表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
護衛対象は、お嬢様でした。  作者: 愚兎
絡まれてる所を、助けてみました。
PR
34/124

11

工場跡地を後にした三人は、夕焼けに染まる帰り道を並んで歩いていた。

先ほどまでの激しい戦いが嘘のように、辺りには穏やかな風が吹いている。

しばらく無言が続いたあと、不意に緋乃が口を開いた。

「黒鉄。」

「ん?」

「お前……なんでそんなに強い。」

突然の質問だった。

俺は少しだけ空を見上げ、小さく息を吐く。

「強いかどうかは分からないけど……。」

「小さい頃から父さんに古武術を教わってたんだ。」

「古武術?」

黄瀬が首を傾げる。

「黒鉄流っていう流派。」

「父さんが師範だった。」

俺は少しだけ表情を和らげる。

「でも、中学一年の時に父さんが亡くなってさ。」

「それからは祖父が稽古をつけてくれてる。」

緋乃は黙って話を聞いていた。

「なるほどな。」

「だからあの動きか。」

その一言だけだった。

余計な詮索はしない。

それが緋乃なりの気遣いなのだろう。

「え、ちょっと待って。」

黄瀬が目を丸くする。

「俺、初耳なんだけど?」

「あれ?」

「言ってなかったっけ。」

「聞いてない聞いてない!」

「毎日一緒にいたのに!?」

「そんな大事なこと隠してたのかよ!」

「隠してたつもりはないんだけど……。」

「いや、普通言うだろ!」

黄瀬が大袈裟に肩を落とす。

その様子に緋乃が小さく笑った。

「お前ららしいな。」

気付けば、さっきまでの張り詰めた空気はすっかり消えていた。

やがて駅前の交差点へ辿り着く。

「じゃあ俺はこっち。」

緋乃が短く手を挙げる。

「ああ。また明日。」

「また学校でな。」

緋乃は振り返ることなく歩いていった。

「俺もここで!」

黄瀬も元気よく手を振る。

「じゃあな朝陽!」

「また明日!」

「ああ。またな。」

二人を見送り、俺も家路についた。

玄関の扉を開けると、夕飯のいい匂いが漂ってくる。

「ただいま。」

「おかえり。」

母さんが笑顔で迎えてくれた。

「お兄ちゃん、おかえり!」

夕奈も嬉しそうに駆け寄ってくる。

「今日は遅かったね。」

「ちょっと色々あってさ。」

そう笑って誤魔化し、三人で夕食を囲む。

学校での出来事を話しながら、他愛もない会話が流れる。

そんな何気ない時間が、俺は好きだった。

食事を終え、風呂を済ませる。

自室のベッドへ身体を預けると、一日の疲れが一気に押し寄せてきた。

「……眠い。」

明日もまた、いつも通りの一日になる。

そう思いながら目を閉じる。



翌朝。

目覚まし時計の音でゆっくりと目を覚ます。

制服に着替え、朝食を済ませると、いつものように家を出た。

夕奈と並んで学校へ向かう。

いつもの通学路。

いつもの景色。

昨日の戦いが夢だったかのように、街は穏やかな朝を迎えていた。

学園へ到着すると、昇降口で上履きに履き替え教室へ向かう。

教室の扉を開けると、まだ登校している生徒はまばらだった。

その中で一人、窓際に立つ青嶌さんが俺に気付く。

先に口を開いたのは青嶌さんだった。

「黒鉄くん。」

その声は昨日までとは少し違う。

柔らかさの中にも張り詰めた空気を感じる。

「昨日は問題ありませんでしたか?」

仕事として確認している。

そんな口調だった。

「うん、何とかね。」

そう答えると、青嶌さんは小さく頷く。

「そうですか。」

「ですが、伊吹様の護衛中は、あまり騒ぎを起こさないようお願いいたします。」

真っ直ぐな視線。

護衛としての忠告だった。

俺は苦笑しながら頭を掻く。

「うん、分かってるよ。」

「できるだけ平和に過ごしたいしね。」

その時だった。

ガラッ。

教室の扉が開く。

「おっはよーー!」

黄瀬がいつもの大きな声を響かせながら入ってきた。

その後ろから神白さんも静かに教室へ入ってくる。

その瞬間だった。

「おはようございまーす!」

さっきまでの真面目な表情はどこへやら。

青嶌さんはいつもの明るい笑顔へ戻り、二人へ大きく手を振る。

「あっ、黒鉄くんももう来てたんだ!」

まるで何事もなかったかのような自然な切り替えだった。

俺は思わず苦笑する。

(……切り替え、早すぎるだろ。)



ホームルームが終わり、午前の授業もいつも通り過ぎていく。

一時間目。

二時間目。

気付けば昼休みを告げるチャイムが校内へ響き渡っていた。

「よーし! 今日も中庭行こー!」

青嶌さんが元気よく立ち上がる。

俺たちはいつものように中庭のベンチへ腰を下ろし、それぞれ昼食を広げた。

しばらく他愛もない話をしていると、黄瀬がふと思い出したように口を開く。

「そういえばさ。」

「みんな部活とか入る気ないの?」

「急にどうしたの?」

青嶌さんが首を傾げる。

「いやさ、中学の頃も色々誘われたんだけど。」

黄瀬は苦笑いを浮かべながら肩をすくめた。

「スポーツって何やっても、すぐできるようになっちゃうんだよ。」

「で、できるようになると飽きちゃって。」

「結局どれも長続きしなくてさ。」

本人は軽く言っているが、普通なら嫌味に聞こえてもおかしくない言葉だ。

けれど黄瀬の場合、それが事実なのだと俺は知っている。

「だから今は部活より、みんなで放課後遊んでる方が楽しいかなって。」

「毎日何が起こるか分かんないし!」

「それ、理由になってるようで全然なってないよ。」

青嶌さんがクスクスと笑う。

「私は部活には入れないかな。」

「家のお手伝いもあるしパス。」

「神白さんは?」

神白さんは小さく微笑んだ。

「私は家業のお勉強がありますので。」

「放課後は父から色々教わっています。」

「なるほどねぇ。」

黄瀬が納得したように頷く。

そして視線が俺へ向いた。

「朝陽は?」

「黒鉄流古武術の稽古。」

俺は短く答える。

「小さい頃から父さんに教わってて、中学からは祖父が稽古をつけてくれてる。」

「だから黒鉄くんはあんなに強かったのですね。」

神白さんが感心したように頷く。

「……あ。」

俺はそこで思い出した。

「そういえば最近、道場に全然顔出してないな。」

入学してから毎日のように誰かと寄り道をしている。

祖父の顔も、ここ数日は見ていない。

「じいちゃん、怒ってるかもしれないな。」

思わず苦笑すると、三人もつられて笑い出した。


昼食も食べ終わり教室へ向かう途中で

「そうだ!」

唐突に黄瀬が立ち上がった。

「明日って学校休みじゃん!」

「みんなで遊び行こうぜ!」

その一言に、神白さんの表情がぱっと明るくなる。

「行きたいです!」

思わず身を乗り出すほどの勢いだった。

「皆さんとお出掛けしてみたいです!」

あまりにも嬉しそうな笑顔に、俺と青嶌さんは思わず顔を見合わせる。

「……。」

「……。」

お互い何を考えているのかは分かっていた。

護衛についてだ。

遊びに行くとなれば、当然それも考えなければならない。

そんな空気など知る由もない黄瀬は、すでに一人で盛り上がっていた。

「よーし! 決まり!」

「どこ行く?」

「映画?」

「ショッピング?」

「遊園地もいいよな!」

神白さんも楽しそうに頷く。

「皆さんとでしたら、どこでも楽しそうです。」

その笑顔を見ていると、断る理由なんて見つからなかった。

俺は小さく息を吐く。

「……分かったよ。」

「ただ、神白さんのお父さんにはちゃんと話を通した方がいい。」

「無断で連れ出すわけにはいかないから。」

「はい!」

神白さんは嬉しそうに頷く。

すると青嶌さんも笑顔を浮かべた。

「じゃあ明日駅前集合!」

教室にはいつもの笑い声が響いた



◇  ◇  ◇  ◇

その頃――。

人気のない校舎裏

小紫はスマートフォンを耳に当て、一人の女性へ報告を入れていた。

『……それで?』

冷たく張りのある声。

ロゼだった。

「お姉様。」

「黒鉄朝陽について、新たな情報が入りました。」

『手短に。』

「はい。」

「黒鉄朝陽の強さの理由が分かりました。」

「幼い頃から父親に武術を叩き込まれていたそうです。」

「現在は祖父から稽古を受け継いでいるとのことでした。」

『武術……。』

ロゼは興味なさそうに呟く。

「流派は――黒鉄流古武術。」

その言葉を聞いた瞬間だった。

電話の向こうが静まり返る。

「……お姉様?」

数秒の沈黙。

やがてロゼが低い声で口を開いた。

『黒鉄流……?』

『その名前……。』

『どこかで聞いたことがあるわね。』

普段のロゼからは想像もできないほど小さな独り言だった。

しかし、その声色には僅かな警戒が滲んでいた。

「ご存知なのですか?」

小紫が尋ねる。

『……いいえ。』

『思い違いかもしれないわ。』

そう言ったものの、ロゼの表情から余裕は少しだけ消えていた。

『楓。』

「はい、お姉様。」

『引き続き黒鉄朝陽を監視して。』

『それと――。』

ロゼは一拍置く。

『黒鉄流についても調べなさい。』

『ただの古武術なら構わない。』

『でも、もし私の記憶通りなら……少し厄介かもしれないわ。』

「承知しました。」

通話が切れる。

小紫は静かにスマートフォンをしまい、夕暮れに染まる空を見上げた。

「黒鉄流古武術……。」

「お姉様があそこまで反応するなんて。」

「黒鉄朝陽。」

「あなたは、私が思っている以上に面白い存在なのかもしれませんね。」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ