?」
黄瀬が聞くと、青嶌さんは首を横に振った。
「パパンが自宅で仕事してるからムリねぇ。」
「あー、それは邪魔できないな。」
自然と視線が俺に集まる。
「……俺?」
「黒鉄ん家!」
「いや、無理。」
即答だった。
「四人も入ったら座る場所がなくなる。」
「そんなに?」
「そんなに。」
「うわ、見てみたい。」
「見なくていいよ。」
黄瀬がケラケラ笑う。
すると、それまで黙っていた神白さんがおずおずと手を挙げた。
「あの……。」
三人の視線が一斉に集まる。
「もし皆さんがよろしければ……。」
「私の家では、だめでしょうか?」
一瞬、沈黙。
次の瞬間。
「「「え?」」」
三人の声が綺麗に重なった。
神白さんは少し不安そうに続ける。
「部屋は余っていますし……。」
「勉強できる場所もありますので……。」
黄瀬が真っ先に反応する。
「行く!」
「即決か。」
「いやだって、お嬢様の家だぞ?」
「普通入れないじゃん!」
「確かに……。」
青嶌さんも苦笑する。
「神白さんさえよければ、お言葉に甘えましょう。」
神白さんはほっとしたように微笑んだ。
「はい。では、お父様にも伝えておきます。」
「よし!決まり!」
黄瀬がガッツポーズをする。
「土曜日は神白家で勉強会!」
結局、勉強会は今度の土曜日、神白さんの家で開くことに決まり俺たちは、いつも通り別れ、それぞれ帰路につく。
何事もない一日の終わり。
……そう思っていた。
この時はまだ、その違和感の正体を誰も知らなかった。




