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護衛対象は、お嬢様でした。  作者: 愚兎
絡まれてる所を、助けてみました。
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10

その時だった。

「くそっ……!」

倒れていた男の一人がふらつきながら立ち上がる。

「まだ終わってねぇぞ!」

木刀を拾い上げ、叫ぶ。

それを合図にするように、残っていた男たちも一斉に立ち上がった。

「まとめて潰せぇ!!」

怒号が工場跡地に響く。

俺は静かに構えを取る。

緋乃は拳を握り直す。

黄瀬も再び足を開き、腰を落とした。

三人が自然と横一列に並ぶ。

誰が指示したわけでもない。

なのに、お互いの間合いを理解しているかのようだった。

緋乃が小さく笑う。

「……悪くねぇ。」

俺も口元を少しだけ緩める。

その瞬間、男たちが雄叫びを上げながら一斉に突っ込んできた。

砂埃が舞い上がる。

三人は同時に地面を蹴った。


静寂が辺りを包む。

倒れた男たちは誰一人として立ち上がれない。

荒い息だけが工場跡地に響いていた。

その時だった。

黄瀬はゆっくりと倒れている男の一人へ歩み寄る。

うつ伏せになった男の背中へ、容赦なく足を乗せた。

ギシッ。

「ぐっ……。」

男が苦しそうに声を漏らす。

黄瀬は冷たい目で男たちを見下ろした。

「……お前ら。」

「全員、つまんねぇよ。」

明るい黄瀬とは別人だった。

俺がこいつを一瞬黄瀬なのか疑ってしまうほど。

俺は思わず目を見開いた。

だが、その姿を見てすぐに口を開く。

「黄瀬。」

「……やりすぎだよ。」

その一言だった。

黄瀬の肩がピクリと震える。

「……え?」

数秒前までの鋭い表情が嘘のように消えていく。

「……あ。」

「やっべ。」

「つい格好つけちゃった。」

頭をポリポリとかきながら照れ笑いを浮かべる。

「いやぁ~、一回こういうセリフ言ってみたかったんだよね!」

「どう? ちょっと決まってた?」

俺は深いため息をつく。

「……台無しだ。」

緋乃も呆れたように鼻で笑う。

「やっぱり、お前はそっちの方が似合ってる。」

「え、マジ?」

「褒めてる?」

「褒めてねぇ。」

三人のやり取りを見て、張り詰めていた空気がようやく解けた。


◇ ◇ ◇ ◇

夕日に照らされた鉄骨の上に、一人の少女が静かに立っていた。

風に揺れる薄紫色の混じった長い黒髪。

その瞳は、戦いの始まりから終わりまで三人を監視していた。

「……なるほど。」

小紫楓は小さく呟く。

「黒鉄朝陽。」

「緋乃栄雅。」

「黄瀬王輝。」

「全員、想定以上。」

そう言うと胸ポケットからスマートフォンを取り出し、一件の番号へ電話を掛ける。

コール音は一度だけ鳴った。

『どうだったの?』

受話器越しから聞こえてきたのは、どこか余裕を感じさせる艶っぽい女性の声。

ロゼだった。

「報告します。」

「対象を確認。」

「黒鉄朝陽。武術経験者で間違いありません。」

「流派は不明ですが、我々に似た技を使い急所を正確に打ち抜く実戦型。相当鍛えられています。」

「緋乃栄雅。」

「JCC王者の名は伊達ではありません。打撃の威力、判断力ともに一級品です。」

「そして――。」

小紫は一拍置いた。

「黄瀬王輝。」

「完全な素人です。」

『素人?』

「ですが、動画だけで技術を再現しています。」

「身体能力と運動神経だけなら、この三人の中で最も未知数です。」

電話の向こうが静かになる。

数秒の沈黙。

やがてロゼが、くすりと笑った。

『面白いわね。』

『一人は武術。』

『一人はボクシング。』

『そして一人は模倣の天才。』

『思っていた以上にやり手なようね。』

小紫は静かに頷く。

「次はどうしますか?」

ロゼは迷うことなく答えた。

『試しましょう。』

『黒鉄朝陽を…あの方の邪魔な存在なのか。』

その声には笑みが混じっていた。

『少し強めの駒を送る。』

「了解しました。」

通話が切れる。

小紫はもう一度だけ三人へ視線を向ける。

ちょうど朝陽たちは笑いながら工場跡を後にするところだった。

「……黒鉄朝陽。」

「あなたは、どこまで強いの?」

その呟きは夕暮れの風に溶け、誰の耳にも届くことはなかった。

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